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第55話、GO!GO!『嘘を見抜く力』(メタ編)

「……他人のどんな嘘でも必ず見破れる、スキルか」


 僕は深々とため息をつきながら、我知らずにそうつぶやいていた。




「──おやおや、どうなされたのですか、我が君♡」


「ふっ、君は、いかにもアンニュイにため息をつく姿すらも、絵になるな♡」




 なぜか独り言のはずだったのに、打てば響くように返ってくる、お年頃の男女の声。


 何とそのうちの少女のほうは、我がヨシュモンド王国の筆頭公爵家令嬢にして、僕こと王室第一王子である、ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドの婚約者でもある、オードリー=ケイスキー嬢であり、もう一人の少々年嵩の少年のほうは、大陸一の経済大国、ブロードキャッスル王国の、フージン=(サン)(ケー)=ブロードキャッスル王太子であった…………って、




「──ちょっ、何で呼んでもいないのに君たちが、王宮の第一王子の私室の中に、いきなり現れるんだよ⁉」




 そうなのである、たとえ婚約者だろうが他国の王子だろうが、仮にも世継ぎの王子である僕自身の許可を得ずに、私室の中に通されるなんてことがあるはずがないのだ。


「え? この国に、名実共に大陸最強かつ最凶の、『悪役令嬢』であるわたくしに逆らえる方が、おられるとでも?」


「あれ? 言わなかったっけ? もはや『名探偵王子』では無く、『怪盗紳士王子』となった僕にとっては、潜入できない場所なぞ、この惑星上においてどこにも無いと」




「──もう、嫌だよこいつら! もはや普通の公爵令嬢でも王子様でも無いのかよ⁉」




 堪らず雄叫びを上げる、弱冠10歳の王子様であったが、それを見てさすがに気の毒に思ったのか、15歳の公爵令嬢が取りなしてくる。


「まあまあ、ヒットシー様、わたくしもフージン王子も、何よりもあなた様のことが心配だからこそ、こうして常に様子を見にまかり越しているだけで、けして悪気なんてございませんので、そこのところはご寛恕のほどを。──それよりも、一体何をそうも憂鬱に、ため息なぞをつかれておられたのですか?」


「……『別に悪気無く常に様子を見守っている』って、まさしく『ストーカーの常套句』のような気もするが、まあいい、どうせ言うだけ無駄だろう。──それに、心配はご無用、ちょっと小説を読んでいただけだよ」


「まあ、『なろうの女神が支配する』ですか、わたくしも読んでいますよ! この連載短編集のうちでは、『王子様と公爵令嬢との健全ラブロマンス』が面白いんですよねえ♡」


「……ほう、なになに、最新話は第55話目と言うことで、『ゴーゴー、メタフィクション!』とのキャッチフレーズで、全編メタOKだって? 面白い企画だねえ」


「──あんたらのその台詞こそが、メタそのものじゃないか⁉」


 と言うわけで、今回は連載55話記念として、メタ盛りだくさんにお送りしております。


「それでヒットシー様、どのエピソードを読まれて、ため息なぞをおつきになっておられたのですか? …………まさかとは思いますが、わたくし以外のヒロインに懸想なされたとかじゃ、無いですよね?」


「──怖い、怖いよ、オードリー! いきなりヤンデレヒロイン名物の、『死んだ魚の目』なんかしないで⁉」


「……ていうかむしろ、『妖女ちゃん♡戦記』シリーズの、魔王お兄様とかじゃないだろうね?」


「黙れホモ王子、僕を『そっちの道』に引きずり込もうとするんじゃない!」


「「だったら、誰に対して、懸想をしたというのだ?」」


「何で二人とも、いつになく、『ガチの目』をしているの⁉ だから懸想なんてしていないって! 第50話だよ、第50話の、いわゆる『人の嘘を必ず見抜ける力』を扱ったやつを、読んでいたんだよ!」


「……え、と言うことは、王子、『嘘を見抜く力』をお望みなのでしょうか?」


「ま、まあね、なぜか僕の周りには、大陸屈指の危険人物ばかり集まってくるから、こういった力があったほうが便利かと思ってね」


「そんな! わたくしは愛する殿下に対して、けして嘘など申しませんわ⁉」


「……だったら、これまでの僕の『盗撮画像』のオリジナルデータは、一体どこに隠しているんだい?」


「あら、そもそもそんなものは、この惑星上に、存在しておりませんわ(ニコッ)」


「──完全に嘘じゃねえか、それって⁉」


「……しかし、そのような人の身には過ぎたる力は、結局のところ不幸しか呼ばないことは、そのエピソードを読むことで、骨身にしみたのでは無いのかい?」


「わかっているよ、それくらい。──ていうか、むしろ『人の嘘を見抜く力』なんて、現実にあり得るわけがないからね」


 そのように、僕が諦念を込めてこぼしたところ、




「あら、十分可能ですわよ? 人の嘘を見抜くことくらい」




 いきなり口を挟んできて、とんでもないことを言い出す公爵令嬢。


「──なっ、『悪役令嬢』には、そんなチートスキルが備わっていたのか⁉」


「……悪役令嬢と言うよりも、これぞ『ヤンデレ』特有の、恋の標的ターゲットに対する、『第六感』みたいなものじゃないのかい?」


 そのように男衆が、言いたい放題言うのを聞いて、珍しく普通の女の子っぽく、可愛らしく(?)頬を膨らませる、他称『ヤンデレ悪役令嬢』。


「別にわたくしの力だけによるものではありませんわ。ほら、これをご覧になってください」


 そう言って、持参したハンドバッグの中から、一台のスマートフォンを取り出すオードリー嬢。


「──いやいやいや、ちょっと待って! この作品の『世界観』的に、スマホなんて登場させてもいいわけ⁉」


「……何を今更。スマホが無かったら、わたくしはどうやって、殿下の盗撮写真を撮ったり、衛星回線を使って常時監視したり、すればよろしいのですか?」


「そ、そういえば、そうだよな…………………って、ちょっと待て、後半のは何だよ⁉」


「(無視)それで当然このスマホは、インターネットに接続できるわけですが、一体どうやって、『現代日本』のネット環境にアクセスしていると思われます?」


「そりゃあ、量子魔導クォンタムマジック技術を使って、まずは集合的無意識と接続回路を開いて、それから現代日本のインターネット網とアクセスを…………あっ!」




「そうです、この量子魔導クォンタムマジックスマートフォンは、デフォルトで集合的無意識とアクセスすることができますので、わたくしのように『悪役令嬢』の力を秘めていれば、集合的無意識の中に含まれている、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』の中から、特定の──例えば、すぐ目の前にいる人物の『思考パターン』を、スマホの画面上に表示するように設定すれば、その方が実際に発する台詞と、画面上の『思考パターン』──つまりは『心の声』とを比較することによって、嘘をついているかどうかを判断できるというわけなのです」




「な、なるほど、実際の台詞と心の声とに明確な差異が存在すれば、それはまさしく『嘘を言っている』ことになるよな」


「……まあ、そうは申しましても、集合的無意識が表示するのは、『こういったことを考えている可能性が高いよ?』といった感じに、あくまでも心の声の『候補』を、しかもただ一つだけでは無くいくつかのパターンを示してくれるだけなので、最終的に実際の台詞の『真偽』を判別するのは、自分自身の判断によるわけなんですけどね」


「そりゃそうだろうね。まあ、それでも大したものだと思うけど…………いや、ちょっと待て! オードリーがそんなチートスキルそのままのスマホを持っているということは、これまでもずっと──」




「ええ、殿下のつかれる嘘のうち、確実と思われるものについては、そのつどちゃんと把握しておりました」




「──‼」


「……殿下は、先週(わたくし)がデートを申し込んだ際に、何と言って断られたのでしたっけねえ?」


「ええと、あの日は休日だったけど、臨時で学園で補講を受けなくてはならなくなったから、また別の日に誘ってくれって……」


「それなのに実際は、担任のアネット先生──つまり、いまだ未婚の年若い男爵令嬢と、わたくしという婚約者がいる身でありながらお二人で、王都内の美術館や博物館巡りをなさっておられたんですよねえ」


「うん、アカデミックな場所ばかりだよね! これってある意味補講と言えるんじゃないかなあ? ──って、近い近い、何でオードリーさんてば、そんな『ハイライトが消え失せた瞳』になって、僕に迫ってきているの⁉」


「……大ぼら吹きの悪い子に、きついお仕置きをしようかと思いましてねえ」


「い、いや、君には悪いと思ったけど、先生のほうが先約だったわけでして…………ちょっ、フージン王子、見ていないで、助け──あれ、いない⁉ いやいや、ちょっと待って、話せばわかる! もう二度と、嘘をついたりしませんから!」


 そこでピタッと接近を止めて、完全に無表情のままで、手元のスマホを覗き込んで一言。




「──はい、それも、嘘ですね?」




「うわああああああああああああああああっ、誰だ、こんな余計なスキル、考え出したやつはあ⁉」




 その日の午後いっぱい、王城の第一王子の部屋からは、とてもこの世のものとは思えない、野獣の咆哮のようなものがひっきりなしに聞こえてきたが、あまりの怖ろしさのために、屈強なる近衛兵をも含めて、誰一人近寄ることもできなかったと言う。

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