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第61話、悪役令嬢VS九尾の狐、暁の大決戦⁉

 ──その日、目覚めてみると、『悪役令嬢』と『九尾の狐』が、つかみ合いの大喧嘩をしていた。




「この、泥棒狐が⁉ 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」


『貴様こそ、我と王子との「愛の巣」に、土足で乗り込んできたりして、呪うぞ⁉』




「……何やっているの、二人とも?」




 早朝からのいかにも姦しい騒ぎように、無理や目覚めさせられて、若干不機嫌そうに上体を起こしなが、ぼそりと問いかける『王子様』。


 ──そうなのである。


 あくまでもここは、弱冠十歳の自他共に認めるお子様の僕だけど、れっきとした大陸列強の一つに数えられる大国ヨシュモンド王国の世継ぎの王子である、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドの、生まれ育ったの王城内のプライベートな寝室なのであり、悪役令嬢や九尾の狐といった異形の輩はもちろん、余人が勝手に入り込んで赦されるものではなかったのだ。


 しかし当の悪役令嬢ときたら、自身の淑女としてはあるまじき行為を恥じ入るどころか、僕が目覚めたことに気がつくや、柳眉を逆立てて、食ってかかってきたのである。


「あー、王子! これは一体、どういうことでございますか⁉」


「……どういうことって、それはこっちの台詞だよ? オードリー、君は確かに僕の婚約者だし、この王国きっての公爵家の御令嬢だけど、あくまでも現時点においては何の権力も無い、単なる十五、六歳の小娘に過ぎず、第一王子の私室に勝手に入り込んできて、朝っぱらから大騒ぎしたあげくの果てに、不敬極まりなく面と向かって怒鳴りつけてくるなんて、これが愉快なラブコメではなくシリアスな『乙女ゲーム転生』作品だったら、一族郎等一人残らず極刑ものだよ?」


「──てめえ、ヤンデレな悪役令嬢を舐めるんじゃねえ! 自分の目の前で堂々と浮気されて、黙っていられるわけが無いだろうが⁉」


「浮気? 何を言っているんだ? 僕が、いつどこで誰と、浮気なんかをした?」


「しらじらしい! ちゃんとこの目で見たのですよ! わたくしがつい先ほどこの部屋に不法侵入した際に、王子とこいつが、同じベッドでさも仲睦まじそうに、抱き合って寝ていたのを!」


 台詞の途中で「こいつ」と言った際に、九本の尻尾すべて逆立てて自分を威嚇している、九尾の狐の巨体のほうを指さすオードリー。


「うわあ……」


「な、何ですか、王子? その人のことを、蔑みきった目つきは⁉」


「ヤンデレかなんか知らないけど、まさか、愛玩動物にまで、嫉妬するなんて……」


「愛玩動物⁉」


「うん、『キューちゃん』は、僕の可愛いペットだよ?」


「キューちゃん⁉」


「九尾の狐だから、キューちゃんさ。ねえ、キューちゃん?」


『キュー♡』


「おまえ、九尾の狐に、『キューちゃん』なんて愛称を付けるなよ⁉ しかも『キュー』とか返事しているし、てめえは神獣としてのプライドを、どこに置いてきたんだ⁉ つうか、そもそも狐は、『キュー』とか鳴かないだろうが!」


「……さっきから、ごちゃごちゃうるさいよ? たとえヤンデレだろうが婚約者だろうが、愛玩動物との戯れにまで文句を付けられては、堪ったもんじゃないんだけど?」


「──愛玩動物って、あくまでもこいつの正体は、年の頃二十歳(はたち)そこそこの超絶美女で、超軍事国家の血も涙もない独裁者でしょうが⁉」




「……あはは、何言っているんだい? キューちゃんは、僕にとって大切な、可愛い可愛い九尾の狐以外の、何者でもないだろう?」




「──怖っ! 神獣で大妖怪の九尾の狐を、あくまでも愛玩動物として『可愛い』と言ってのける感性もさることながら、まったく他意の無い純真無垢な目つきであるところが、むしろむちゃくちゃ怖っ!」




「うん、ようやく僕の『ケモナー』としての一途さを理解したようだし、そろそろ帰ってくれないかな?」


「何その間違った、『エッチなテイマーの変態的テイム論』は⁉ むしろ純真無垢で一途であるからこそ、悪い方向に歪みきっているよね? それに王子のほうが潔白としても、『その女』のほうはどうなんでしょうね⁉」


「いくらキューちゃんがメスだからって、『その女』呼ばわりとは、これだからヤンデレは……」


「王子は黙っていてください! ──おい、狐! そこのところはどうなんだ⁉」


『我は潔白だ』


「嘘つけ! どうせおまえのことだ、王子が『モフり』に熱中しているなかに、いきなり人間に戻って、R18的展開に持ち込もうとしたり、朝目覚めたら、可愛いペットの狐と一緒に寝ていたはずが、ベッドの隣には裸の美女が眠っていたなんていう、使い古された『ドッキリイベント』とかを、やらずにおられるはずは無いだろうが⁉」


『……正直申せば、それに似たことを、やらないでもなかった』


「──なっ、貴様あ⁉」




『だか、その日一日中、王子にモフっていただけるどころか、一言も口を利いてもらえなくなってしまい、海より深く反省して、それからはただひたすら、「一匹のペット」として生きていくことを、三千大千世界の神仏に誓ったのだ』




「はあ? そ、それって、『人間の女』であることを、捨て去るってわけか⁉」


『ああ、王子に二度とモフられないくらいだったら、命を捨てたほうがましだからな』


「……くっ、こいつはこいつで、野生の獣ならではの、嘘偽りなどまったく無い、無垢な瞳をしやがって! ──あ、いや、おまえは野生の獣でも愛玩動物でもなく、人間よりも遙かに英邁なる、聖なる神獣じゃなかったのか⁉」


『──ふっ、英邁だからこそ、「真理」に至ることができたのだよ、この世には「モフり」よりも、尊いものは無いと!』


「何がそこまで、おまえらを駆り立てるんだよ? そんなにモフりモフられるのが、いいとで言うつもりなのか⁉」


「「うん」」


「──即答しやがった⁉ もうこれ、『悪役令嬢』モノどころか、『おねショタ』でも無いよ! ……くっ、かくなる上は、わたくしも、禁忌の『第三形態』化してやる…………ッ!」


「へ? オードリー、『第三形態』化なんかできたの? でも僕、今回は別に君から理不尽な仕打ちを被ったわけじゃないから、『婚約破棄』するつもりなんて無いんだけど?」


「『第三形態』は『第二形態』とは違って、わたくし自身や王子が大ピンチに陥った時なんかの、緊急事態に対応したものなので、わたくしの意思だけで発動することができるのですわ!」


「え、これって緊急事態なの?」


「『乙女の恋路』的には、十分緊急事態ですわ! ──いざ、変身ヘンシーン!」


「えっ、ちょっ、オードリー⁉」


 どことなく昭和の香りあふれる『合い言葉』とともに、彼女の全身が目映い光に包み込まれて、みるみるその質量を増大させていく。


「──っ」


『あ、あれは⁉』




「『──地獄の番犬、ケルベロス⁉』」




 そう、その時僕たちの目の前に忽然と姿を現したのは、小山ほどもある巨体を針金のような黒毛でびっしりと覆いつくし、鋭い牙を生やした耳まで裂けた口に爛々と深紅に燃える瞳を有する、犬そっくりの首を三つも備えた、異形の怪物であったのだ。


「……首が一つだけでも、お手上げなのに、三つもあるなんて。──駄目だ、もう降参だ」


 まさしく悪魔に魅入られたようにして、ふらふらと黒い魔犬のほうへと歩み行く、無力な少年王子。


『お、王子、いけない!』


 後ろでキューちゃんが何かを叫んでいるようであったが、もう耳には入らなかった。


 自分の完全勝利を確信して、余裕の表情で舌なめずりをする魔犬。




 そしてそれから、僕の予想通りに、惨劇が繰り広げられた。




 ──ぺろっ。




 ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。




 ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。




 ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。




 ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。ぺろっ。




 僕へと躍りかかってくるとともに、大きな三つの舌を駆使して、身体中を舐め回す、ケルベロス。




「──あはは、もう、駄目だよ、『ムク』ったらあ! うわあっ、『カール』、そこはやめて! うひっ、『モロ』、わかったわかったから、少しは落ち着いて!」




『もうすでに、三つの首それぞれに、文字通りの「愛称ペットネーム」を付けている、だと⁉ しかもそれって全部、「パ○オ」系だろうが? ほんとに大丈夫か、これ⁉』


 またもやキューちゃんが何か言っているけど、完全に無視スルー


 やっぱ、ケモナーにとっては、大型犬にじゃれつかれて、顔なんかをペロペロ舐められることこそ、何物にも代えがたい至福の時だよね♡


 それが三つも首がある、ケルベロスだったら、言うこと無し(ナッシング)だよ♡♡♡




『──いやいや、何でケルベロスを、当たり前のように、自分の飼い犬(ペット)扱いしているの? もっとこう、疑問を持とうよ! 自分の婚約者の公爵令嬢が、いきなり地獄の魔犬に変身したんだよ⁉』




「『おまえが言うな、おまえが』」




 ──とにかく、こうして僕ことヒットシー王子の、『ペットたちとのモフ☆ペロ生活』は、ますます充実していったのでした、めでたしめでたし♡












 ……ていうか、これって見方によっては、JK(女子高生)の美少女がDS(男子小学生)の年頃のショタ王子を、「ヒットシーたん♡ペロペロ」しているようなものなんだけど、各種法令はもとより、倫理的に大丈夫なんだろうか?

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