第334話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その102)
『──大陸風ウイルス、作戦全海域において、再び変化開始!』
『無数の「螽」及び「紅いオーク」、それに巨大なる「黄色い熊」となり、侵攻再開!』
『最前線の駆逐艦型軍艦擬人化少女の防衛網、突破されました!』
『海防艦型及び潜水艦型、潰滅!』
『航空母艦型麾下の航空部隊、すでに半数以上を損耗!』
『敵の尖兵の攻撃、軽巡洋型及び重巡洋型はもちろん、最後衛の戦艦型にまで及んでいます!』
『──このままでは、全戦線とも、あと1時間も保ちません!』
『この対馬最終防衛ラインが破られれば、本土は丸裸です!』
『──総司令部におかれましては、お早くご決断を!』
次々と前線から送られてくる、絶望的な状況報告が鳴り響き続ける、新生大日本第三帝国『地球人類最終絶対防衛ライン最高司令室』の、総作戦本部。
すぐにでも何らかの打開策を講じなくてはならないのだが、圧倒的に不利な戦況を聞かされたばかりとあっては、重苦しい沈黙に覆い尽くされるばかりであった。
そんな中、この場で最大の責任を負っている、まさしく『作戦部長』である壮年男性が、苦渋の表情で絞り出すような声を上げた。
「……仕方ありません、現時点をもって、『人魚姫』たちの、艦隊運用を破棄、作戦を最終フェーズへと移行します!」
「──なっ⁉」
「艦隊運用を、破棄するとは」
「まさか⁉」
「ええ、すべての『人魚姫』の、集合的無意識とのアクセス経路を完全に遮断して、『全駆逐艦モード』に変化させます」
「『全駆逐艦モード』だと⁉」
「駄目だ! 危険すぎる!」
「下手すると、そのまま世界そのものが、滅亡しかねないぞ⁉」
「危険は承知です。──しかし、このまま手をこまねいていても、『大陸風ウイルス』の侵攻を止められないのは、厳然たる事実ではありませんか?」
「「「うっ!」」」
作戦部長の冷然たる『現実的な台詞』を突きつけられて、思わず言葉に詰まってしまうお歴々。
そこですかさず畳みかけてくる、今や人類の命運を一身に背負った男。
「では、よろしいですね?」
「……ひ、一つだけ、いいかね?」
「何でしょう?」
「この作戦の成功確率は、どのくらいなんだ?」
「成功? さあ?」
「さあって、君い⁉」
「──もはや状況は、『打開不可能』な段階に達しているのですよ? 我々に残されているのは、たとえ相討ちになろうとも、敵の先遣部隊にできるだけ多くの、損害を与えることくらいなのです。……それでも万が一、『成功』とか『勝利』などといったものを得られるとしたら、『奇跡』に頼る以外にはあり得ないでしょう」
「──ぐっ」
「た、確かに」
「何のセーフティーも無しに、『全駆逐艦モード』を解放するということは、敵を撃破する以上に、味方へ損失を与える可能性のほうが、遙かに高いからな」
「それでも『軍隊』である我々には、他に採るべき術は無いわけか……」
「──相わかった、作戦を遂行したまえ!」
「はっ!」
防衛軍最高司令の決断の声に、最敬礼するとともに、現場の指揮官へと命令を発する、作戦部長。
「──前線指揮官『提督』に告ぐ、戦艦型『人魚姫』の集合的無意識とのアクセスを、全面解除! 『全駆逐艦モード』へと移行せよ!」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
──人類最終絶対防衛ライン最前線、対馬泊地。
「……今、緊急指令が入った、『全駆逐艦モード』を発動する!」
「──て、提督⁉」
「そ、そんな!」
「お考え直しください!」
「私たちはまだ、戦えます!」
悲痛なる口調で『最終命令』を発した、自分たちの直属の司令官『提督』に対して、慌てふためき始める、『秘書艦(大淀)』や『情報艦(間宮)』等の軍艦擬人化少女たち。
しかしそれに対して、毅然とした面持ちで言い放つ、純白の軍服をまとった青年。
「もはや手遅れなのだ、このまま最終絶対防衛ラインをきゃつらに突破されて、人類最後の生存圏を蹂躙されるわけにはいかぬ。使える手段は、何でも使うべきだ。──たとえそれが別の意味で、人類どころか世界そのものに、大いなる災いを及ぼす危険性があろうともな」
「「「──くっ」」」
己の主の決意のほどを痛感し、もはや言葉も無くいかにも悔しそうに口をつぐむ、『人魚姫』たち。
「──聞いての通りだ、『大和』、『武蔵』、『長門』、『陸奥』、これより貴艦ら戦艦型に対して、『全駆逐艦モード』への移行を命ず!」
『……提督ッ』
『うむ、やむを得まい』
『すでに我ら戦艦型一同、覚悟はできておる』
『──どうぞ、ご命令を!』
「よく言った! 今から直ちに戦艦型は全艦、集合的無意識とのアクセスを全面カットの後、『全駆逐艦モード』へと変化せよ!」
『『『『──了解!』』』』
次の瞬間、
──本物の『地獄』が、顕現した。
次々と解除されていく、戦艦型に対する『拘束術式』。
その結果、みるみるうちに、『本来の姿』である、小山ほどの巨体となるとともに、
集合的無意識とのアクセス経路を完全に遮断されて、戦艦型擬人化少女としての『形』を失っていき、
そこに、現れたのは──
『うふふふふふふふ』
『あははははははは』
『くすくすくすくす』
何と、一糸まとわぬ、幼ない少女たち──すなわち、駆逐艦型擬人化少女の、無数の『素体』であったのだ。




