第316話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その91)
──このように、僕と司教殿が馬鹿げた雑談に興じている間にも、軍艦擬人化少女同士の凄絶な争いは、当然のことながら続行していた。
……しかも、戦況は今や一方的な、『袋だたき』状態と化していた。
「──比叡、突貫!」
『了解、オ姉様』
「──榛名、アタックフォーメーションB!」
『了解、オ姉様』
「──霧島、アタックフォーメーションZ!」
『了解、オ姉様』
一人離れた場所から、手元の『心の宝石』を介することで、三人の妹たちを、単なる『少女の姿をした兵器』として、『特攻』まがいの指令を下している、大日本帝国海軍所属の高速戦艦、金剛型の擬人化少女の長女であるところの、その名も『金剛』嬢。
自分たちと同じ軍艦擬人化少女を、すべて『処分』する権能が与えられている、いわゆる『懲罰艦』である彼女たちの戦いぶりは、文字通り『常軌を逸して』おり、あくまでも『兵器』として、『司令官』である金剛の言うがままに、防備を一切無視して、目標である大戦艦(=巨人版軍艦擬人化少女)『武蔵』のすぐ間近まで迫って、主砲をぶっ放したり、妹を象る量子レベルの形態情報をすべて『空気』に書き換えるとともに、武蔵のすぐ後ろの空気を妹艦の形態情報に書き換えることによって、事実上の『瞬間移動』を実現して、不意討ちを仕掛けたりするといった有り様であった。
──だが、しかし、
「……どうしてだ、あれ程の変則的で怒濤のような猛攻を、一方的に受け続けているというのに、当の武蔵のほうには、ほとんどダメージが見られないぞ?」
教皇庁『スノウホワイト』上層部の、運河全体を一望できるバルコニーにて、僕こと、魔導大陸きっての違法召喚術士兼錬金術師であるアミール=アルハルは、己の召喚物兼僕の駆逐艦娘であるキヨと、懲罰艦である金剛四姉妹との激戦を目の当たりにしながら、思わずつぶやいた。
──そうなのである。
ただでさえ『軍艦擬人化少女』であるからには、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても、魔王やドラゴン等のラスボスキャラとも互角以上に渡り合える、規格外の強大さを誇っているというのに、その中でも他の軍艦擬人化少女を圧倒する力を、特別に与えられている『懲罰艦』が、自爆まがいの『特攻』や物理法則をガン無視した『瞬間移動』等を駆使して、至近距離から戦艦の主砲を一方的にぶち当てているというのに、運河の中ほどでただ棒立ちになっているばかりの武蔵嬢のほうは、表情一つ変えずに、微塵も動ずることは無かったのであった。
──確かに現在の彼女は、駆逐艦型であった時よりも、十倍以上の巨大さを誇っており、そもそも大和型戦艦そのものが、一枚の装甲自体の厚さや幾重もの隔壁構造により、防御力は誇張でも何でも無く、『空前絶後』の堅固さを誇っているであろう。
しかし金剛四姉妹のほうも一応、大日本帝国海軍の誇る高速戦艦であり、45口径356ミリ連装砲という強大なる主砲を擁していて、しかも一度に三艦がかりの集中攻撃を受けているというのに、ビクともしないどころかかすり傷一負わないなんて、どう考えてもおかしかった。
「……お、おい、キヨ。いくら何でも、そろそろ反撃の一つでも、しておいたほうがいいんじゃないのか?」
不安のあまり、つい口をついて出てしまった、『元主』としてのセリフ。
もはや『彼女』が、駆逐艦娘の『清霜』であるとは、定かでは無いと言うのに。
そもそも『彼女』が、自分の敵か味方かさえも、いまだ不明だと言うのに。
──それでも、黙っていることなんて、できやしなかったのだ。
「何、心配はいりませんよ。──言ったでしょう? 彼女は、何もする必要は無いと」
その時、
まるで僕の内心の葛藤に反応するようにかけられる、涼やかな声。
振り向くまでも無くそこには、いつものごとく何の邪気も感じさせない、穏やかな笑顔があった。
「……何だと、ルイス司教。キヨ──いや、『武蔵』が、金剛型三隻からあれ程の猛攻を受けているというのに、何もしないでいいってのは、一体どういうことなんだ?」
「嫌ですなあ、忘れてもらっては困りますよ。彼女たち『軍艦擬人化少女』の攻撃力と防御力は、基本的に前世である、大日本帝国海軍の軍艦自体の性能に基づいているんですよ?」
「そ、そんなこと、今更言われなくても──」
「いいえ、あなたは何もわかっておられませんよ、大和型戦艦の──特に、事実上の『1番艦の改良型』である2番艦の、大戦艦武蔵の真の凄さというものを」
──ッ。
「そもそも同型艦とはいえ、2番艦である武蔵のほうは、1番艦である大和の様々な実践的データを基に、追加仕様が加えられており、特に装甲板の品質向上と加増措置によって、防御性能は格段に高められていて、事実、レイテ沖海戦において轟沈した際には、魚雷については、2〜30本、至近距離砲撃については、20発以上、航空爆撃に至っては、数えきれないほど──といったふうに、人類史上最も激烈な攻撃を受けた軍艦として、記録されているくらいなのであって、たとえ同じ戦艦である金剛型によるものとはいえ、あれくらいの艦砲射撃なぞ、物の数では無いのですよ」
──うぐっ⁉
「い、いや! 確かに大和型の防御力は、アメリカ海軍のお墨付きだろうが、いくら何でも、あんな『瞬間移動』モドキの『特攻』を散々喰らっておいて、ノーダメージなんてあり得ないだろうが⁉」
「おやおや、やはり一番大切なことを、すっかり失念なされているようですね? 現在の『彼女』は、単に戦艦武蔵の擬人化少女では無く、何度も何度も申しているように、あなたの元僕のキヨさんの、『願望の具現』だと言うことを」
なっ⁉
「つまり、この尋常ならぬ防御性においても、清霜さんの『想い』が反映されているのです。彼女にとっては、自分の憧れの『大戦艦武蔵』は、これくらいのことでは傷一つつかないんですよ。そしてそのような『夢想』以外の何物でも無い思い込みを実現してくれているのが、あなたが彼女を召喚する際にお得意の錬金術で錬成なされた、オリハルコンやミスリル銀を始めとするどのような魔法物質にでも変幻自在な、不定形暗黒生物たる『ショゴス』によって構成されている肉体というわけなのです」
「……お、思い込みで、史実の軍艦以上の性能を発揮できるなんて、反則もいいところだろうが⁉」
「いやむしろ、実在の軍艦の物理的限界なんぞには縛られずに、何よりも『人の想い』によって、不可能を可能にしてこそ、軍艦に人の形を与えて創り出された、『軍艦擬人化少女』ならではの、存在意義とも言えるのでは無いでしょうか?」
──‼
た、確かに。
軍艦を女の子にした理由が、プレイヤーの分身である『提督』や『指揮官』なんぞに、おかしなサービスをさせることだけだったら、本当に『艦隊戦ゲーム』である必要なんか無いからな(無差別的煽り)。
特務の青二才「……いや、ここぞとばかりに、本作の『原典』とも言える『艦隊コレクション系ゲーム』を、ディスるような真似はやめてくださいよ?」
他称提督(無職)「はて、何のことやら? この作品はあくまでも、オリジナルなんですけど?」




