第307話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その87)
……一瞬、何が起こったのか、わからなかった。
僕の僕である、駆逐艦『清霜』の擬人化少女のキヨが変化した、戦艦武蔵(巨大擬人化少女ヴァージョン)ご自慢の主砲──いわゆる、『46サンチ砲』の砲口に閃光が走ったかと思ったら、世界宗教聖レーン転生教団のシンボルたる、教皇庁『スノウホワイト』の周囲に林立していた、かつての七つの支塔『セブンリトルズ』の残骸である無数の瓦礫の山が、一瞬にして文字通り跡形も無く吹き飛んだのだ。
「………………………はあ? ──って、うわっ⁉」
その一部始終を、教皇庁高層部の運河網全体が見渡せるバルコニーにて目の当たりにして、呆けた声を上げる、僕こと大陸きっての召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルであったが、一拍おいて襲いかかってきた大轟音と大振動とによって、途端に慌てふためいて思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
そのようなもうもうと立ちこめる爆煙の中、激しく波打つ運河上にて、立っていることもおぼつか無くなり、慌てふためいて態勢を立て直そうとしている、『懲罰艦』たる金剛型四姉妹の姿が見えた。
「──いやいやいやいや、いくら何でも、おかしいだろう⁉ 確かに史上最強の戦艦たる大和型2番艦である武蔵の、45口径460ミリの主砲は強力無比ではあるものの、実質上『城』である教皇庁の支塔七塔分の残骸の山を、一発で消し飛ばすとか、どう考えてもあり得ないだろうが⁉」
あまりの驚愕かつ衝撃的な事態の展開に完全に取り乱してしまい、疑問の雄叫びを上げるばかりの僕であったが、それに律儀に答えを返してくれたのは、毎度お馴染みの聖レーン転生教団異端審問第二部所属の、ルイス=ラトウィッジ特務司教殿であった。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、別にそれ程驚く必要は無いんですから。それと言うのも、実はこれについても、軍艦擬人化少女ならではの『想い』こそが、原動力になっているのですよ」
──また、それかよ⁉
「……『想い』って、現在のあの『戦艦武蔵』のでは無く、僕の元僕の駆逐艦『清霜』の擬人化少女である、キヨのか?」
「そうです、彼女にとっての『大戦艦武蔵』とは、文字通りの『無敵の存在』でないと駄目なのです。どんなに他の戦艦等からの艦砲射撃の雨あられを食らおうが、傷一つつかないのはもちろん、いったん武蔵の主砲『46サンチ砲』が火を噴けば、一発で軍艦だろうが何だろうが、消し飛んでしまわなければならないのですよ」
「──一体どこの、宇宙戦艦だよ⁉」
そういえばあの自称『大戦艦』てば、さっきノリノリで、『魔導力充填、120%』とか言っていたよな?
「あはははは、宇宙戦艦て、一体いつの話ですか? 今はむしろ『架空戦記』においてこそ、あたかも化物そのものの『大和型戦艦』が跋扈しているのですよ? まあそういう意味では、某軍艦擬人化少女ゲームの大和や武蔵こそが、その最たるものとも言い得ますけどね☆」
……まあ確かに、『アレ』も一種の架空戦記モノだよな。
「つまり、そのような架空戦記作家も真っ青な、キヨの純真無垢なる(?)武蔵に対する誇大妄想こそが、たった今しがたの、とても信じられない状況を生み出したってわけなんだな?」
「ええ、どんなに妄想じみた過剰な思い込みであろうと、いかなる魔法物質でも模倣することのできる不定形暗黒生物の『ショゴス』によって構成されている、今の武蔵であれば、すべて実現することができますからね。──つまり、集合的無意識からあの武蔵へとインストールされているのは、いわゆるオリジナルの軍艦の武蔵としての『艦歴』だけでは無く、武蔵に憧れている軍艦擬人化少女としてのキヨさんの、『想い』までもが合わさっているからこそ、攻守共に史実を超越した、文字通りに『化物じみた』性能を誇っているわけなのですよ」
……言わばあの武蔵こそが、『軍艦擬人化少女は、人の想いから成り立つからこそ、オリジナルの軍艦の物理的限界には囚われない』ことを、最も理想的に体現しているってわけか。
「──いやいや、そもそもどうしてキヨが、戦艦になるだけでも大概なのに、あんな宇宙戦艦もどきの規格違いすぎる、『空想(つうか妄想)科学的武蔵』なんかになっちゃうわけなんだよ⁉」
当然と言えば当然の疑問の言葉を、もはや堪らず怒鳴り散らす、異端中の異端であるところの、違法召喚術士兼錬金術師であった。
それに対してまさに打てば響くように答えを返してくれる、今や完全に『解説キャラ』と成り果てている、『本当は怖い』異端審問官殿。
「──それは当然、『お約束』だからですよ♫」
「はあ?」
「『様式美』と、言い換えても、構いませんがね」
「いや、いきなり『泣く子も黙る』異端審問官様が、何をわけのわからないことを語り始めているの? 何で駆逐艦が戦艦になってしまうのが、お約束や様式美なんだよ⁉」
「あなた、疑問に思いませんでした? かつての大日本帝国海軍には星の数ほど高名なる軍艦がひしめいていると言うのに、あえてそれほどメジャーでは無い、駆逐艦の清霜の擬人化少女が、この作内シリーズ『デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦「娘」、最強伝説だ⁉』の、『メインヒロイン』に選ばれたことを」
「あ、ああ、確かにそれは、さすがに気になっていたけど……」
普通旧帝国海軍で選ばれるとしたら、それこそ武蔵や大和のような大戦艦や、仮に駆逐艦であったとしても、雪風のような有名どころだよな。
「──って、何をいきなり、『メタ』そのもののことなんか、言い出しちゃっているの⁉」
「これは別に、安易にメタに走ったわけではありません。現在の状況を適切にご説明するためには、是非とも必要なことなのです!」
「え、そうなの?」
「キヨさんが本作のメインヒロインとして選ばれた理由とは、駆逐艦清霜は史実的にも戦艦武蔵と浅からぬ関わりがあったことと、彼女は人間の女性にたとえれば、『ロリの代名詞』と言っても過言では無いからなのです!」
「──おいっ⁉」
よりによって、何てことを言い出すの、この聖職者ときたら⁉
「おっと、この『ロリ』と言うのは、何もふざけているわけでは無く、こうしてキヨさんが戦艦武蔵にランクアップしたことの、重大なる理由の一つとなっておりますので、まずはご静聴のほどを」
「む、そうなのか?」
「はい、何よりも駆逐艦清霜は、1944年2月という、かなり遅い時期での進水でありながら、それからたった10ヶ月後に戦没してしまうと言う、短い艦生だったのであり、そう言う意味では、「永遠の幼女」と言っても差し支えないのです!」
「──差し支えあるよ! 何だよ、軍艦に対して、『永遠の幼女』って⁉」
「それだけでは、無いのです! 実は進水式が行われたのは、正確に申せば、2月29日なのです!」
「あ、それって……」
「ええ、何と駆逐艦清霜には、4年ごとの閏年にしか、進水記念日が来ないのです! これが人間や他の生き物なら、便宜上2月28日あたりを誕生日に当てるところですが、軍艦に対してわざわざそんな特例措置がとられることは無く、他の軍艦が一年ごとに進水記念日を経て、順当に歳を重ねていっているのに対して、駆逐艦清霜だけは4年に一度だけしか歳をとらず、第二次世界大戦時の軍艦としては、文字通りに『永遠の末っ子』であり続けているのでございます!」
「うおっ、意外に理路整然としてやがる! それに確かに駆逐艦清霜は、旧日本海軍一等駆逐艦夕雲型19番艦という、姉妹艦の中ではまさしく『末っ子』であるからな」
「そういうこともあって、某艦隊ゲームにおいても、清霜の『艦む○』だけは、他の夕雲型姉妹艦に比べて、一際ロリっぽく描写されているわけなのです」
「むう、ロリであると言うことは、まあ、不承不承であるが、認めることもやぶさかでは無いが、それでそのことが、現在の常識ではあり得ない『妄想的大戦艦』の武蔵の有り様と、どう関わってくるのだ?」
「ロリと言えば、『子供』でしょう?」
「うん? まあ、そうだな」
「子供と言えば、『夢見がち』でしょう?」
「うん? ……う〜ん、そう、かな?」
「つまり、キヨさんときたら、あまりにも『お子様』であったために、戦艦に対して過度の憧憬を抱いていて、駆逐艦である自分だって、いつかは武蔵のような大戦艦になれるものと、信じ込んでいたのですよ」
「へあ? 駆逐艦が、戦艦に、なれるって……」
「──と言うのが、主に『艦○れ』二次創作界隈における、『お約束』なのです!」
「結局、二次創作ネタかよ⁉」




