第71話、幼女の帝国(プロトタイプ)【前編】
──その昔、『ドイツ幼女団』という、第三帝国の下部組織が、実在していた。
ナチスドイツの、若年層を対象にした組織というと、まず何といってもかの有名なる、『ヒトラーユーゲント』を思い浮かべる方も多いであろう。
とはいえ、これはあくまでも『男子』のみを対象にした組織であり、同様な組織で『女子』を対象としたものとしては、『ドイツ少女団』が別に設けられていた。
ただし、『ヒトラーユーゲント』が10歳から18歳までの男子を対象としていたのに対して、『ドイツ少女団』のほうは14歳から18歳の女子を対象とし、13歳以下の女子に関しては更に別に、まさしく上記の『ドイツ幼女団』という組織が設けられていたのだ。
確かにこれらの組織の創設目的は、少年や少女たちに、平時においては様々な社会奉仕活動を、戦時(初期)においては後方支援活動を、『みんな大好き♡末期戦』突入後においては、男子は従軍を、女子は従軍医療や兵站供給等の補助活動を、担わせることであったゆえに、一見13歳以下の幼い女子──つまりは『幼女』を対象外とするのは、妥当なものとも思われた。
──だったらなぜ、わざわざ『ドイツ幼女団』などという、独立した組織を創ったのであろうか?
──幼い頃から、集団行動に慣れさせるため?
──早いうちから、『ナチス思想』を叩き込み、洗脳するため?
否、そんなものくらい、学校や地域社会で行えば、十分であろう。
事実、ナチスが政権を掌握して、戦争へとひた走り始めてからは、ドイツ国内のすべての教育機関を始めとする、公式か非公式かにかかわらずすべての組織は、ナチス思想一色に塗り替えられてしまい、思想犯の再教育を施すため等の特別なもの以外には、わざわざ独立した洗脳機関を設ける必要なぞ無くなったのだ。
それなのに、今すぐ何の役に立つとも思えない、幼女だけを対象にした組織を、あえて創設したのは、なぜなのだろうか?
ヒトラー総統を始めとする、第三帝国の『民意』や『思想』をコントロールしていた洗脳相──もとい、宣伝相のゲッベルスや、全国民の各種『組織化』を扇動──もとい、先導していた親衛隊長官のヒムラーたち、ナチスの上層部は、一体何を考えていたのだろうか?
……しかし大変残念なことにも、『ドイツ幼女団』の創設の目的を記録した公文書はおろか、当該組織が具体的にどういった活動を行っていたかを記した、公文書その他、民間の文献や、関係者の証言等は、一切残っていなかった。
──よって、以下の『物語』はすべて、21世紀の日本在住の、Web作家による妄言に過ぎない。
ところで皆さんは、実際に戦争に突入した後の『兵器』の在り方には、二種類あるのはご存じであろうか?
一つは当然、少しでも前線に武器を供給するために、たとえ性能が不十分でも──下手すれば、『失敗作』であろうとも、とにかく大量生産されるものであり、
もう一つは、戦争の趨勢に関わりなく、研究開発にたっぷりと時間と資金と労力とが注ぎ込まれて、いざという時の『決戦兵器』とすべきものである。
前者が、通常の銃火器や旧来のレシプロ戦闘機や大砲や爆弾だとすると、後者が、未来予知さながらの弾道予測性能を誇るジャイロスコープ付きの機銃や、ジェット戦闘機や、V2号のような大陸間弾道弾や、原子爆弾の類いである──と言えば、十分にご理解いただけるであろう。
──では、もし仮に、これを『人間の兵士』に当て嵌めるとしたら、どうなるであろうか。
確かに平時であれば、兵士の訓練に、いくらでも時間をかける余裕があるだろう。
しかしいったん戦闘状態に突入した後では、特に劣勢な国においては、兵士に十分な訓練を施す余裕なぞ無くなり、徴兵とともに即時に前線に送り続けるばかりであろうし、それでも足りなければ、学徒や年端もいかない少年等、本来なら徴兵の対象にならぬ者まで投入せざるを得なくなるのは、歴史が証明するところである。
だが言うまでもなく、これでは文字通りの『じり貧』でしかなく、けして勝機はつかめないであろう。
事実、第二次世界大戦中のドイツ空軍は、戦闘機やパイロットの質に関しては、けして敵国に劣るものではなかったが、世界最凶の全体主義国家旧ソ連空軍による、社会主義国家お得意の(主に自国民に対する)情け容赦なき『人海戦術』によって、それに対応し続けるドイツ軍においては、常に『人手不足』に悩まされることになって、使える者は誰でも前線に送らざるを得なくなり、何とパイロット養成機関の『教官』までも、ほとんど全員戦場に送ってしまったために、新人パイロットの育成が不可能となり、いくら優秀な戦闘機を大量生産しようが、それを操縦する者がいなくなるといった、本末転倒な状態に陥り、次第にすべての戦線で制空権を失っていき、世界最強とも謳われたドイツ戦車部隊も、敵航空勢力にとっては単なる『爆撃の的』でしかなくなり、ドイツ本土の工場施設や市街地共々灰燼と化していき、最後には国そのものが滅び去ってしまったのである。
それほど用兵においては、『訓練』によって個々の兵士の練度を上げることは、勝敗を分けるまでに、重大事なのである。
──だったら、もし仮に、当時世界の水準を大きく上回っていた、ドイツの超科学力を、これまでにないまったく新しい、『ぼくのかんがえたさいきょうのへいし』の開発だけにつぎ込んだとしたら、どうであろうか?
ただし、その『検体』には、青年や少年等の『男子』は、けしてふさわしくないであろう。
なぜなら、すでに窮地に追い込まれている第三帝国としては、兵士やその予備軍は、一人でも多く欲しいところであり、たとえ現段階においては兵士として使えない、10歳未満の幼児であろうと、数年後には戦場に送り出すこともけして不可能ではない男子を、成功するかどうかもわからない『危険な実験の検体』にするのは、望ましくはなかったのだ。
もちろん『老人』も、対象から外されるだろう。
え? ナチスにも『敬老思想』があったのかって? とんでもない!
彼らのすぐ下の世代が、何のためらいもなく徴兵されたように、もはや戦場に送ることのできなかった老人たちに対しても、スターリンの赤軍が向こうから帝都ベルリンに出向いてきてくれた際には、動ける者は老人も含めて、一発の対戦車砲だけを与えて、戦闘に駆り出し犬死にさせるくらいの、行き当たりばったりの有り様だったのだから、そもそも事前の戦闘訓練なんて施すわけが無かっただけなのですよ。
──となると、後残るのは、すぐに兵士としても労働者としても利用できない、幼女だけとなるわけである。
一見、幼い女の子なぞ、兵士としての育成には、向かないようにも思えよう。
しかし、この『実験』が目指しているのは、通常の兵隊などではなく、ドイツならではの超科学を駆使しての、たった一人の女の子が戦艦同等の戦闘能力を有する某『艦む○め』並みの、『超兵士』の実現なのである、何も問題は無かった。
──と言うか、最初からすべては問題だらけだったので、『検体』の性別や年齢なぞ、今更問題視されなかっただけである。
しかも計画自体が、『藁にも縋らざるを得ない』状況における、『苦し紛れ』の窮余の一策なのであり、「成功すれば儲けもの、失敗しても別に構わない」といったいい加減な有り様であって、そもそも幼女たちが戦えるまでに成長する前に、戦争自体が終わるかも知れないのだ。
そこで帝国自体も何ら出し惜しみすること無く、持てる科学力や資金をつぎ込んで、『ドイツ幼女団』改めて『スーパー幼女戦隊』の育成を邁進していったのだが──
この段階ですでに、「そもそもそんな、いかにも非現実的な『スーパー幼女戦隊』なんて、実際に実現できるのか?」と思われておられる方も、多いのではないでしょうか?
確かに、そのご懸念は、ごもっともですが、心配ご無用!
何せ、「──ドイツの科学力は世界一イイイイ!!」なのであり、
そしてこのような、『幼女スキーによる妄想爆発の中二病的世界』であろうとも、現代物理学の根幹をなす量子論の多世界解釈によれば、異世界等の平行世界として、れっきとして存在し得るのである。
そう、かつてアドルフ=ヒトラーによって創設された『ドイツ幼女団』は、栄えある令和の新時代の幕開けとともに、現代日本の一人のWeb作家の手によって、その名も『幼女の帝国』と改められて、今まさに甦ろうとしているのであった。
かつて第三帝国に、『ドイツ幼女団』と言う、素敵ネームの団体があるのを知って、勢いだけで書き殴りましたw
今回はあくまでも【プロトタイプ】ですが、後編のほうはすぐに上げますので、どうぞお楽しみに♡




