第66話、【GW編】③成長厳禁⁉ 異世界転生によるロリショタキャラ♡
「──久し振り………と、言うほどでもないか。うむ、およそ二、三週間ぶりかな? ヒットシー殿下に、アネット男爵令嬢に、オードリー公爵令じょ…………いや、ようじょ⁉」
「な、何ですの、『公爵幼女』って⁉ そんな呼称や尊称が、あってたまりますか!」
「……ふむ、Web小説なら、タイトルはさしずめ、『わたくし、悪役幼女ですの!』ってところか」
「あー、でも、それってすでに、似たようなタイトルがございますわよ、王子?」
「──ちょっと、王子にアネット先生、これはヨシュモンド王国としての、ヤマトン王国への公式訪問なのであって、タマモ女王陛下御自ら主催なされておられる、この歓迎セレモニーにおいて、何か失礼があれば、国際問題にも…………って、あ、あの、タマモ陛下、何を真面目くさった顔をなされて、無言でこちらへ迫り来ておられるのですか…………って、きゃあうんっ! ま、また、このパターンですのおおおおおおっ⁉」
……まあ、当然と言えば当然の成り行きとして、もはや我慢の限界を迎え、理性が吹っ飛んでしまったキューちゃん──もとい、タマモ陛下に、もみくちゃにされてしまう、僕こと、大陸列強ヨシュモンド王国第一王子の、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンド(十歳)の婚約者である、筆頭公爵家令嬢オードリー=ケイスキー(十五歳)改め、『ちびドリちゃん』(外見上四、五歳くらい)。
「──ひいいいいいいいいっ、どなたかあ、どなたかあ、お助けくださいましいいいいいっ!!!」
「……ああっ、何て可愛らしいのだ! 普段からブロンドのウエーブヘアに神秘的な翠玉色の瞳という、上級貴族ならではの気位の高く清楚な超絶美少女が、それらのポテンシャルはそのままにミニマム化することによって、生きた西洋人形──いや、このファンタジーワールドには、残念ながら西洋人形もフランス人形もあり得ない…………ッ! そうだ、プラ○ツだ! 生きた少女人形『観○少女』なら、構わないではないか! まさに現在の彼女こそ、一部の好事家の紳士たちの永遠の憧れ、『観○少女』以外の何物でも無かろう!!!」
……いや、確かに世界観的に、西洋人形やフランス人形も無いけれど、『観○少女』もヤバいだろう? ──主に『著作権』的に。
とはいえ、その気持ちはよくわかる。そもそも筆頭公爵家直系の悪役令嬢という、ある意味『非現実的美少女キャラ』の代表格が、前後の脈略も無くいきなり強引に幼女化されてしまったのである。
もはや理屈抜きの、『作り物的な美の結晶』以外の何物でもない、奇跡的かつ絶対的な存在と成り果てているのだ。
もちろん僕はけして、このような異常なる事態を引き起こした、謎の首謀者のことを、赦しはしない。
……だがその反面、もしまみえることがあれば、まず最初に、「グッジョブ!」と激励したくなるのも、無理からぬことであろう。
そんな邪な想いの波動に敏感に反応したのか、同じ『紳士』の一員であるタマモ陛下が、ちびドリちゃんをひたすらかいぐりながら、声をかけてきた。
「……なあ、ヒットシー殿下」
「何です、タマモ陛下」
「常々思っていたのだが、文字通り『生まれ変わり』を扱う『転生モノに』おいては当然のごとく、主人公がロリやショタの頃から始まるわけだが、その『身体は子供で、心は大人』という組み合わせこそが、何ともそそるところであり、時には主人公の逸る心に未熟な身体がついていけず、思い通りに行かなかったり些細な失敗を犯してしまったり姿を見るにつけ、じれったくも微笑ましく感じさせるものだよな?」
ふむ、完全に同意であるな。
今こそ想いを一つにして、うなずき合う、タマモ陛下と僕とアネット姉ちゃんの、やんごとなき王侯貴族の三人衆。
「それなのに、まったく理解に苦しむのだが、Web作家どもときたら、せっかく可愛らしかったロリやショタの主人公を、あっさりと成長させてしまい、それから先はお定まりの、屋敷を出ての学園生活に始まり、地方領を出ての王都における立身出世物語という、ワンパターンのストーリー展開に終始する有り様。それに即して主人公のほうも、現代日本の知識を笠に着た、妙に年寄り臭い達観さや生意気さはそのままに、どんどんと身体のほうも成長していき、もはや幼い頃の可愛らしさなぞどこにも無い、ただのこざかしい大人キャラが、ひたすら『下克上』ストーリーを演じていくのみといった体たらく、まったくお話にならないよ」
「「──ええ、ええ、そうです、その通りでございます!」」
「何で主人公たちを、ロリやショタのままにしようとする作家が、一人たりとていないのだ? 幼い子供の身体に、大人の知性が宿っているからこそ、そのギャップ萌えが魅力なんじゃないか? 『大人の身体に大人の知識』がいくらあったところで、当然のことに過ぎないだろうが? ──『下克上』も大いに結構だし、『NAISEI』をやらせてみるのも構わないし、場合によっては大戦争を指揮させてもいいだろう。しかしそれを、必ずしも『大人キャラ』にやらせる必要は無いんじゃないのか? 『ロリやショタキャラ』のままでやらせたって、別にいいではないか? 『ロリ領主』に『ロリ宰相』に『ロリ女王』に『ロリ軍師』に『ロリ将軍』…………うん、まさしく、夢のパラダイスではないか!」
「「──そうだ、そうよ、そうですよね!」」
今三人の心が、一つとなった!
──聞け、テンプレWeb作家ども!
おまえたちは、間違っている!
異世界転生作品において、主人公のロリやショタは、別に成長させる必要なぞ無いのだ!
ロリやショタのままでこそ、むしろより効果的な、『下克上』や『ざまぁ』の物語を、存分に創るがいい!
「……狂ってる、この人たち、完全に狂っているわ! 普通に考えて、人間というものは成長していくものじゃない。よって連載が進むにつれて、主人公を始めとする登場人物たちが、だんだんと成長していくことは、たとえ創作物の世界といえども、けして避け得ないことでしょうが⁉」
ロリな外見のままで、この場で唯一『大人な意見』を述べる、ちびドリちゃん。
……うん、もちろん僕らだって、わかっているさ。
でも、あまりにも作家さん方が、せっかくのロリキャラやショタキャラたちを、あっさりと成長させてしまうのが口惜しくて、つい苦言を呈したくなったんだよ!
──ていうか、ガチのヤンデレキャラから、正気を疑われてしまう、僕らって何なの?
「……しかし真面目な話、オードリー嬢を、このままにさせておくわけにも、行くまいて」
ここでようやくちびドリちゃんを解放し、一国の女王にふさわしい、威厳のある真摯な表情となる、タマモ陛下。
「もちろんです、こんなふざけたことをしでかした首謀者を、必ずこの手で見つけ出して、それ相応の報いを与えないことには、気が済みませんよ。──この件に関しては、是非とも貴国にも、ご助力を賜りたいかと存じます」
「ああ、任せておけ、できることがあれば、何でも力になろう。──いいな、宰相?」
「──ははっ!」
女王に指名されるや、すかさず頭を下げて承諾の意を表す、恰幅のいい上級貴族の男性。
……ふうん、彼が前女王の懐刀とも呼ばれた、名宰相殿か。
そんなヤマトン主従のやりとりを見守っていたら、一人の十代半ばほどの年頃のメイドさんが進み出てきた。
「──お待ちください、そういうことでしたら、是非我が姫君にも、助力をさせていただきたく存じます」
そのように平身低頭したままで言上すれば、途端に女王が何かにひらめいたような表情となった。
「そうだ、紹介がまだであったな。──レイコ、こちらへ」
「……はい、タマモお姉様」
そう言って重臣たちの陰から、和装に包み込まれた小柄な肢体を現したのは、年の頃は十歳ほどか、金髪に金目という、全身光り輝くような、艶やかな美少女であった。
──ただしその表情だけは、どこか昏く陰っていたのだが。
「この者は、我が王家の分家の出身でありながら、一族においても始祖の九尾の狐の血が、現女王である私に次いで濃く、現在王位継承権第一となっており、幼くして超常の力も、政治的手腕も、並々ならぬものを有しておるゆえに、存分に頼ってくださって構わぬぞ」
「それは頼もしい限りですね。──では、レイコ姫、何卒よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、かのご高名なる、ヒットシー殿下とオードリー様にお目もじが叶い、光栄の至りでございます」
そう言って、固く握手を交わす、二人の王族。
それをハイライトの消えた瞳で見つめる、ヤンデレ幼女ちびドリちゃん。
……いや、これもすべて、君を元通りにするためなんだから、大目に見てよ!
そんなことを胸中で思い巡らせていたからこそ、まったく気づかなかったのである。
この、今回のバカンス旅行で最初に訪れた、極東の地における出会いこそが、僕の人生においてけして忘れることのできない、大切な思い出になることを。




