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第65話、【GW編】②『やんでれようじょ』が、現れた、手強いぞ?

「──どういうことですの、これはー⁉」



 夜明けとともに響き渡る、幼い…………幼い???少女の声に、僕らは取るものも取りあえず、『彼女』の個室へと駆けつけた。


「オードリー、どうした、ドアを開けてくれ、オードリー⁉」


「──ノンノンノン! これは、何かの間違いですわ! 現実のはずがありませんわ! わたくしは夢を見ているだけですわ! 悪夢よ、去れ! カモン、真の目覚め!──ですわあ‼」


 部屋に向かっていくら呼びかけても、ドアをノックしても、明確な返事は無く、ただひたすら狂乱しきった、(やけに幼い)わめき声が聞こえるばかりであった。


 しびれを切らした僕は、王子権限で、今回のGW(ゴールデンウイーク)におけるバカンスのメインの移動手段である、この『公用機』(ラムジェット駆動の巨大全翼機)の最高責任者として、合鍵によるドアの解錠を乗務員に命じた。




「──一体、どうしたと言うんだ、オード……………リいいいいいいい⁉」




 しかし、ようやく開いた入り口から室内に踏み込み、『彼女の有り様』を一目見ただけで、今度は僕自身が我を忘れて雄叫びを上げてしまう。




 ──なぜなら、目の前には、とても信じられない光景が、繰り広げられていたのだから。




 緩やかに腰元までに流れ落ちている、陽の光のごとく煌めくブロンドヘアに縁取られた、彫りが深く端麗な小顔の中で神秘的に輝いている、翠玉色エメラルドグリーンの瞳。


 ……ここまでは確かに、すでに見慣れた『彼女』のチャームポイントそのものであったが、それ以外があまりにもおかしかった。




 いつもは泰然自若としている白磁の肢体は、なぜだか衣類をまったくまとっておらず、ベッドのシーツのみをぞんざいに巻き付けて、突然乱入してきた僕らに対して怯えるかのように震えているのみならず、文字通りに物理的に、四、五歳ほどの年格好のサイズに縮んでいたのである。




「……え、何ですの? 何でヒットシー様とアネット先生は二人して、妙に真面目くさった顔で無言のままで、こちらへと迫り来られているのです⁉ …………いや、ちょっと、本気で怖いんですけど!」


「「──か」」


「か?」




「「可愛かっわいいいいいいいいいいいっ♡♡♡♡♡」」




「──きゃあああっ、何ですのおおおおおおおおおっ⁉」




 もはや辛抱たまらず、左右からサンドイッチするようにして、小さなオードリーさん──略して『ちびドリちゃん』をもみくちゃにする、僕とアネット姉ちゃん。


 だって、本当に可愛いんだもん、ちびドリちゃんたら。


 元々美少女だったオードリーが、ロリ幼女化することによって、欠点だった、高飛車でヤンデレでメンヘラなところが、無くなった──のではなくて、むしろ高飛車でヤンデレでメンヘラなところさえも、愛おしく思えるようになってしまったのだ!


「くんかくんか、ちびドリちゃん、カワユス、ハアハアハア……」


「ちょっと、アネット先生⁉ 人の匂いを嗅いだり、荒い息を吹きかけないでくださいまし!」


「ちびドリちゃん、何か『ヤンデレ』っぽいこと、言ってみてよ!」


「王子こそ、何をおっしゃっているのです⁉」


「……愛してるよ、アネット姉ちゃん」


「……私もよ、ヒットシー殿下」




「──王子、どいて! そいつ、殺せない!」




「「うっひょー! それよ、それ! 『やんでれようじょ』、サイコー!」」




「えっ、えっ、何ですその反応⁉ 怖がらないで、むしろ面白がって喜ぶなんて、ある意味、『ガチでヤンデレキャラを殺しに来ている』ようなものではありませんか⁉」


「次っ、次は、『……私はお兄ちゃんさえいれば、それでいいの、お兄ちゃんも私だけを見て、あの女のことは忘れて…………でないと、その目を潰すわよ?』って言ってみて!」


「いやいや、それよりも、『……あの女の匂いがする、お兄ちゃん、またあの女と会ってきたの? 私だけじゃ駄目なの? 私には、お兄ちゃんしかいないのに…………今度、あの女の匂いをさせたら、生きたまま皮を剥ぐわよ?』のほうを、オナシャスっ!」


「──なぜに、『お兄ちゃん』限定ですの⁉ あなたたちの『ヤンデレ観』は、偏りすぎなのでは⁉」


「いやもう、そのいかにも『悪役令嬢』チックな、お嬢様言葉だけでも、サイコーよ!」


「そうだね! なんか見るからに小さな女の子が、無理やり背伸びしているのがビンビンに感じられて、微笑ましくてたまりませんわ!」




「──もう、いい加減にしてください! これは我がホワンロン王国はもとより、大陸全体にとっても、紛う方なき『一大事』なのでございますよ⁉」




 とうとう堪忍袋の緒が切れて、ふざけきった慮外者二人を一喝する、筆頭公爵家令嬢、オードリー=ケイスキー嬢。


 ここでようやく真摯な表情となり、目の前の重要なる問題に対して取り組み始める、ホワンロン王国第一王子と、その公私にわたる教師を自認する女性。


「……アネット姉ちゃん?」


「ええ、王子、これは間違いなく、我が王国に仇為す者によるものと思われます」


「こっちのバカンス旅行にかこつけて、最大戦力である、大陸最強かつ最凶との呼び声も高い、『悪役令嬢』を狙い撃ちしてきたか。──でも、どうやって?」


「こちらが王国の国境線に張り巡らされた、強大なる『結界』を越えたのをこれ幸いと、すかさず『弱体化の呪』を打ち込んできたものと。身体的に幼女化したのは、超常の力を激減したことによる、副作用かと思われます」


「……夜間飛行中だけ、全翼機ならではの抜群の浮揚性能を生かした、成層圏での超低速の巡航飛行が、あだとなってしまったようだな。──ふふふ、でもお陰で、今回の旅の目的が、また一つ、増えたじゃないか?」


「──と、申しますと?」




「決まっているだろう?」


 そして僕は、何が何だかわけがわからずきょとんとしているオードリーを、後ろから力を込めて抱きしめながら、改めて意を決して、高らかに宣言する。




「──僕の大切な婚約者を、こんな目に遭わせた不届き者を、草の根を掻き分けても探し出して、生まれてきたことを後悔するまで、目に物を見せてやるのさ」

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