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第326話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その96)

『うふふふふふふふ』


『あははははははは』


『くすくすくすくす』


『おほほほほほほほ』




 広大なる運河網に響き渡る、少女たちの嬌声。


 一見天使か妖精のようにも見える、神秘的な可憐さであるが、


 なぜだかその無邪気な笑顔は、底知れぬ『恐怖』を感じさせた。




 ──たぶんそれは彼女たちが、一糸まとわぬ華奢な背中から大きな翼を生やして、上空高く輪を描くようにして、旋回を続けているからであろう。




 愛らしく端整な小顔の中で、唯一笑みを微塵も浮かべていない、あたかも獲物を狙いすます肉食獣であるかのように、鋭く煌めいている四対の碧眼。


 ──そう、あたかも今から『鳥葬』でも始めようとしている、大型の猛禽類であるかのごとく。




『──集合的無意識とアクセス! 大日本帝国海軍所属『こんごう型』高速戦艦の、兵装の形態情報をダウンロード!』




『『『──了解らじゃ!』』』




 指揮艦である金剛嬢による、いつもの軍艦擬人化少女ならではの『呪文』の発動の声が聞こえるや、彼女と妹たちの周囲に海の人魂である『不知火』が灯り、それがすぐさま数多の大砲や機銃へと変化メタモルフォーゼした。




『──目標、眼下の運河上の、「武蔵」! 全艦全砲門、発射!』




 一瞬の、空白ののち


 たちまち響き渡る、轟音に、


 派手にほとばしる、水柱と、


 辺り一面に立ちこめる、黒々とした爆煙。




 ……一体誰が、想像し得たであろうか、


 確かにこの世界は、剣と魔法のファンタジーワールドであるが、


『あちらの世界』の戦闘機よりも遙かに小柄な少女の姿形を装いながら、旧帝国海軍の主力級の戦艦の主砲や機関砲を、何ら躊躇なくぶっ放してくる存在が、元々の『海戦』能力はもちろん、ほとんど反則技的な『陸戦』能力のみならず、何とついに『空戦』能力すらも手に入れるなんて。




 状況は、この瞬間に、一変した。




 自他共に認める史上最強の大戦艦の擬人化少女である『武蔵』が、この場における戦闘の推移を完全に制していたのは、その身体の巨大さと兵装の強力無比さとによって、本来の『海戦』だけでは無く『陸戦』においても無敵を誇り、同じ戦艦の擬人化少女である『金剛四姉妹』を、単なる『力押し』のみで圧倒していたからであった。


 ──だが、軍艦や要塞のような、海上並びに陸上における巨大にして強大なる存在は、『航空兵器』にとっては単なる『的』でしか無く、為す術も無く一方的に攻撃を受けるのみなのだ。


 実際、爆煙が晴れた後には、見るからに全身ボロボロに傷ついた武蔵が、抗う術も無く立ちつくしているのみであった。




「……え、ちょっと待って、これってむしろ、おかしいんじゃないの?」




 自分でナレーションをしていたくせに、思わず突っ込んでしまう僕こと、この魔導大陸きっての違法召喚術士兼錬金術師の、アミール=アルハル。


「はあ? 何がおかしいのです? 金剛さんたちのただ今の一連の攻撃行動と、それによる武蔵さんのダメージのほどは、彼我の文字通りの『立ち位置』の優劣を如実に反映した、非常に理に適ったものではないですか?」


 ……そしてこのようにして、すかさず異を唱えてくるのは毎度お馴染み、聖レーン転生教団異端審問第二部所属の特務司教、ルイス=ラトウィッジ殿であった。


「だからさあ、そもそも武蔵がダメージを受けていること自体が、おかしいんだろうが?」


「ええっ! それはまた一体、どういうことなのですか⁉」




「──しらばっくれるんじゃ無い、あんたが言ったんじゃないか⁉ 『現在の武蔵は、キヨの願望の具現であるから、キヨが「武蔵さんは少々の航空攻撃程度では、かすり傷一つ負わないのだ!」と信じ込んでいるだけで、本当に完璧なる防御力を有するようになる』って!」




「ええ、そうですよ。事実現在も、キヨさんの『お考え通り』に、事が進んでいるではありませんか?」


「どこがだよ⁉ たった一度の空対地砲撃によって、武蔵ってば、あんなにボロボロになってしまったじゃないか!」




「だって、キヨさん自身が──ひいては、()()()()自身が、『そうなるように』お考えなのだから、仕方がないのですよ」




 ………………………………は?


「な、何だよ、キヨや武蔵が、本来無敵であるはずの大戦艦が、確かに海上兵器にとっては最大の脅威とはいえ、航空攻撃によって易々と損傷を受けるなどと、考えているだと?」


「……やれやれ、忘れてもらっちゃ困りますよ。集合的無意識は何よりも、人の『想い』によって、その実際上の効果が左右されるのだと、これまで何度も何度も申してきたではございませんか?」


「で、でも、キヨは大戦艦武蔵のことを、少々の航空攻撃程度ではビクともしないと、信じ込んでいたんじゃ無いのか?」


「確かにそのように、『信じ()()』と思っておられるでしょう。しかし文字通りに、集合的無意識が優先するのは、人の『無意識』なのでございます。──よって、どんなに表面上は強がっていても、本音の部分で『航空攻撃を心底苦手』にしていると、それが如実に反映されてしまうのですよ」


「へ? あの大戦艦武蔵が、航空攻撃を、心の底から『苦手』にしているって?」




「そりゃそうでしょう、何せ武蔵のみならず、姉妹艦の大和を含む、旧帝国海軍が誇った最後の切り札たる『大和型大戦艦』は、確かに自他共に認める『海の覇者』でありながら、戦争末期の制空権を完全に失っている状況下において、敵の雲霞のごとき無数の航空攻撃によって、為す術も無く袋だたきに遭い轟沈してしまったのですからね。たとえ数千回生き返ろうとも、けして払拭できない『トラウマ』となっていることでしょうよ」




 ──なっ⁉


「……それってもちろん、そもそも『同僚』であった金剛たちも、承知のことなんだよな」




「もちろんです。──何せだからこそ、彼女たち『懲罰艦』は、本来実力に勝る大和型と敵対するケースに備えて、特別に最後の切り札として、『空戦能力』を密かに与えられているんですしね」




 ……何……だっ……てえ……。

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