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第342話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その109)

「……まさか、『軍艦擬人化少女』の最も強力な『武器』は、『軍艦』であること()()()()、むしろ『少女』であることだったとは」




 その時私こと、聖レーン転生教団異端審問第二部特務司教である、ルイス=ラトウィッジは、眼下の運河において展開されている、『奇跡』そのままの光景を見ながら、思わずつぶやいた。




 無数の、同じ姿形をした、幼い少女たち。


 そんな彼女たちに四方八方をすべて取り囲まれて、完全に逃げ場を失っている、一人の青年。


 ──そして、そのすぐ面前に立ちはだかっている『彼女』だけは、周囲の少女たちと顔形はそっくりそのままであるものの、その一糸まとわぬ肢体は、すで二十歳はたち絡みまで成長しており、女性としての色香と毒気とを、存分にかもし出していたのであった。




 軍艦擬人化少女としての、『最終決戦モード』。




 それこそは、己の『素体オンナ』を最大限に利用して、『人魚姫にとっての王子様』である『提督』を篭絡し、自分の物にするためのものであった。




「……とはいえ、もはや勝負はついたも、同然でしょうねえ」


 何せ現在の彼女は、自分の声と引き換えにして魔女から与えられた、『王子様を堕とすためだけに特化した女性の身体』、そのものであるのだ。


 いくら『彼』が、この魔導大陸きっての召喚術士兼錬金術師であろうとも、お年頃の成年男子であるのには違いないのだ。


 あのような絶世の美女に迫られて、抗う術なぞ無いであろう。


 ──事実、


 今や『彼女』──かつての大日本帝国海軍の誇る、一等駆逐艦夕雲型19番艦『清霜』の擬人化少女の、『キヨ』嬢は、自信満々の笑顔で、「もはや言葉なぞ必要無い!」とばかりに、無言でアミール氏へと迫りつつあっていたのだ。




 ──まさしく、海底の魔女との取引のために、声を奪われてしまった、『人魚姫の物語』そのままに。




 そしてついに、すぐ目と鼻の先で立ち止まった『彼女』の白魚のごときか細いじっが、『彼』の両頬に絡みつこうとした、まさにその刹那──




「……おい、いつまで、そのだんまりを、続けるつもりだ?」




 一瞬にして、世界そのものが、凍りついた。


 何せ、キヨ嬢の指先さえも、完全も停止したくらいだから。


「錬金術師として、自分の『創造物』が勝手に成長してしまったりして、言いたいことが無いことも無いが、何も無い空間に自由自在に大砲や機関銃を好きなだけ召喚できる、軍艦擬人化少女に物申しても今更だし、少なくとも『自分の意思』くらいは、はっきりさせてもらいたいところだけど?」


 ………………………………意思?


 ただでさえ、人ならぬ軍艦擬人化少女でありながら、


 今や世界すらも滅ぼしかねない、『最終モード』ともなった存在かのじょに対して、


 ここに来て、『意思』を問うって…………。




 あの召喚術士にして錬金術師でもあり、そして何よりも軍艦擬人化少女のあるじである『提督』の青年は、一体何を言い出したのだ?




「……あのなあ、前から思っていたんだけど、おまえらの世界の『人魚姫の物語』って、全然納得がいかないんだよ」


 へ?




「人間になりたいから、魔女に『声』を差し出したって、完全に本末転倒じゃ無いか? おまえは人間のことを、根本的に誤解している──いやむしろ、根本的に『馬鹿にしている』よ。おいおい、まさか本当に、『男なんて生き物はみんながみんな、美人に弱くて、こうして裸で迫ればイチコロよね☆』とか、思っているんじゃ無いだろうな? ──舐めんじゃねえ! 人間というものは、そんなに単純では無いんだよ? そんな『身体の繋がりさえあればいいの♡』なんてことになったら、動物も同然じゃん? 忘れてもらっちゃ困るんだけど、人間には『言葉』というものが有るんだよ。──そう、『自分の意思』というものを、相手に伝えることのできる、『魔法のアイテム』がな。それなのに、最も大切な『声』を手放してしまって、どうする? そりゃあ王子様にしたって、人魚姫を選んだりするもんか。先天的な異状でも後天的な病気でも無く、自分から『意思を伝えること』を放棄した、人間というものをまったく理解せず舐め腐った、てめえのような人魚姫なんかはなあ⁉」




『──‼』


『提督』の言葉を聞くや否や、一気に顔面蒼白となる、『キヨ』嬢。


 それも、当然であった。


 何せ、己の最も愛する者から、完全に拒絶されてしまったのだから。


 ついにボロボロと、真珠のごとき涙を大量にこぼし始める、黒水晶の瞳。


 もはやそこには、余裕綽々の大人の女の威厳なぞ、微塵も無かった。




『……どうすれば、私は一体、どうすればよろしいのですか⁉』




「どうするもこうするも、おまえの本当の意思を、言ってみろ!」


『……私の……本当の……意思?』


「おまえは、本当は、どうしたいんだ⁉ 僕に対して、何を求めているんだよ⁉」




 それはまさしく、王子様からの、『最後通牒』であった。


 下手すると、海の泡と成り果てて消え去りかねない状況のもと、彼女は意を決して口を開いた。




『……私はただ、提督アドミラルのお側にいたいだけです。ずっとずっと、一緒にいたいだけなのです』




 魂を振り絞るかのようにして、どうにかそれだけをつぶやくや、両手で顔を覆って、本格的に嗚咽を上げ始める。




 そして、周囲の無数の瞳が注目する中で、魔導大陸にお住みのアミール=アミハルさんが、返した答えはと言うと。




「馬鹿か、おまえは」




『「「は?」」』




 あまりにも予想外の言葉に、思わず呆気にとられる、キヨ嬢と、私ことルイス=ラトウィッジと、戦艦娘の金剛嬢の、三人。




 ──ただし、当の発言者の青年自身はと言うと、先程までとは打って変わって、いかにも穏やかなる慈愛の表情をしていたのだ。




「……ったく、おまえは僕にとっては、『永遠に制作途中の創造物』なんだから、錬金術師としても召喚術士としても、けして手放すはずは無いじゃないか?」




『あ、提督アドミラルう〜!!!』




 一瞬にして、哀しみの涙を嬉し涙へと切り替えて、喜色満面でアミール氏の胸元へ飛び込むキヨ嬢。


 妖艶な大人の肢体のほうも、みるみるうちに、本来の小柄で華奢なものへと変化メタモルフォーゼしていく。




「うんうん、やはりキヨは、こうでなくっちゃ♫」


「ごめんなさい、提督アドミラル、本当にごめんなさい!」




 いつまでもいつまでも、力の限り抱きしめ合う、主従の二人。


 これにて『一件落着ハッピーエンド』かと思われた、まさにその時、




 余計な一言をぽつりとつぶやいたのは、キヨ嬢と同じ軍艦擬人化少女である、金剛嬢であった。







「……これってもしかして、提督さんが、ロリ○ンなだけじゃないでしょうね?」







 ──おいっ、やめろよ、ぶち壊しじゃねえか⁉

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