第304話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その84)
「……何とも、あっけない、幕切れですこと」
──怒濤のごとき砲撃が止んで、今や痛いほどの静寂に包み込まれている運河にて、三人の妹の誰かの溜息交じりのつぶやきが、ぽつりとこぼれ落ちた。
それも無理は、無かった。
現在、広大なる運河網を埋め尽くすように浮かんでいる、一人の幼い駆逐艦娘と無数の人魚の、頭部や手足等のバラバラになった肉体は、大日本帝国海軍の高速戦艦金剛型の擬人化少女にして、他の軍艦擬人化少女たちに対する『懲罰艦』でもある、私たち、金剛・比叡・榛名・霧島からなる、『金剛型四姉妹』の艦砲射撃によって、当然のごとく生じた『戦果』に過ぎないのだから。
「結局、駆逐艦型なんて、あんなものか」
「歯ごたえが無さ過ぎて、拍子抜けですわ」
「召喚に応じて、わざわざ異世界にまでやって来たというのに、まったくもって無駄足だったな」
そのように、すっかり事は済んでしまったものと確信して、連れ立って教皇庁『スノウホワイト』の城内へと戻っていこうとする、比叡、榛名、霧島の、三人姉妹たち。
──長女である、私こと金剛を、残して。
「……金剛お姉様?」
「いかがなされたのですか?」
「もはや『目標』は、完全に沈黙しておりますけど?」
「──しっ、来るわよ!」
「「「なっ⁉」」」
突然、運河の水面に四つほど、海の鬼火である『不知火』が灯ったかと思えば、文字通りに矢のように上空に駆け上がるとともに、かつて帝国海軍が誇った水上特殊攻撃機、『晴嵐』への変化したのであった。
我々四姉妹一人につき一機ずつ、同時に急降下爆撃を試みる、四機の晴嵐。
「「「「──集合的無意識と、緊急アクセス! 127ミリ連装高角砲の形態情報を、ダウンロード!」」」」
けして慌てふためくことも無く、四人揃って対空機銃を展開して、迫り来る敵機を難なく弾き飛ばした、
──かと、思った途端、
「「「…………は?」」」
水面に堕ちた途端、四つの機体のすべてが、それぞれ十歳ほどの幼い少女の手足へと、変化していったのだ。
──そして、続いて、
『……ふふ、ふふふふふ』
『『ふふふ、ふふふふふふ、あは、あははははははははは!』』
『『『くすっ、くすくす、くすくすくす、くすくすくすくすくすくす!』』』
『『『『うひっ、うひひ、うひひひひひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひ!』』』』
『『『『『──ふふふ、ふふふふふふふふふ! あは、あははははははははは! くすくすくす、くすくすくすくすくすくす! ひひひひ、ひひひひひひひひひひ!』』』』』
四方八方から響き渡ってくる、無数の少女たちの哄笑。
──何とそれは、一人の駆逐艦娘と、多数の人魚の、『生首』から発せられていたのだ。
「ひっ」
「な、何だ?」
「何で、清霜や人魚たちが、生首になっても生きているんだ⁉」
「しかもどうして、空母でも航空戦艦でも無い駆逐艦型のくせに、バラバラになった自分の手足を、水上機として飛ばすことができるんだ?」
『……あらあらまさか、どこかの魔法少女でもあるまいし、元々沈没船の化身である軍艦擬人化少女が、艦首が取れたくらいで、死ぬとでも思っていたのですか?』
「「「──ッ!!!」」」
駆逐艦娘(の生首)から飛び出した、少々『危険球』過ぎる発言に、思わず言葉を詰まらせる、三人の妹戦艦たち。
……いや、例の魔法少女さんについても、元から肉体が『ゾンビ』状態になっていたのだから、本来なら死ぬはずは無かったんだけど、頭を丸ごとかじられた際に、命の源である『ソウルジ○ム』も一緒に砕かれたものだから、『機能停止』してしまったわけなんでしょうが?
──しかし、彼女が言っていることもまた、道理に適っていた。
そもそも『死の概念』なぞ持ち得ない、不定形暗黒生物である『ショゴス』によって肉体を構成されている、私たち軍艦擬人化少女は、その『思考』や『記憶』を司っている、言わば『外付けの脳みそや魂』とも呼び得る、『集合的無意識』とのアクセス経路さえ維持されていれば、仮に肉体がバラバラになろうとも、可動し続けることが十分可能なのだ。
──しかも、集合的無意識とのアクセス権が向上し、他者の集合的無意識への強制的アクセスをも可能となっている、現在のキヨさんは、自分のバラバラになった肉体だけでは無く、人魚たちの肉体の各種パーツすらも、意のままに可動させたり変化させたりできるようになっていたのである。
「うわっ⁉」
「きゃっ!」
「ちょ、ちょこざいな⁉」
清霜さんや人魚たちの無数のパーツが変化した、水上機や『ハープーンblock2ミサイル』の攻撃に、今や防戦一方となり翻弄されるばかりの、私を除く三姉妹たち。
「……比叡、榛名、霧島、少しは落ち着きなさい。『懲罰艦』である私たちの防御力からすれば、駆逐艦や潜水艦や水上機の攻撃なぞ、物では無いでしょうが?」
「えっ」
「あ、ああ、そういえば!」
「生首が『ケタケタ』笑い出すものだから、堪らずビビってしまって、正常な判断力を失っておりましたわ!」
「それに、私たちの攻撃力なら、本来不死身なはずの彼女たちに対しても、十分効き目があるはずです。──全艦、全砲門を開いて、一斉に砲撃せよ!」
「「「了解! 集合的無意識とアクセス、金剛型戦艦の全兵装の、形態情報をダウンロード!」」」
「各自、いつもの『あうんの呼吸』で連携して、見え得る限りの運河網を、面砲撃せよ!」
『『『了解、全砲門、斉射──!!!」」」
通常の『戦艦型』をグレードアップした、『懲罰艦』ならではの最大火力で、文字通りに砲弾の雨あられを降らせる、金剛型四姉妹。
──その結果今度こそ、駆逐艦娘も人魚たちも為す術も無く、無数の肉片となり果てたのであった。




