第338話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その105)
聖レーン転生教団聖都『ユニセクス』中に張り巡らされた、大運河網をうめつくしている、無数の駆逐艦娘『キヨ』たちのまっただ中に放り込まれた僕が、その時まざまざと見せつけられたのは、
──無数の『人魚姫の物語』、であった。
『うふふふふふふふ』
『あははははははは』
『くすくすくすくす』
耳に飛び込んでくる、涼やかな笑声。
視界を埋め尽くす、まったく同一の可憐な顔。
──いや、違った。
見かけはまったく同じだというのに、個々の『キヨ』たちは、どことなく『違って』見えたのだ。
見かけが同じなのに、違和感があるということは、つまり、
──『中身が違う』と、言うことか。
なぜ、同じ『キヨ』なのに、『中身』に違いがあるのか?
それは彼女たちの『中身』が、集合的無意識を介して、無数の並行世界から導かれているからであった。
以前、現在絶賛放映&配信中の『ひぐ○しのなく頃に業』について、いっそのこと、これまで体験したすべての世界線から梨○ちゃま自身を召喚して、敵の特殊部隊を無数の幼女軍団で圧倒すればいいんじゃないか、と言ったが、これは別に『数によって質的に上位の相手を圧殺する』と、言いたかったわけでは無い。
一番の『強み』は、その『無数の梨○ちゃま』が、同じ梨○ちゃまでありながら、それぞれ『中身の異なった』梨○ちゃまであることなのだ。
別々の世界線の梨○ちゃまの精神体──すなわち、『記憶』をインストールしていると言うことは、それぞれの梨○ちゃまの、『失敗の記憶』を有していると言うことである。
失敗の記憶なんて、いくつあっても何の意味が無いと、思われるかも知れないが、ここで重要なのは、『それぞれが別々の失敗の記憶』であるところなのだ。
──これがどれだけ有用なことなのか、非常にわかりやすい例を挙げると、将棋の対局においてここ一番の勝負に際して、およそ100通りの選択肢があったとして、すでにそのうちの90通りについては、『負け筋』であることがわかっているとしたら、後の10通りほどの選択くらいなら、それなりの棋力があれば、容易に『唯一の正答』にたどり着けて、もはや勝ちは決まったも同然とも言えるのだ。
これはもちろん、『ひぐ○し』世界においても有効で、どういうことをしたらどのキャラが『雛○沢症候群』を発症して、すべてがご破算になってしまうのかを知りたい場合、もしも可能であれば『無限のトライ&エラー』を繰り返すことこそが非常に有効であり、失敗の数だけ選ぶ選択肢が絞られてくるわけで、特に『トラップ』に長けた沙○子ちゃんが、以前の敵の特殊部隊との戦いにおける、度重なる失敗の記憶をすべて有している場合、どんな精鋭部隊であろうが必ずひっかけることのできる、『究極のトラップ』を仕掛けることさえも、けして不可能とは言えなかった。
一介の小学生が、文字通り国家レベルの特殊部隊に通用するような、トラップを仕掛けることなぞ、本当に可能なのかと言うと、そもそも沙○子にとっては雛○沢は地元であり、それに対して特殊部隊側は、ただでさえ作戦行動が困難な山中や森林地帯においては、圧倒的に不利な状況にあり、むしろ非力な小学生だからこそ、トラップ戦は非常に有効と言えて、しかもその上本来なら絶対不可能なループ現象によって、何度も失敗の経験を積むことができるので、敵の作戦行動のパターンがあらかたつかめて、どんどんとトラップの精度も上がっていくというものであった。
事実、旧作アニメ版においても、初回では十分なトラップを施すことができずに、無残な敗北を喫してしまったものの、次の機会にはより精度の高いトラップを実現できて、敵の精鋭部隊を完全に翻弄し、最終的勝利に大いに貢献したことは、『ひぐ○し』ファンの皆様にとっては、良くご存じのことであろう。
これは『ループ系作品』全般に言えることで、失敗を重ねることによって、むしろ勝機を得ていくことこそが黄金パターンで、それは『ひぐ○し』のみならず、『シ○タゲ』や『ハ○ヒ』や『リゼ○』等をご覧になれば、十分ご理解いただけると思われた。
……え、『ま○マギ』の某魔法少女は、どうなのかって?
ま、まあ、いくらループを繰り返しても、ほとんど成長が見られない『ポンコツ』キャラも、たまにはいますよ、あはははは。
……そういや、現行の『ひぐ○し』完全新作『業』においても、まだループ二巡目だというのに、すでにブチ切れてシナリオを放り出そうとしている梨○ちゃまも、どことなく『ポンコツ臭』が感じられるのは、果たして気のせいであろうか?
しかも一説によると、今回のループの主体…………『シ○タゲ』風に言うと、『リーディングシ○タイナー』能力者に当たるのは、これまでの梨○ちゃまでは無く、何とまさに『トラップの鬼』であるところの、沙○子ちゃん御自身では無いかという説が、まことしやかにささやかれているのだ。
明確に『リーディングシ○タイナー』能力が無く、あやふやなループの記憶のみでも、特殊部隊を圧倒した、自他共に認める『罠の女王』なのである、もしも敵に回せば、ポンコツ巫女姫の梨○ちゃまごときでは、勝ち目はまったく無いであろうw
──おっと、ここいらでいい加減、話を『人魚姫』に戻すとしよう。
そうなのである、
『人魚姫の物語』も、同じことなのだ。
本作を始めとするこの作者の諸作品において、何度も申している通り、おとぎ話だろうがWeb小説だろうが、一つの物語があれば、それと対応するそっくりそのままの『現実世界』が存在する可能性があることは、物理学の根本原理である量子論の多世界解釈によって論理付けられている。
なぜなら、世界と言うものは可能性の上では、あらゆるパターンのものが、最初からすべて揃って存在しているので、現在過去未来を問わず作成され得る無数の創作物に対応する、そっくりそのままの無数の現実世界も、最初からすべて揃って存在していることになるのだから。
よって、『人魚姫の物語』が一つでもあれば、現実にも人魚姫が存在する可能性が生じ、『人魚姫の物語』が無数にあるとしたら、無数の人魚姫が存在することになるのだ。
もちろん皆さんよくご存じの通り、『人魚姫の物語』には『お定まりのパターン』というものがあって、作品によって少々差異は見られるものの、本筋はおおむね似通ったものだろう。
──そう、すべての物語において、人魚姫は王子様との愛に敗れて、『海の泡』へと成り果てるのみであったのだ。
実際、『キヨ』の群の中に放り込まれて以来、僕はずっと『人魚姫の物語』を追体験させられており、彼女たちの実らぬ恋への渇望と悲哀とを、我がことのように感じ続けていた。
──ここは、寒いの。
──海の底は、昏いの。
──独りっきりは、寂しいの。
──お願い、助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──助けて。
──お願い、王子様、助けて、ちょうだい!
……そうなのである、
これはけして、『軍艦擬人化少女』などと言った、超常の存在を実現するために、『人魚姫の物語』を利用したのでは無く、
人魚姫のほうが、唯一絶対の悲願である、『王子様への愛』を成就するために、物語のアレンジ案の一つとして、軍艦擬人化少女となることを選んだだけなのである。
ところで、軍艦擬人化少女にとっての『王子様』とは、『誰』のことであろうか?
そう、『提督』──すなわち、僕のことであったのだ。




