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第51話、嘘つき少女と、壊れた世界。(その2)

 最初のうちは、他人が同時に『二つの言葉』をしゃべるのは、単に当たり前のことだと思っていた。




 何せまさかそれが、『実際にしゃべった言葉』と、『心の中で思っていること』とは、物心ついたばかりのほんの幼子に、わかるわけがなかったのだから。




 ──実際の言葉における『異なる部分』が、『嘘』であることも。


 ──心の中の言葉における『異なる部分』が、『絶対に人には知られたく無い「真実」』であることも。




 そして、僕が無邪気に行った、指摘──いや、『糾弾』こそが、


 家族の間の、


『裏切り』を、


『欺瞞』を、


『浮気』を、


『軽蔑』を、


『落胆』を、


『失望』を、


『嫌悪』を、


『殺意』を、


『恐怖』を、


『陰謀』を、


『陥穽』を、


『叛意』を、


 そして、『絶望』を、


 ──すべて容赦なく、暴き立てることによって、




 家族はバラバラになって、




 ──僕自身は、恐るべき『化物』として、捨てられてしまったのだ。




 それでもまだ十分に幼すぎた僕は、自分の『忌まわしき力』を隠すことを思いつかず、同じ惨劇を繰り返していくばかりであった。




 最初に寄る辺もない僕を拾って育ててくれたのは、生まれ故郷とは別の村の、心優しい老夫婦であったが、一年とたたぬうちに、彼らの家庭どころか村全体を疑心暗鬼のるつぼへと陥れてしまい、折悪しく攻め込んできた野盗たちによって、あっさりと全滅してしまったのだ。




 すべては、僕という『疫病神』を、助けてしまったために──。




 しかも何と、皮肉なことにも、僕自身はそんな状況下にありながら、()()()()()()()()()のだ。


 それは、野盗等にありがちな価値観として、女子供は殺すよりもできるだけ生け捕りにして、『商品』として売り払うほうが、当然のごとく実入りが多いというだけの話であった。


 僕を手に入れた奴隷商は、すぐさま労働力あるいは『好事家ヘンタイ』のコレクションとして、貴族や資産家の屋敷へと、有無を言わさず連れて行った。




 そこからは、『同じ悲劇』の、繰り返しであった。




 実際の言葉と心の中の本心とを同時に聞き取れることによって、使用人仲間はもとより、屋敷のあるじやその家族に至るまで、あくまでも秘しておくべき『嘘』を暴いてしまい、人間関係を徹底的に破壊し、醜悪極まる骨肉の争いを呼び起こし、没落させていったのである。


 事ここに至っては、自分自身の異常性や、独特の異能の力の恐ろしさを痛感し、それ以降はできるだけ力を隠すようにしたのだが、すでに手遅れに過ぎなかった。




 僕が生を受けた王国内の貴族や資産家の間でいつしか、雇えば家を滅ぼしかねない、あたかも『呪い』の具現であるかのような、奴隷の少年の噂が広まっていったのだ。




 ──しかもご丁寧に、『年の頃は十歳前後、淡い金髪に、魔の象徴である緑色の瞳をした、一見天使や妖精をも彷彿とさせる愛らしい容貌』という、僕を容易に特定できる、いわゆる『人相書き』までも添えて。




 それ以降は、文字通り『生きた心地がしなかった』。


 というのも、この『やっかいな噂』が広まってからの僕に対する扱いが、『奴隷商で買いたたかれる』とか『売られた屋敷で肩身の狭い思いをする』などと言った、生やさしいものではなく、『悪魔に魅入られた呪われた子供を、見つけ次第殺してしまえ!』であったからだ。


 新たに買い取られた奴隷商やお屋敷のご主人が、噂や人相書きから僕の正体に気づいたことを、『嘘を見抜く力』で察知するたびに、どうにか逃げおおせるものの、すでに王国内──否、大陸内の人間族の支配領域には、僕の居場所は完全に無くなり、やむを得ず、本来人間の天敵であるはずの、いわゆる『魔族』の支配する領域へと逃げ込むこととなった。


 この時初めて知ったのだが、魔族の国にも奴隷商はいて、しかも何と僕のような『人間』も商品として扱っており、人間国に奴隷の仕入れに自ら赴いたり、人間の奴隷商との間で、お互いに奴隷を売り買いしていると言うのだ。


 ……そういえば、人間の好事家の中で、エルフの少女を『性奴隷』として囲っていた者もいたことだし、あえて人間の奴隷を好んで買い取る物好きな魔族がいても、別におかしくはないだろう。


 そんなわけで思いの外すんなりと、魔族の有力者の屋敷に奴隷として売られることになったのだが、魔族社会において人間の使用人は、文字通り『人間扱いされなかった』のだ。


 そのため、たとえ僕のような十歳前後の幼子であろうと、ちょっと失敗したり御主人様の機嫌が悪かったりしただけで、死ぬほど折檻を受けることになった。


 同じ使用人たちも僕以外はみんな魔族ばかりなので、同情してくれるどころか、彼らからもあからさまに辛く当たられて、まさしく四六時中生きた心地がしなかった。




 だが、もっと決定的に違ったのは、僕の『他人の嘘を必ず見破ることのできる力』への対応であったのだ。




 人間社会以上に、生き残るためには必死にならなければならず、もはや『力』を隠しておく余裕なぞ無く、屋敷のあるじを始めとして、周囲の魔族たちの『本心』を見抜くことで、どうにかこうにか難を逃れ続けているうちに、周りの者たちが僕の『異常性』に気づき始めたのだ。


 御主人様の脅迫まがいの詰問によって、すべてを白状してしまった僕は、『危険人物』として処刑されるどころか、何とそれ以来人間の奴隷としては信じられないほどの、破格の好待遇を受けることになった。


 それというのも、元々文字通り魔の存在である魔族にとっては、僕のような周囲の人間を根こそぎ不幸のどん底に堕としかねない、『呪われた力』を持っていることは、むしろ『ステータス』とも言えて、基本的に狡猾であり常に他者を陥れようとしている彼らからしてみれば、得がたい貴重なる『武器』ともなり得るのだ。


 実際その魔族の有力者も、僕を間諜スパイとしてライバルの魔族の屋敷に潜り込ませて、屋敷のあるじの心の声を聞くことで秘密を探り出したり、あえて闇雲に周囲の者の嘘を暴いて攪乱したりといったことを行わせることによって、真の御主人様の思惑通りに、見事に没落させることを成し得たのであった。


 そんなことを繰り返しているうちに、僕自身や『嘘を見破る力』が、魔族の裏社会において、どんどんと噂になっていき、




 ──僕はついに、『運命的出会い』をすることになったのである。

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