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第4話、転生者殺人事件。(その2)

「──きゃああああっ、オットー⁉」


 真夜中のニーベルング帝国帝都ワーグナーの街外れに所在する、中堅どころの冒険者ギルト、エーベルバッハギルドのギルドハウスの一階のリビングに響き渡る、絹を切り裂くかのような女性の悲鳴。


「どうした、エリザベート⁉」

「敵襲か?」

「それとも、強盗か⁉」


 当然のごとくそれは非常ベルの役割を果たし、次々にハウスで暮らしている、ギルメンの全員が集まってくる。




 元々リビングにいた、唯一の女性ギルメンのエリザベートと、床に広がる血だまりの中に倒れ伏しているオットーと、そしてそのすぐ側で血濡れたハンマーを握りしめながら、()()()()()()()棒立ちしている、二人同様にギルメンの一人である、ヨハン以外は。




「……ヨハン、おまえ」

「ち、違う! アーダルベルト、みんな、これは何かの間違いなんだ!」

 明らかに今し方使用されたであろう『凶器』をいまだ手にしている、最重要容疑者に向かって、なるべく刺激しないように慎重に声をかけた、ギルドリーダーのアーダルベルトであったが、案の定ヨハンのほうは、何とも要領を得ないことを口走るばかりであった。

「違うって、言われてもなあ」

「確かに私も、犯行の現場そのものを、見たわけじゃないけど……」

「こんな状況を見せられて、何が違うって言うんだよ?」

 当然のごとく、疑いの視線を隠そうともしない、他のギルメンたち。

「本当なんだ、俺とオットーはこのリビングで、ただ酒を酌み交わしながら、たわいのない雑談に興じていただけなんだ! それからなぜか記憶が途切れたかと思ったら、気がつけば、オットーが血だらけで倒れていて、リビングの棚に飾られていた、半ば骨董品のハンマーを、俺が握っていて……ッ!」

「記憶が途切れただと?」

「それって、酒の飲み過ぎで、前後不覚になっただけじゃ?」

「……それで、酔っぱらい二人で口論にでもなって、ついカッとなって、やっちまったと」


「いやだから、違うって、言っているだろう⁉」


 そのように、ヨハンが堪らずに叫んだ、

 その刹那であった。




「──信じてやれよ、ったのはヨハンじゃねえ、この俺さ」




 唐突に鳴り響く、()()()()声。

 何とそれはこの場の紅一点にして、いまだ十代半ばの可憐な凄腕召喚師、エリザベート=シュタインホフ嬢が発したものであった。

「……どうした、ベス?」

「一体何を突然、言い出しているんだ?」

「おまえがオットーをったなんて、そんな馬鹿な!」

 唖然とした表情で次々に問いただす男たちであったが、いつもの清純なる乙女の顔はどこへやら、明らかなる侮蔑の笑みをエメラルドのごとき瞳にたたえながら、小ぶりの薄紅色の唇から、更なる驚愕の言葉を突き付ける。


ちげえよ、ヨハンをやったのは、エリザベートでもヨハンでもなく、この俺、ハンス様さ!」


「──なっ⁉」

「は、ハンスだと?」

「ベスッ、たちの悪い冗談はよせ!」

「そうだ、ハンスはもう──」




「おめえらに、よってたかって、なぶり殺しされたんだよなあ?」




 少女のその一言に、その場のすべての者が、口をつぐんだ。

 ──なぜなら、彼女の瞳が、本気の殺意と憎悪とで、昏く澱んでいたから。


「……まさか、おまえ、本当に?」

「ああ、アーダルベルト、おまえと二人だけで抜け駆けして行った、南の港町での夜を徹しての色街巡りは、ほんと楽しかったよなあ?」

「──っ。そ、それは、俺とハンスしか、知らないはず⁉」

「そ、それじゃ、おまえは!」

「まさか、ハンスの幽霊とでも言うのか?」

「それが今、ベスに取り憑いていると?」

「──おいっ、オットーを殺したのも、俺に取り憑いたおまえだったのかよ⁉」

 あまりに想像を絶する事態に、口々に騒ぎ立てるギルメンであったが、死者を名乗る少女のほうは、泰然とした態度を揺るがすことは無かった。

「ああ、ヨハン、おまえの言う通りだ、すべては俺の仕業だよ。──もちろん、おまえたちへの、()()としてのな」

「……復讐、だと?」

「では、やっぱりおまえは、俺たちへの復讐のために化けて出た、幽霊ってことなのか⁉」

「おいおい、この世界には、魔族やモンスターの仲間である、スケルトンやゾンビなんかのアンデッドならいるけど、死んだ人間が化けて出たりするわけがないだろう?」

「じゃ、じゃあ、おまえは、いったい……」


「あ〜あ、忘れちゃ困るなあ、この世界ってごく普通に、『異世界転生』が行われているだろうが?」


「……異世界、転生だと?」

「お、おまえ、いわゆる精神だけの、『転生体』とでも言うのか⁉」

「御名答。別にこの世界で『転生』を行うのは、現代日本人だけに決まっているわけでも、同一人物の身体に死ぬまで取り憑いている必要も無いだろう?」

「し、死者が、転生するなんて、そんな馬鹿な⁉」

「いや、アーダルベルト、死者だからこそ、転生するんじゃないのか?」

「そうだ、なんか最近の俺たち異世界人って、年々増える一方の現代日本人の転生者の影響か、転生と言うと、世界間を移動してくるやつばかりと思いがちだけど、死んだ人間が生まれ直すことこそ、むしろ転生の正当な在り方とも言えるかも」

「で、でも、ハンスはこの前死んだばかりだし、ヨハンやベスはその前から生きていたし、こんな複数の人間の間を短期間で行き来する、転生なんてあるのかよ⁉」

 そのようにいつまでたっても疑問が深まるばかりで、全員の視線が再び少女のほうへと集中する。

「くくっ、まさにこれぞ、神様の『思し召し』ってやつさ」

「……神様だと?」

「それに、思し召しって……」




「だってこんなふうに、コロコロと転生する相手を変えて、不意を突けば、どんな凄腕の冒険者だって、簡単に殺せるじゃん。──実際に、オットーにやったようにな」




「「「──‼」」」




「そうさ、これは、ありとあらゆる世界のありとあらゆる『転生』を司っている、聖レーン転生教団の御本尊、『なろうの女神』がこの俺に与えてくれた、おまえらを皆殺しにするための、ありがた〜い『贈り物(ギフト)』なんだよ」

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