第329話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その99)
──何ですって?
私は最初からずっと、大戦艦『武蔵』では無く、そもそもの自分自身である、駆逐艦『清霜』の擬人化少女であり続けていたですって⁉
そ、そんな馬鹿な⁉
現に今の私は完全に、天を衝くかのような巨体を誇る、大戦艦『武蔵』の擬人化少女へと、変化しているではないか⁉
『──いや、それよりも、あなた本当に「武蔵さん」なんですか⁉ どうして突然人の頭の中で、話しかけてこられたのです⁉』
つい咄嗟に大声出してしまい、すぐ頭上で『羽ばたきホバリング』をしている、金剛さんたち四姉妹に怪訝な表情をされてしまったものの、そんなことを気にしている場合では無かった。
──果たして、あっさりと答えを返してくれる、すでに耳馴染みの『憧れの人』の声音。
『ああ、うん、私は「本物の武蔵」とも言えるし、そうで無いとも言えるのだよ。──実はこれについても、あくまでもおまえ次第なのだ』
『──いやだから、それって一体、どういう意味なんですか⁉』
『私はあくまでも、おまえの記憶の中の、「おまえにとって理想的な武蔵」、でしか無いんだ』
『はあ?』
また、そのパターンかよ⁉
『おいおい、そんな怪訝そうな顔をするなよ? そもそも我々軍艦擬人化少女は、それぞれの「想い」によって、精神と肉体とを維持し変化させているのだから、より強い「想い」を抱けば、望み通りの「記憶」や「形態情報」を集合的無意識からダウンロードさせて、それによって知りたい情報を手に入れたり、自分自身や周囲の物質を思い通りに変化させたりできるということを、お忘れじゃないのかい?』
『──と言うことは、あなたは』
『おまえが強く願ったからこそ、集合的無意識を介して、こうして脳内で会話を行えるようになっているのだよ。──ただし、単におまえの記憶の中の「武蔵」の言葉を再生しているというわけでは無く、あらゆるパターンの私の台詞をデータベースにした上で、おまえの言葉に合わせて、最もふさわしいものを算出しているので、事実上「本物の武蔵」と会話していると思ってもらって、構わないぞ?』
……ふ〜む、難しい理屈は置いとくとして、
これって言ってみれば、『他の世界の武蔵さん』と、インターネットみたいなものを介して、会話しているようなものか。
まあ、私の記憶の中の存在だろうが、コンピュータの計算結果だろうが、他の可能性のうちの一つだろうが、武蔵さんは武蔵さんだ、ここは『本物』だと思って、会話を続けることにしよう。
『……すみません、武蔵さん、こうしてあなたのお身体までお借りしたというのに、結局私は、武蔵さんの──大戦艦の、「強さ」を手に入れることは、できませんでした』
そのようにうなだれ気味に、心からの懺悔の言葉を述べる私であったが、
『──何を言っている、おまえはもう十分に、「強い」ではないか?』
………………………………え。
『清霜、おまえはそもそも、「強さ」というものを、何だと思っているんだ?』
『も、もちろん、私にとっては何よりも、武蔵さんや大和さんのような、「大戦艦」みたいになることであって──』
『私が「強い」だと? ふふふ、バカを言うんじゃ無い。もしも大戦艦が「強さの象徴」であったとしたら、どうして敵の航空攻撃によって、私も大和も為す術も無く、轟沈してしまったんだ?』
『そ、それは、戦艦にかかわらず、私たち軍艦の最大の泣き所こそが、航空攻撃に対しては無力だと言うだけのことではありませんか?』
『──だったら、「強さの象徴」とは何かと問われた場合、少なくとも我々軍艦よりも、航空兵器のほうがふさわしいということになるではないか?』
あ。
『わかったか、清霜。おまえの過ちは、「表層的な強さ」ばかりを求めたことだ。私のような大戦艦にだって、苦手な相手はいるし、航空兵器だって、最新の地対空ミサイルの前では、単なる「的」でしか無いだろう。──しかしだからと言って、戦艦や航空兵器が、「弱い」わけでも無いよな?』
『……それなら、けして表層的なんかじゃ無い、「本物の強さ」とは、一体何なのですか⁉』
『だから、それを実践していたのが、他ならぬ、おまえ自身じゃないか?』
『……私が? 一体私が、何をしていたというのです?』
『常に、「今より強くなろうとする努力」、だよ』
──‼
『どうだ、実際に私の身体と力を手に入れて? これこそが自分の求めていた「強さ」だと、満足したか?』
『そ、それは……』
『うん、それでいい。これくらいの「強さ」で、満足してもらっちゃ困る。納得してしまったら、そこでおしまいになり、「真の強さ」への到達は不可能となろう。──だからこそ私には、おまえの姿が眩しかったのだよ。自分が駆逐艦であることに、けして満足せず、たとえ他者からあきれらたり蔑まされたりしても、一心に「より強くなること」を目指して、努力し続けていた、おまえがな』
『……武蔵さん』
『さあ、そんな「偽りの姿や力」なんか捨てて、「本物の強さ」というものを知っている、本当のおまえに戻るんだ。──それに何よりも、おまえが真に望んでいる姿は、そんなものでは無いだろう?』
『──ッ。知っていたのですか?』
『もちろんだとも、今こそ、「おまえの提督」に、目にもの見せてやれ!』
『はい! ありがとうございます!』
そのように、自分の頭の中にのみ存在している、あたかも『幻覚』そのものの『武蔵さん』に対して、力いっぱい礼を述べるや、
──集合的無意識とのアクセスを、全面的に解除したのであった。




