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第60話、『悪役令嬢×ショタ王子』それは僕のお稲荷さんだ。(その4)

「……九尾の狐でありながら、銀毛とは珍しいですね? しかしこの霊気は本物、相手にとって不足はありません。どうやらこちらも『第二形態』になる必要がありそうですね。──ヒットシー様、不本意でございますが、『婚約解消』を、お願いいたします!」




 ──っ。『婚約解消』!




 純真無垢なる乙女を、『悪役令嬢』という名の怪物に堕とす、禁忌の言葉。




 ……そうか、そちらも、本気を出すか。


 いいだろう、たとえこの王城自体(そのもの)が崩壊しようとも、手加減無しでぶつかり合おうではないか!


 そのように、私が覚悟を決めたところ──


「……王子?」


 なぜか怪訝な表情となり、私の背後を見やる、メイド公爵令嬢。


 まさに、その刹那、であった。




 ──ぞくり。




 ……な、何だ?


 この尋常ならざる、『殺気』は⁉


 しかも、オードリー嬢がいる真正面からではなく、真後ろから──つまりは、ヒットシー王子がいるほうから、だと⁉


『お、王子?………………………………クェエエエエエエッ?‼⁉』


 突然、九尾の狐にとっての最大の急所である、九つの尻尾のうちの一本を、鷲掴みにされてしまった。


『お、王子? いきなり何を⁉ お、お放しください! ────あんっ♡』


 更に力の限り握りしめられたために、全身から力が一気に抜けて、どうっと仰向けに倒れ込む、大妖怪の巨体。


『──ひっ⁉』


 こちらを無言で見下ろす少年の目は、完全に『イッちゃって』いた。


 そして、改めて伸びてくる、見るからに「わきわき」と、白魚のようなじっをうごめかしている、両の手のひら。




 ──もふっ。




 もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。




 もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。




 もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。




 もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。もふっ。




『──ちょっ、王子⁉ あうんっ♡ そ、そこは──きゃいんっ♡ や、やめて、いひぃっ♡ ………………も、もう、タマモ、イッちゃううううううう♡♡♡』




 年端もいかない少年による、超絶テクニックの『モフり』により、完全に悶絶して動かなくなる、神獣九尾の狐。


 ただし、その恍惚たる表情(アヘがお)が示す通り、内心こころのほうは『ヘブン』状態であった。


「……ふう、久し振りに、堪能したあ〜」


 そう言うや、さも満足げに、額の汗を拭いながら立ち上がる、王子様。


 そしておもむろに、完全に呆気にとられて立ちつくしている、自分の婚約者に向かって声をかける。


「オードリー」


「──! あ、はいっ!」


「待たせて、すまないね。さあ、僕たちの王国に帰ろう」


「………………………ええと、それは構わないのですが、もしかして、『ソレ』をお持ち帰りになるおつもりですか?」


 恐る恐る令嬢が指さした、王子の肩の上には、妖力を使い切り子狐の姿と化してしまった、私が軽々と担がれていた。


「うん、別に構わないだろう? 僕だって拉致監禁されていたんだから、その首謀者を『お持ち帰り』したって」


「……えー、何でいつになくアグレッシブなんですかあ? 実はタマモ陛下のことがお好きだったとか、おっしゃるおつもりなら、わたくし『乙女心』的にい、この城からの脱出等については、協力いたしかねますよお?」


「タマモ陛下?…………何を言っているんだ? これは僕の『お稲荷さん』、ただそれだけのことではないか?」


「ぼ、僕の、お稲荷さん、って…………(ぽっ♡)」


「……何を邪なことを想像しているんだ? 僕はただあくまでも、『もふもふ』を愛しているだけだ。──神に誓って、他意は無い!」


「ええと、タマモ陛下、うちの王子が、こんなこと言っているのですが、あなたのほうは、それでいいのですか?」


『……構いません、殿下のモフりようは、まさに「ゴッドフィンガー」と呼び得るものでした。──だからこそたった今、確信したのです! 私は殿下にモフられるためだけに、この世に生を受けたのだと。人間としての「女の幸せ」なぞ、何だと言うのですか? 私はそんなものなんかよりも、殿下の「ペット」となることこそを選びます………ッ』


「……うわあ、目がマジだよ、この神獣。で、でも、このヤマトン王国のほうは、どうなさるおつもりなのです?」


『まだ子狐ですが、同じ九尾の狐である、遠縁の「レイコちゃん」が、後を引き継いでくれるでしょう。まあ、私たち神獣は、王国にとってあくまでも、『統治の象徴』のようなものでしかなく、誰がなろうが構わないのですよ』


「──こいつ、自分が女王をやめることを決めた途端、ぶっちゃけやがった⁉」


「……オードリー、これ以上ぐだぐだ言うようなら、君のほうこそ置いていくよ? 僕、一秒でも早く城に戻って、この子のことを思う存分、モフりたいんだけど?」


『うひっ、あれだけモフられていながら、まだモフり足りないと? ──ウエルカム(いいぞ、もっとやれ)ですわ、王子様♡』


「──何なの、こいつら? 本当に、それでいいの? もう『おねショタ』でも何でもないじゃん⁉ 王子ってもしかして、天性のモンスターテイマーか何かだったわけ?」


 もはや事態の急展開に完全について行けなくなり、あらぬことを口走り始める、公爵令嬢。




 何を不思議に思う、必要があるというのだ。




 ヒットシー王子が、生まれつきの、『性格や性癖が救いようがないほどアレな、異端の人外キャラ引き寄せ体質』であるのは、今や自明のことではないか。




 ──しかもその代表格こそが、他ならぬオードリー嬢自身であることは、誰もが認めるところであろうに。

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