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第62話、悪役令嬢VS九尾の狐、暁の大決戦〜オチは当然こうなるよね⁉

「──皆さん、ちょっとそこに座りなさい」


「え、で、でも、アネット()()()()、そこって、カーペットの上じゃ……」


「座りなさい」


「あ、あの──」




「──正座!」




「「「は、はい、イエス、マム!」」」




 この場における最年長にして、魔法学園の現役教師の、有無を言わさぬ怒声により、たちまち椅子やベッドから降りて、床のカーペットの上に直に正座する、僕ことこの王国の第一王子たる、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドに、同じく筆頭公爵家令嬢の、オードリー=ケイスキーと、極東最大の軍事国家の元女王陛下、タマモ=クミホ=メツボシの、この大陸指折りの高貴なる少年少女たち。




「王子の御母堂様──つまりは、王妃様から直々にご依頼を受けて、こうしてご様子を伺いに来てみれば、何ですか一体、この有り様は⁉ たとえ婚約者同士であったり、『獣化形態化』していたりするとはいえ、若い男女が一つのベッドで同衾するなんて。しかもヒットシー殿下に至っては、いまだ御年十歳ではありませんか⁉」


「う、うん、姉ちゃん、言葉にすると、確かに概ねその通りとはいえ、『同衾』なんて言う『刺激ワード』ではなく、もうちょっと婉曲な表現でお願いしたいんですけど……」


「──だまらっしゃい! 『同衾』は『同衾』でしょうが⁉」


()すみません(ソーリー)、マム!」


 何とか言い訳を試みようとする王子様であったが、普段から頭の上がらない男爵令嬢(ただしアラサー)のかつてない剣幕に、すぐさま全面降伏するのであった。


 そんな世継ぎの王子の態度に、訝しげに声を上げる、僕らの中で最もこの場の人間関係を把握できていない、元女王様(人間形態ヴァージョン)。


「お、おい、いくら言っていることは正論でも、自分の国の王子に対して、あまりにも言い過ぎではないのか? 一体貴殿は、どのような立場にあられるわけなのだ?」


 そんな至極もっともな疑問の言葉に、何ら隠し立てすることなく、あっさりと答えを返す、この場では最も身分が低いはずの、男爵令嬢。



「立場って、言ってみれば、そこなヒットシー王子の、『姉』みたいなものですけど?」




「「──姉え⁉」」




 その予想外の『意味深ワード』に、二人揃って僕のほうへと振り返る、元女王様と公爵令嬢。


 特に婚約者でありながら、そんな事実などつゆほども知らなかったオードリー嬢のほうは、とても看過できるものでは無かったようだ。


「ちょっと、王子! アネット先生が、王子の『姉なるも○』というのは、一体どういうことですの⁉」


「『姉なる○の』ではなくて、『姉のようなもの』な? 同じ『おねショタ』と言っても、あっちはより『エロ度』が高いから、間違わないでね?」


「──そんなことどうでもいいから、キリキリ白状しなさい!」


「……あ、はい。実はアネット先生は、母方のまた従姉いとこに当たって、それが縁で、僕の幼少の頃から、『年上の女性枠』として、いろいろと親身に世話を焼いてくれているんだ」


「──ちょっ、何ですかその、『年上の女性枠』とか、いかにも『ギャルゲ』とかにありそうな、いかがわしげなポジションは⁉」


「え? これって、王族においては、普通に行われている、昔ながらの制度だけど?」


「ええっ、わたくしのような、まさしく『年上の婚約者』がありながら、なぜにわざわざそのような、『ギャルゲ』的制度を⁉」


 こちらの言葉に聞く耳を持たず、むやみやたらにまくし立てるばかりの、オードリーを見かねたのか、大きくため息をつきながら、アネット姉ちゃんが会話を引き取った。


「……あのねえ、オードリーさん、むしろこの制度は、あなたのような婚約者のためにこそ、あるようなものなんですよ?」


「はあ?」




「つまりですねえ、王城の中で文字通り純粋培養で育てられておられる、王子様等の王族の方々に、あなたのような国内の大貴族の令嬢のみならず、他国の姫君なんかと、実際に婚儀を行う以前に、女性というものに慣れ親しんでもらうための、言わば『婚約者の身代わり』として、いろいろな面で王子様をリードすべき、『年上の少女』をあてがっているわけなんですよ」




「「──な、何と、王侯貴族社会においては、ガチで制度的に、『おねショタ』が認められていた、だと⁉」」




 なんか、間違った方向で衝撃を受ける、公爵令嬢と元女王様。


 ……いや、オードリーはともかくとして、なんで同じ王族であった、タマモ様が知らないわけ?


「……特に女性の若年結婚が奨励されているから、『ロリ』が容認されているのは承知していましたけれど」


「──まさか『ショタ』までも、公認されていたとは…………ッ」


「人聞きの悪いことを、言わないで! 別に我がヨシュモンド王国においては、『ロリ』も『ショタ』も、おおやけに認められているわけじゃないから!」


 そのように、あらぬ風評被害をどうにか防ごうとしていると、オードリーが厳めしい顔をして詰め寄ってきた。


「……王子、アネット先生が『女性に慣れ親しませるための年上枠』とのことですが、まさか幼少のみぎり、一緒にお風呂に入ったりはしていませんよね?」


「──近い近い! そんなに瞳孔が開きっぱなしの目で、迫ってこないで⁉ むちゃくちゃ怖いから!」


「いいから、さっさと答えろ!」


「ば、馬鹿だなあ、そんなことあるわけないだろう?」


「そ、そうですよね! 大体相手は、今ではれっきとした、担任教師──」




「『幼少のみぎり』とか、何言っているの? 今も一緒に入っているに、決まっているじゃないか?」




「「──このエロ女教師い! 教育委員会に、チクってやるぞ⁉」」




 猛然と男爵令嬢へと迫っていく、実は『地獄の番犬ケルベロス』と『大妖怪九尾の狐』。




「ちょっと、やめてよ! アネット姉ちゃんを、君たちと一緒にするんじゃない! これまでずっと姉ちゃんと、一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たりしてきたけど、嫌な思いをさせられたり、おかしな手出しをされたりしたことなんて、一度だって無かったんだからね!」




「「──ええっ、何その、超絶ショタ美少年を前にして、鋼どころかオリハルコン並みの、絶対的な自制心は⁉」」




 僕の言葉が予想外過ぎたのか、驚愕のあまり目をまん丸にして硬直する、獣の本性むき出しに、常に自制心が暴走しっぱなしの二人。


「……うぐぐ、むしろ鉄壁の自制心があってこそ、その先に真のパラダイスが待ち受けていたのですの⁉」


「──そ、そうは言っても、王子にモフられることを我慢するなんて、我には到底無理だぞ⁉」




「何をおっしゃっているのです、ご自分たちの立場を少しはお考えください! これよりは『モフり』も『同衾』も絶対に禁止とし、オードリー嬢にはご自宅に、タマモ陛下にはヤマトン王国に、即刻お帰りいただきますからね!」




「「「ええーっ、そんな、殺生なあ!」」」




 当然のごとく、不満の声を上げる僕たち。




 ──その刹那、これまで怒り一辺倒だったアネット姉ちゃんの顔に、初めて笑みらしきものが湛えられた。




 しかし、僕は知っている、それが彼女にとっては、怒りが臨界点を突破した証しだと言うことを。




「み、みんな、すぐに謝るんだ! 今ならまだ間に合う!」


「え、でも、彼女は普通の女性なんだろ? それに引き換えこちらは、『九尾の狐』に『悪役令嬢』ではないか?」


「──っ。いけない! そうですわ、忘れておりましたわ! あの方には、あらゆる異能の類いが、まったく通用しないということを!」


「なっ、本当か⁉」


「……それに姉ちゃんは、実質的には僕の護衛みたいなものだから、ありとあらゆるご護身用の格闘術を──しかも何と、相手側の出方を知る必要性から、暗殺術すらも、ほとんどすべてマスターしているしね」


「ちょっ、そんな文字通りの『化物』なんて、いかに『尚武の国の元女王』である我であろうが、太刀打ちできないではないか⁉」


「あら、陛下、国元の方に確認したところ、あなた様はいまだに女王陛下であられるそうですわよ? ──だから安心なさって、大手を振って、ご帰還なさいませ♡」


「こ、この女、力尽くで強制送還する気、満々じゃねえか⁉」


「しかも何という、『強者オーラ』でございましょう、勝てる気が、まったくしませんわ…………ッ」


「さあさあ、どうした新兵ども! そんなへっぴり腰では、百年たっても殿下の相手は務まらんぞ⁉ ここで尻尾を巻いて逃げ出すつもりか? それともガッツを見せて、本官に挑んでくるか⁉」


「「イエス、マム! 王子の攻略方法のご伝授のほど、よろしくお願いいたします!」」




「だったら、ごちゃごちゃ言わずに、かかってこんかい!」




「「──うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」




 もはや完全に『玉砕』覚悟で、アネット姉ちゃんへと突っ込んでいく二人。




 もちろん勝負の行方は、改めて記す必要なぞ無かった。




 ──こうして僕の『モフモフ♡ライフ』は、あっけなく終焉を迎えたのである。

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