第346話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉【番外編・その1】
──中つ国、少数民族ウィット族、コミー教化&労働搾取地区。
「……チッ、内鬼どもめ、キリが無い!」
すでに『作戦』が始まってから、およそ3時間。
僕こと、この魔導大陸一の召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルと、その僕である軍艦擬人化少女のキヨは、西側の大陸に所在する『自由主義商業ギルド』の依頼を受けて、ウイット地区の独立の足がかりを築くために、中つ国の隷属国である北金半島王朝から、この大規模な運動靴工場へと派遣されてきた、大勢の獄卒である『内鬼』どもを討伐して、奴隷として酷使されているウイット人を救出する任務に当たっていた。
──しかし、
「くそっ、次から次に、湧いてきやがって!」
どこかに、この東エイジア内陸部と極東の半島部とを結ぶ、『転移門』でもあるのか、いくらなます切りにしようが、叩き潰そうが、バラバラに爆散させようが、完全にコミー思想に洗脳された奴隷民族兵たちは、死を恐れること無く襲いかかってきたのだ。
なぜなら、彼らが履いている、ピンク色の厚底の運動靴は、
これぞ中つ国の奴隷兵、『内鬼』どものトレードマークにして、
いと尊き中つ国コミー党首様に対して、少しでも不敬極まる反逆行為をした途端、自爆するようになっていたのだから。
「……そりゃあ、奴隷兵どもも、必死に戦うってものだよな」
最初、キヨだけを単独で潜入させての奇襲で、工場を警備していた内鬼どもに大打撃を与えるのに成功した後で、商業ギルドの冒険者たちにウイット人労働者を安全地帯へと連れ出してもらってから、僕はキヨとともに内鬼どもの追撃の足止めを引き受けたのだが、まさかまさかの不測の事態が続いたせいで、ここまで手こずってしまうとは。
……攻撃のほうは、主に『無限活動』が可能な駆逐艦娘のキヨが担ってくれているものの、防御や掩護やタゲ分散等々の、『後衛』担当の僕のほうが、そろそろ魔力切れでへばってしまいそうであった。
いくら『人海戦術』がお家芸の中つ国とはいえ、まさかこれほどとは。
いやはや、すっかり甘く見ていたぜ。
……さて、どうしたものか。
ウイット人たちは解放済みとはいえ、キヨに大規模砲撃をやらせて、彼らの大切な住み処を、内鬼どもの穢れた血肉で染め上げるわけにはいかないしなあ……。
──と、そのような僕の内心の葛藤を、僕ならではに目ざとくくみ取ったかのように、周囲に25ミリ機銃を乱射しながら声をかけてくるキヨさん。
「提督、物理的では無く魔術的に、完全に聴覚を遮断してください」
え。
「……な、何だよ、キヨ。聴覚を遮断しろって?」
「これよりすぐ、一気に片を付けますので、お早く」
「えっ、わっ、熱っ……………………………………くない?」
キヨが『最後通牒』を突きつけるとともに、両耳のほんのすぐ側で、突然青白い炎が灯って慌てふためいたものの、実はそれは海の鬼火である『不知火』であって、熱さ等の物理的影響は皆無でありながら、周囲の音声を完全に聞こえなくさせたのであった。
……あいつ、一体何を、するつもりなんだ?
──そして、キヨは、
こちらに一度、にこりと微笑んだ後で、
おもむろに、周囲の駆逐艦『清霜』としての、兵装を消し去るや、
両手を、口元の両側に当てて、
大きく唇を開いて、何かを叫ぶようにして、前のめりになった途端、
──忌まわしき搾取工場の建物もろとも、内鬼たちが盛大に吹っ飛ばされたのであった。
………………………………え。
もはやただの一匹も、動ける個体が見つからず、補充の内鬼も現れないことから、ここにいる個体はすべて無力化するとともに、転移門の類いも破壊してしまったようであった。
あまりにも予想外の惨状を、つい我を忘れて見つめていると、いつの間に聴覚が戻っていたのか、我が僕がいかにも誇らしげに、真っ平らな胸を張りながら声をかけてくる。
「どうです、提督、すごいでしょう?」
「──すごいも何も、一体何をやったんだ、おまえ⁉」
「別に、軍艦擬人化少女として──いえ、軍艦として、極当たり前なことをしただけですが?」
「……軍艦にとして、極当たり前のこと、って」
「『汽笛』、です」
は?
「……き、てき?」
「ええ、一応私は駆逐艦ですので、汽笛を鳴らすことができるのです。──さて、大日本帝国海軍の一等駆逐艦の汽笛を、極至近距離で聞かされたら、果たしてどうなるでしょうね?」
──そんなの軽く見積もっても、鼓膜がぶち破られるだろうが⁉
「で、でも、汽笛ごときで、内鬼たちが吹っ飛ばされたり、工場の建物が転移門もろとも崩壊してしまうのは、普通あり得ないんじゃ無いの?」
「普通の艦船なら、そうでしょう。──しかし、私たち軍艦擬人化少女の汽笛は、超強力な『音響兵器』として、レベルアップされておりますので」
……まあ、そりゃ、そうだな。
軍艦擬人化少女ってのは、軍艦から『船』である部分を除いて、純粋なる『武力』を、『少女』の身体に詰め込んでいるわけだから、もしも『汽笛』が備わっていたとしても、海上航行中の注意喚起のためなぞでは無く、100%『武器』として使われるべきだから、『音響兵器』化は、妥当な処置と言えるだろう。
──うん、たとえ何らかの『底上げ』が施されていなかったとしても、都市部の休日の繁華街等で、いきなり駆逐艦の汽笛が鳴り響いたりしたら、近くにいる大勢の人々の聴覚器官を物理的に損ねたり、それ以上の広範囲の人々に突然のショックを与えることで無力化できたりといったふうに、れっきとした『兵器』としての効果も求められるであろう。
……まさか、『汽笛』まで、武器にできるなんて。
恐るべし、軍艦擬人化少女。
本編のクライマックスにおいて、いたずらに敵に回さなくて、本当に良かったぜ。




