第303話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その83)
──大日本帝国海軍所属高速戦艦、金剛型一番艦、『金剛』。
──大日本帝国海軍所属高速戦艦、金剛型二番艦、『比叡』。
──大日本帝国海軍所属高速戦艦、金剛型三番艦、『榛名』。
──大日本帝国海軍所属高速戦艦、金剛型四番艦、『霧島』。
その擬人化少女であり、同じ擬人化少女である私たちに対する『懲罰艦』として、絶対的な攻撃力と防御力とを誇る、『軍艦擬人化少女を狩る軍艦擬人化少女』であるところの、絶対的強者の四姉妹が、現在運河の中でたたずんでいる、私こと大日本帝国海軍所属一等駆逐艦夕雲型19番艦、『清霜』の軍艦擬人化少女であるキヨを見下ろすようにして、世界宗教聖レーン転生教団の総本山である、教皇庁『スノウホワイト』の水門の上に揃い踏みをしていた。
「……ふっ、挨拶も無しに、いきなり砲撃を仕掛けてくるとは、ずいぶんを余裕が無いことですね、金剛さん?」
そのように、私が四人のうち、中央右側に立っている金髪碧眼の少女向かって、挑発気味にそう言えば、
──常にたたえていた微笑みを消し去り、能面のごとき冷たき無表情となる、『金剛』嬢。
「……あの、私、金剛お姉様では無く、榛名ですけど?」
へ?
「──す、すみません、間違えました! では改めまして、中央左側の、金剛さ」
「あ、私は、『比叡』だよ?」
「えっ、えっ、それでは、一番右端の──」
「私めは、『霧島』、でございます(クイッ)」
「なっ⁉ そ、それでは──」
「……ええ、私が、金剛ですわ」
──ぐっ。
結局最後まで、本人を判別できなかった、だと?
「……やれやれ、ほんのこの前激戦を繰り広げたばかりの、相手の顔も覚えていないなんて、お里が知れますわ」
「しかも、これからすぐに、雌雄を決す相手だと言うのに」
「私ごときを、お姉様と間違えるなんて、むしろ侮辱です!」
「ふん、所詮は、ハグレ者の駆逐艦型風情。少々集合的無意識とのアクセス権が向上したところで、この程度が限界でしょう」
ここぞとばかりに容赦なくフルボッコしてくる、四姉妹の皆様であった。
「──ちょっと待ってくださいよ⁉ 仕方ないではありませんか、皆さんてば四人揃って、そっくりそのままの外見をなされているのですから!」
そうなのである。
『金剛型』の四姉妹の皆さんは、原型である一番艦──長女の金剛さんが、イギリスきっての名門重工業、ヴィッカース社のお生まれであるだけに、金髪碧眼であられるのだが、日本において建造された妹さん三名のほうも、あたかも西欧人そのままの金髪碧眼であったのだ。
しかも背丈から身体のラインや顔の造作に至るまで、そっくりそのままな、「おまえらは、女版『おそ松○ん』か⁉』とでも、言いたくなるような有り様だったのだ。
「──いや、何でだよ⁉ 金剛さん自身はともかく、他の方々は日本国内で建造されたから、それなりの『ローカライズ』はもちろん、なにがしかの『改良』が、加えられているはずでしょうが⁉ どうしてそのように、そっくりそのままなのですか!」
「あら、そんなの、当然でございましょう?」
「私たちに加えられた、帝国海軍への適応化や改良点が、素晴らしいものであれば、金剛お姉様に対しても施されることになるのは、言うまでも無いことなのでは?」
「その結果、こうして擬人化した際には、我々があたかも『四つ子』であるかのように、まったく同一の容姿になるのは別に不思議でも無く、むしろ同じタイプの姉妹艦に、あえて容姿の差を設けようとする、『萌え艦隊ゲーム』の類いのほうが、間違っているだけなのです」
──おい、どさくさに紛れて、『原典』(?)批判をするんじゃ無いよ! いろいろと、ヤバいだろうが⁉
「……でもそれだと、万が一、コミカライズされたり、アニメ化されたりした時に、皆さんの区別がつかなくなるのでは?」
「「「「そんなこと、万に一つにも、あり得ません!」」」」
ほんのわずかな躊躇も無く、瞬時に否定しやがったよ、こいつら⁉
「……あなたまさか、金剛お姉様だけ『ルー語』をしゃべらせたり、私に『殺人カレー』を作らせたり、榛名を『ヤンデレ』にしたり、霧島に『メガネ』をかけさせたりといった、安易な『キャラ付け』をさせようとしているんじゃないでしょうね?」
「いいじゃないですか、まるで『四つ子』みたいに区別がつかなくても。『おそ松○ん』も、リバイバル大ヒットしたことですし?」
「……ていうか、どうして榛名だけ、『ヤンデレ』とか、二次創作系の設定なのですか? 全然『大丈夫』じゃありませんよ?」
「みんな、そのくらいにするのデース。たとえメディアミックス展開が無かろうとも、こうしてセリフのみの場合でも区別がつきにくいので、いろいろと個性を発揮するのには、賛成しマース!」
「「「「だからって、あなたが『ルー語』でしゃべると、『著作権』的に、マズいってば⁉」」」」
ま、確かに、『ルー語』は区別つきやすいけど?
しかしどうして人は、戦艦金剛の擬人化少女に、『ルー語』をしゃべらせようとするのだろうか?
「……まあ、お遊びは、この辺でお開きデース──じゃなかった、お開きにいたしましょう。比叡、榛名、霧島」
「「「──はっ、了解です、お姉様!!!」」」
──ッ。
金剛嬢の号令一下、まさしく『高速戦艦』の面目躍如とばかりに、正面の長女以外の三人の妹艦が、こちらに防御の暇すらも与えずに、左右及び後方の三方を取り囲んだ。
「「「「集合的無意識とアクセス、主砲356ミリ45口径連装砲の形態情報を、ダウンロード!」」」」
その刹那、四姉妹の周辺に海の鬼火である不知火が灯ったかと思えば、すぐさま大砲や機銃へと変化したのであった。
「目標、清霜型擬人化少女、全艦、撃てー!」
「「「主砲、斉射ー!!!」」」
「──うぐあああああああああああ⁉」
一瞬にして、全身をバラバラに吹き飛ばされる、小柄な駆逐艦娘。
──そう、私はその時、自分の手足が四方八方へとはじけ飛んでいく様を、運河に浮かぶ頭部の、視界がぼやけ始めた瞳から、見つめていたのであった。




