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第38話、名探偵『悪役令嬢』吹雪の山荘の悲劇。

「──こんな殺人鬼が潜んでいるかも知れないところに、一緒におられるか⁉ わしは自室に帰らせてもらうぞ!」




 そう言ってよせばいいのに本当に、自分に割り当てられたホテルの個室に戻ってしまった、今回の『ドキッ、サプライズイベントもあるかも知れないよ⁉ 真冬の山荘ミステリィツアー』参加客のうちの、重鎮中の重鎮、我がヨシュモンド王国の誇る、オーサム=チャン辺境伯が、お約束通りに自室で遺体で発見されてから30分後、ラウンジに一堂に会した宿泊客たちは、皆一様に暗い表情をしていた。




 ──折からの猛吹雪により、完全にホテル内に足止め食らって、すでに一週間。


 とはいえ、ここは我がヨシュモンド王国においても指折りの、上級貴族御用達のリゾート地『ナーニワ=ミード=スージー』であり、その中にあっても最上級のこの『(ツー)10(テン)閣ホテル』においては、少々の吹雪ごときではびくともしないのは言うまでもなく、食糧その他の備蓄も十分に余裕があり、何ら問題は無いはずであった。




 しかし何と、今回のツアーの単なる企画イベントであったはずの、ヤラセの連続殺人事件が開催スタートされた途端、何と本当に宿泊客の一人、ヨシュモンド経済学界随一の論客、プロフェッサー=タッキー=ヨーコ=ザッハ侯爵が、本物の遺体として発見されたのだ。




 もちろんサプライズイベントはすぐさま取り止めになるとともに、警察等の公的機関に通報しようとしたところ、何とこれもまた犯人の仕業なのか、スマホやパソコン等の個人の所有する機器はもちろん、ホテル備え付けの衛星通信さえも含めて、すべての通信手段が使用できなくなっていたのである。


 そうなると、事件直後からラウンジに集められている、我が王国指折りの上級貴族の皆様としては、常日頃から足の引っ張り合いをしていて、少なからずお互いに恨み合っている節もあることから、疑心暗鬼の深みにはまってしまい、とても冷静に足並みを揃えて、これからも起こり得る第二第三の凶行に備えることなんかできるはずもなく、()()()()()()()の奮闘虚しく、すでにこれまでに総計五名もの、犠牲者を出してしまっていたのだ。




 ──そう、何と奇遇なことにも、今回のお遊びのはずだったミステリィツアーには、王国どころか大陸一の呼び声も高い、人呼んで『悪役令嬢名探偵』である、オードリー=ケースキー公爵令嬢と、彼女の優秀なる少年助手にして親の定めた婚約者でもある、僕こと、ヨシュモンド王国第一王子ヒットシー=マツモンド=ヨシュモンドの名コンビが、二人して参加していたのである。




「──いやいや、ちょっと待って、何をわけのわからないモノローグを僕にさせているの、このイカレ作者は⁉ 何でこの王国の第一王子である僕が、自分の婚約者とはいえ、公爵令嬢の探偵ごっこの助手なんかさせられているんだよ⁉ それに何、この格好は? 蝶ネクタイに七五三ふうのジャケットの上着はともかくとして、この真冬の真っ最中に、生足むき出しの半ズボンは⁉ もしかして現代日本の古き良き探偵小説においては、『名探偵の助手の少年は半ズボン着用のこと』とかいった、お約束でもあるわけ⁉」




 毎度のことながら、王子としての身分をガン無視された理不尽な扱いに、堪らず抗議の声を上げる僕であったが、並み居る上級貴族の皆さんのご意見は、少々異なるようであった。


「いえいえ、そんな、よくお似合いですよ、王子様♡」


「やはり、ショタ美少年といえば、半ズボンですわよね♡」


「特にあの、いかにもすべすべした、膝小僧が堪らんのう♡」


「まあ、さすがは伯爵様、わかっていらっしゃる♡」


「思わず頬ずりしたくなるよな♡」


「これもすべては、オードリー=ケースキー公爵令嬢の、卓越したセンスのなせる業♡」


「さすがは王国一の、『クレイジーヤンデレショタコン番長』閣下♡」




「「「我々への、素晴らしきお裾分け、存分に目の保養になりました、どうもありがとうございます♡♡♡」」」




「──もう、やだ! この国の上級貴族って、こんなのばっかりなの⁉ 何で皆さん、僕のことを、生肉を前にしたハイエナのような、ギラギラして目つきで見つめているの⁉ もしかして今の僕って、連続殺人事件なんか目じゃないほどの、危機的状況にあったりして? ──ちょっ、オードリー、君にしては珍しいことにも、妙に黙りこくっていないで、僕のことを助けてよ⁉ この不届きな貴族どもを、叱りつけてよ⁉」


 殺人事件そっちのけで身の危険を感じた僕は、すぐ隣のソファに座っていながらも、なぜかさっきからずっとうつむき続けている、他称『クレイジーヤンデレショタコン番長』令嬢へと助けを求めた…………ところ、




「……殺してやる」




 ──へ?




「……殺してやる……殺してやる」




「ちょ、ちょっと、何ですの、オードリー様⁉」




「……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる」




「い、一体、何を⁉」




「……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる」




「ど、どうしたのかね、いきなり⁉」




「……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる────────────────殺して、やるううううううううう!!!」




「「「──ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!」」」




 壮絶に叫び終わるとともに、初めてあらわにされた公爵令嬢のかんばせは、まさしく悪鬼羅刹そのままに、憤怒の表情に彩られていた。


 それを目の当たりにさせられて、絶叫するとともに、ソファにひっくり返るように倒れ込む、上級貴族の皆さん。




「……ヒットシー様がせっかく、私との旅行に応じてくれたのに、おいしくいただく最高のチャンスだったのに、そのためにあらかじめすべての通信網を破壊していたのに、国中の呪術師に命じて突然の大吹雪にさせたのに、まさかまさか、ヒットシー様を警戒させないように、あえてパックツアーを選んだのが、仇となるとは、どこかのバカが殺人事件なんて起こしやがって、『ドキドキ♡初体験』どころではなくなってしまうとは、二人だけのムードを創るのに邪魔になったら、場合によっては他の客たちを皆殺しにしようかとも思っていたけど、こっちがいい雰囲気になる前に、殺人事件なんかが起こって大騒ぎになっちゃ、本末転倒じゃない⁉ ──殺してやる、こうなりゃ犯人が誰かとか関係なく、私とヒットシー様以外は全員殺してから、力ずくで『乙女の本懐』を遂げてやるううう!」




 あくまでもうわごとみたいに言いながらも、明確なこれまでの犯行の自供と、これからの犯行の予告をする、公爵令嬢にして、悪役令嬢名探偵………………探偵?


「ど、どういうことだ、彼女はこの大陸一の、名探偵ではなかったのか?」


「……そういえば、彼女が携わった事件て、彼女自身と助手の王子様以外はすべて、犯人も容疑者も死んでしまうことによって、なし崩し的に事件が解決──いや、()()していたんだっけ」


「ちょっと、待て、それって、まさか⁉」


「自分と王子との二人っきりの時間の邪魔となる、無粋極まる三文ミステリィ小説的事件を、登場人物全員ひっくるめて問答無用で、物理的に亡き者にしているだけじゃないのか?」


「……と、すると、彼女は本気だということで」




「「「──このままだと、我々も皆殺しにされてしまうのか⁉」」」




 恐るべき『真相』の発覚に、顔を青くして絶句する、上級貴族の皆さん。


 ……ついに、バレてしまったか。


 そうなんです、うちの婚約者ときたら、存在自体が『災厄の権化』みたいなものだからなのか、行く先々で凄惨な猟奇的事件に遭遇するという、「おまえは金○一の孫娘か何かなのか?」と言いたくなるような、ある意味確かに(事件巻き込まれ体質としては)『名探偵』の素質十分とも言えなくもない、特に旅先で出くわしたら非常に迷惑な存在だったりするのです。


 ……それで、どうして今まで、まさにこの『真相』が表沙汰にならなかったかというと、まあご想像の通り、僕と彼女の実家である、王家と公爵家の権力によるもみ消し&情報操作によるものです。──権力を持ったヤンデレほど、怖い物はありませんよね☆


 まあ、第二形態の『悪役令嬢』においては、大陸最強の『生きた戦略兵器』ともなってしまう彼女を、処罰するどころか、気分を損ねることなんて、国王である父上にだってできやしないからな。


 うう、つまり今回も、まさにこれから、真の残虐シーンが始まるというわけか。

 あんまり見たくないんだよなあ、軽く一週間は、肉料理が食べられなくなるし。


 ──しかし、今回に限っては、展開が異なった。


 それというのも、上級貴族の御婦人の一人が、血相を変えて、オードリーへと詰め寄ってきたのだ。




「ケースキー公爵令嬢様! 私はけして、あなた様の恋路の邪魔をした、今回の事件の犯人なぞではありません! いまここで身の潔白を証明するために、私、脱ぎます!」




「「「──はあっ⁉」」」




 何だかわけのわからないことを叫ぶや、オードリー以外の全員を呆気にとらせた後で、本当に身に着けたものを全部脱ぎ去る、やんごとなき奥方様。


「……一体、何なの? わたくし、そんな見たくもないオバサンの裸を見せられても、困るんですけど?」

 それに対して、微塵も動ぜず『塩対応』を堅持する伯爵令嬢であるが、奥様(全裸)のほうは、あたかも指導教官を前にした新兵であるかのように、直立不動で宣言する。

「──いえ、これはまだ、私の身の潔白を証すためのデモンストレーションに過ぎず、これからが本番です! どうぞ、ご覧になっていてください! 今からあなた様に代わりまして、この私めが、あなた様と王子殿下以外の慮外者どもを、ぶち殺して差し上げますので!」

「ほう?」




「「「いやいやいや、何そのいきなりの大量殺害予告⁉ もしかして、あんたが真犯人だったの⁉」」」




 至極当然のように突っ込む、他の宿泊客たちであったが、奥様(全裸)のほうは、その狂態に反して、あくまでも冷静に、『驚愕の答え』を返す。




「ふん、馬鹿共め。たとえ私が真犯人であろうがなかろうが、今更おまえらを皆殺しにしようがしまいが、オードリー様の、『王子様との二人っきりの時間を邪魔された怒り』は納まらないであろう。──だから私は、自分の身の潔白を示す意味だけではなく、これ以上オードリー様御自らのお手を汚させて、ご気分を害されるのをお止めするために、自ら汚れ役を買って出ただけの話よ!」




「「「なっ⁉」」」

 ……た、確かに、そういう考え方も、あり得る…………………………のか?

「ふむ、そのほうの考え、気に入ったぞ? そこのゴミどもを始末した後、ホテルの布団部屋にでも身を潜めて、我と王子の逢瀬を邪魔しないでいるのなら、命ばかりは助けてやろうぞ」

「──ははあ、有り難き幸せ♡」

 ……あれ、何か、織田信長と木下藤吉郎の掛け合い(コント)でも見ているような気がしてきたけど、うちの婚約者って、いつの間にか、『第二形態』になっていない?


 しかしそのやりとりを見ていて焦ったのは、他の宿泊客たちであった。


「し、しばしお待ちを! そんなことなら、私も脱ぎます!」

「もちろん、私だって、身も心も潔白でございます!」

「今からその証しを、ご覧に入れましょう!」




「「「──つまり、我々全員でガチで殺し合って、生き残った者が『潔白』ということで、どうでしょうか?」」」




 そう言って、着ているものをすべて脱ぎ去ってから、すり寄るようにしてにじり寄ってきて、オードリーの足元に平伏する、上級貴族(全裸)の皆さん。




「……くくく、まあ、それも良かろう。吹雪の中でホテルに閉じ込められ続けて、散々退屈していた身としては、いい余興だ」




「「「ははあ、有り難き、幸せ!!!」」」




 ……あるぇ? 本格ミステリィの代表的イベントの『吹雪の山荘』だったはずなのに、いつの間にか『バト○ワ』的デスゲームになってしまったぞ?


 こうして宿泊客のほとんど全員が、完全に狂気に冒されてしまった中で、(これでも)比較的冷静さを保っている公爵令嬢が、一人だけ流れに乗り遅れていまだ呆然と立ちつくしている、年の頃四十前後の痩せぎすの男性である、最後の宿泊客に向かって、泰然と語りかける。

「──それで、おまえは、参加しないでいいのか?」

「えっ、あ、うえっ、いや、そのう……」

 なぜだか、異様に慌てふためいて、口ごもる、唯一着衣の宿泊客。




「──そりゃあ、他のやつらみたいに、咄嗟に身の潔白を訴えようとはできないよなあ? 何せ、おまえこそが、『真犯人』なのだからな」




「──っ」

 ええっ⁉ 何それ。

 驚愕し、完全に言葉を失う僕や他の招待客を尻目に、いかにも観念したかのように、苦渋の表情で語り始める、他称『真犯人』。




「……くっ、さすがだな、『悪役令嬢名探偵』よ。これまでのすべてが、私を真犯人としてあぶり出すための、芝居だったというわけか」




 あ、何だ、そうだったのか? そりゃそうだよね! 仮にも公爵令嬢が、自分以外の上級貴族たちを、いっぺんに十数名も、殺したりなんか──

「え、いや、別に芝居では無いぞ? ──うん、めでたく真犯人も判明したことだし、おまえたち、やっておしまい」




「「「合点でえ!!!」」」




「ちょっ、おまえら、よせ! せめて、裁判を、受けさせ…………ぎゃああああああっ⁉」




 猛吹雪に閉ざされた山荘の、広々としたラウンジにて響き渡る、中年の男性の絶叫。




 こうして恐るべき連続殺人事件は、またしても『悪役令嬢名探偵』の手によって、(無理やりに)幕が引かれたのであった。




「……さあて、もうじき雪も止みそうだし、帰り支度でも、しようっと(僕)」


「あら、むしろ事件はこれからですわよ? ──そう、『男と女の秘め事』という、事件はね…………なんちゃって、きゃっ♡(オードリー)」




 いつの間にか『乙女モード』に戻っていた婚約者が、何だか意味深なことを宣うや、顔を赤らめ両手で覆う………………いや、これって本当に、『乙女のなせる業』か?




 ──だって、僕らのすぐ側では、今も『真犯人の解体ショウ』が、絶賛継続中だしね☆

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