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第81話、おまえが(私の)パパになるんだよ⁉(その7)

「──そうか、『精神体型タイムトラベル』か、なるほど、そう来たか! うんうん、納得だね! それから君の、『結局すべては、会長さんの、中二病的妄想に過ぎないのでは?』という見解も、非常にいいぞ! 常識的に考えて、それ以外に妥当な線は無いよね!」




 僕の長々と続いた『打ち明け話』を聞き終えるや、その美人な上級生は、彫りが深く整った顔の中の、深遠なる黒檀の瞳を好奇の色に煌めかせながら、そう言った。




「……珍しいですね、部長がそのように、諸手を挙げてべた褒めするなんて」


 こういった蘊蓄話の際には、こちらの底の浅いSF的知識を、まったく容赦なく論破してくるはずの部長殿の、予想外の好評価に、喜ぶ以前に訝ってしまう、僕ことこの『異世界転生SF的考証クラブ』の、平部員の下級生。


「嫌だなあ、私のことを何だと思っているんだい、君は? もちろん、賞賛すべきものは、ちゃんと賞賛するとも」


 ……なぜだろう、この人が『当たり前』のことを言うほどに、胡散臭く感じるのは。


「まあ、何で、未来からタイムトラベラーそのものが肉体丸ごと現代にやって来る、いわゆる『物理型タイムトラベル』が実現不可能なのか、若干補足しておくと、この世界を支配している物理原則として、何よりも『質量保存の法則』があるからなんだ」


「質量保存の法則って…………あれですか? 『氷が溶けた』と言っても、物質的に消滅したわけではなく、固体だったのが、液体や気体になっただけで、『総質量』的には、何ら変わりないという」


「そうそう、そういうこと。──それでは、ここで問題です。一台の猫型ロボットが、21世紀(原作初期ヴァージョンママ)の『未来』から、20世紀の70年代の『現代』へとタイムトラベルしました、果たして未来においてロボット一台分の質量は、一体どうなったでしょうか?」


「──っ」


 ……何だと、あの小学校低学年向けの、あくまでも十歳未満の子供たち向けの、学習雑誌のおまけ漫画のロボットが、物理法則に則れば、存在し得ないだと⁉


「……さすがは、70年代の低年齢向けSF漫画ですね。あの時代のプロのSF作家は大口たたいていたわりには、誰一人として、『携帯電話の実現』を予測できなかったくらいのですので、21世紀と言えば、もはや想像もつかない『()未来の物語』だったのであり、『未来の便利道具』が山ほど存在していると思っていたんでしょうね」


「そんなんだから、絶対に実現不可能なはずのタイムトラベルを、今現在でも臆面もなく、自分の作品の中に登場させることができるのさ。この『質量保存の法則』や、先程君自身が言っていた『一つの場所に同時に二つの物質は存在できない』物理的原則等を指摘するまでもなく、『自分が生まれる前の過去にタイムトラベルして、父親を殺してしまうとどうなるか?』という例え話で有名な、『タイムパラドックス問題』の存在が指摘されて久しいと思うのだが、これを解決しない限りは、タイムトラベルの類いは絶対に不可能なはずではなかったのかね? それとも私は寡聞にして知らないが、すでにSF小説界においては、この問題は解決されているわけなのかな?」


 あ、そういえば、そうでした。


「……いや、『タイムパラドックス問題』は、現在においても、健在であられるはずですけど」


「だったら、論理的にはタイムトラベルなぞ絶対に実現不可能だし、常に『科学的論理性』こそを標榜している、SF小説の題材にするなぞ論外であろう」


 うん、あまり『某業界』にケンカを売るのはやめようね。ここはきょうのど真ん中、『京都御所』のすぐ目の前なのであり、現在のSF小説界を牛耳っている、某大学のSF研究会も近くにあるんだから。


「じゃあやっぱり、タイムトラベルなんて、会長が言っていた『精神体型タイムトラベル』しか、実現不可能ってことなんですかねえ?」


「君は私の話をちゃんと聞いていたのかね? 確かに『精神体型タイムトラベル』だったら、『質量保存の法則』と『一つの場所に同時に二つの物質は存在できない』については問題無いものの、そもそも『精神体型タイムトラベル』なんて、どうやって実現すればいいのだ? 会長殿──ていうか、会長殿の娘さんを自称している、『赤坂ヒカリ』君は、その辺のところを明らかにしているのかね?」


 ……あ。


「ほんと、精神体のみでのタイムトラベルなんて、どうやって実現しているのですかねえ。確かに部長がおっしゃるように、漫画そのもので絶対に実現不可能な、『物理型タイムトラベル』のほうは、いかにも漫画的だからこそ、まさしく低年齢向けの学習雑誌に出てくるような、ステレオタイプのタイムマシンを容易に想像できますが、『人の精神のみをタイムトラベルさせる機械』なんて、すぐにはパッと浮かびませんよね」


「そもそもたとえ『精神体型』であろうが、タイムトラベルである限り、『物理型』同様に、『タイムパラドックス問題』を完全に解消しない限りは、実現不可能なのには変わりないしな。──ただし、君のお説が正しければ、これらの問題は無くなるがね」


「へ? 僕の説って……」


 何でしたっけ?




「忘れてもらっちゃ困るよ、『タイムトラベルなんてしょせんは、中二病的妄想に過ぎないのだ』って、言っていたではないか♫」




「──いやいやいやいやいやいや、それはあくまでも、今回の会長の『私は未来から来たあなたの娘なの♡』宣言に対してのみ、述べただけでありまして、すべてのタイムトラベルや、それを扱ったSF小説に該当するわけでは無いのです!」


 僕は、抗議した〜(中略)〜だって下手したら、どこかの誰かさんがWeb小説界において、完全に抹殺されかねないし。


「でもさあ、君のその理論だったら、何とタイムパラドックスを解消できるんだよ?」


 ………………………はい?


「『論理的には、過去に戻って自分の父親を殺すことはできない』って言っても、さっき言った『質量保存の法則』と絡めれば、タイムトラベラーがタイムパラドックスを無視して父親殺害を実行したとしても、存在が矛盾するからって、『その場で消えてしまう』なんてことは無いはずなんだ」


「あ、そうですよね、氷だって消えて無くなることは無いんだから、いくらタイムトラベラーといえども、質量的に消失するわけがありませんよね」


 ……あれ? そうしたら、タイムパラドックスって、一体何が起こるんだ?




「つまり、タイムトラベラーがタイムパラドックス問題を、無理やり強行した場合、この世界では無く、元々いた『未来の世界』のほうで、()()()()()()なると思うんだ。何せ父親を自分が生まれる前に殺害するわけなんだから、物理的にはもちろん精神的にも、未来には『自分』は()()()()()()()()()ことになるのだからね。──よって、タイムトラベラーは父親を殺した()()()()()、『未来からのタイムトラベラー』ではなくなり、二度とは()()()()()()()()()のさ」




「──っ。それって、まさか⁉」




「その通り、これはまさしく君が言っていた通りに、『未来からのタイムトラベラーであったことは、()()()()単なる妄想で、()()()()ただの現代人に過ぎなかった』ことになるってわけなのさ」




 そ、そんな⁉


 ……いや、でも、確かにこの考え方だと少なくとも、『タイムパラドックス問題』を解決できるぞ⁉


「果たして当人は、本当に未来から来たタイムトラベラーだったのか、それがSF小説等でお馴染みの『時の強制力w』とやらによって、後付け的に未来人であることが妄想となってしまったのか、それとも最初から単なる妄想癖の現代人だったのか、もはや判別することなんて絶対に不可能だし、判別する必要も無いんだ。何せたとえ本物のタイムトラベラーであったとしても、父親を殺した瞬間に未来での居場所を無くすことによって、当然タイムトラベルの手段も完全に失うことになってしまい、彼が未来人である証拠は何一つ無くなってしまうのだからね」


「……つまり、タイムパラドックスを完璧に解消すると、タイムトラベルなんて単なる妄想に過ぎなくなるってわけですか?」


「うん、それはそれで、最も現実的なタイムトラベルの在り方の一つだと思うけど、私としては、もっと論理的な実現方法を提言したいところなんだよ」


「え? もっと論理的な、タイムパラドックスの、解消方法って……」




 そして目の前の美少女部長殿は、すでに本日何回目かになる、爆弾宣言をご披露した。




「──タイムトラベルや異世界転生が、可能か不可能かを論ずる以前に、私は『世界』というものは、今現在こうして目の前にある、現実世界()()()()()()()()()()()()()と思っているのだよ」

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