第301話、【連載300話突破記念】教えて、金剛お姉サマ♡
「……キヨ、おまえは、一体」
自分自身は現代日本からやって来た『駆逐艦型』の軍艦擬人化少女でありながら、このファンタジーワールドの住人である人魚たちを、まるで自分の配下であるかのようにして、大日本帝国海軍や海上自衛隊の強大なる潜水艦へと変化させて、自分よりも遙かに格上の『戦艦型』の擬人化少女たちを、一度に四体も戦闘不能に追い込んでしまった、この大陸きっての召喚術士兼錬金術師の僕ことアミールアルハルの忠実なる僕であった、キヨこと駆逐艦『清霜』の擬人化少女。
その姿は『エヴ○』旧劇場版で例えると、もはや『弐○機』なんてレベルでは無く、『量産型エヴ○シリーズ』を従えた『リリス』であるかのような、風格と凄みさえも窺えた。
「──いや何で、僕ってれっきとした『異世界人』なのに、いきなり『エヴ○』の旧劇場版なんかを、引き合いに出しているの⁉」
我ながら、かなり混乱しているようであった。
──それも、仕方なかろう。
あれだけ待ちわびていた新劇場版の最終章が、現在の全世界的コロナ禍の煽りを受けて、公開延期になってしまったのだから。
「……だから、どうして『エヴ○』にこだわるの⁉ 何だか前回からこの作品て、いろいろとおかしいんですけど⁉」
「──別に構わないではありませんか? 何せ、栄えある【連載300回突破記念回】なのです。少々メタになろうとも、今回は『読者様サービス』こそを、優先いたしましょうよ♡」
冒頭からいきなり混乱を来してしまった、情けないにも程がある主人公をなだめすかすようにかけられる、凜とした声音。
振り向けばそこにいたのは、出自が『あちらの世界』の主に黒髪黒目の人種が住まう日本国とはとても思えない、白雪のごとき華奢な肢体を黄金色の長い髪の毛で包み込んでいる、十五、六歳ほどの絶世の美少女が、真夏の太陽みたいに微笑んでいた。
──彫りが深く端整なる小顔の名で煌めいている、サファイアの瞳
「……こん、ごう」
そうそれは、かつての大日本帝国海軍に所属していた、高速戦艦『金剛』の擬人化少女、その人であった。
──ていうか、君のセリフ自体が、『メタ』そのものだろうが? 何だよ、【連載300回突破記念回】とか『読者サービス』って?
「…………え、ちょっと待って、この作品って、すでに300回もやっているの?」
「ええ、前回をもって丁度300話目を迎えております。ちなみも本シリーズである『デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦「娘」、最強伝説だ⁉』についても、現段階で80話を超えています」
「へえ、本シリーズだけでもう、80話も行っていたのか? ……まあ、一応クライマックスに突入していることだし、100話までには終わりそうだな」
「そういうことも含めまして、今回は特別編として、最近のエピソードにおいて、説明を加えるべきなのになおざりにされている点について、改めて詳しく解説を行おう──と言った趣旨なのでございます」
「な、なるほど、確かにここ数話にわたって、あまりにも突飛すぎる展開が続いたからな。やはりその辺の所を明らかにしないままで、話を進めるのは不親切だよな」
「まずは、どうして『活動停止』していたはずの清霜さんが、いきなり復活したのかについてですが──」
「うんうん」
「これに関しましては、すでに本編内で詳しく述べておりますので、割愛いたします」
「──おいっ⁉」
「それと言うのも、この件についてはいくら『メタ的説明回』とはいえ、他ならぬ彼女の『提督さん』である、あなたに面と向かって言及しては、いろいろと差し障りがあるのですよ」
「……つまり、キヨが再起動をしたのには、僕が少なからず関与していると言うことか?」
「ええ、その通りでございます」
「ああ、それなら聞かないほうがいいかな。──だったら、キヨのやつが、ただ単に復活しただけでは無く、確実に性能アップしているのは、なぜなんだ?」
「おや、性能アップ、ですか?」
「とぼけるなよ、自分よりも格上の『戦艦型』を四体も相手にして、圧勝しただろうが?」
「あら、それだったら、前回も御同様だったのでは?」
「何を言っているんだ? 前回は『海底の魔女』に変化したから、辛うじて勝てたんじゃないか?」
「これは、おかしなことを。『海底の魔女』とは、私たち軍艦擬人化少女とっては、むしろ『真の姿』なのですよ? 今回清霜さんが『戦艦型』の皆様に対抗できたのは、人魚たちが変化した『潜水艦型』のアシストがあったからであって、清霜さん自身は、それ程大幅に能力が向上されたとは思えませんでしたが?」
──ッ。
た、確かに。
「……それなら、まさにその、人魚たちを突然『潜水型』の擬人化少女に仕立て上げた挙げ句に、自分の手駒として『戦艦型』を攻撃させたのは、どういうからくりなんだよ? あの人魚たちはあくまでもこのファンタジーワールドの存在なのであって、本来キヨとは縁もゆかりも無いはずだろうが?」
「ええ、ええ、おっしゃる通りでございます。実は今回の清霜さんのレベルアップのキモは、むしろそちらのほうなのですよ」
「はあ? それって、一体……」
「我々軍艦擬人化少女における、軍艦としての兵装展開等の超常現象の実行は、集合的無意識とのアクセスによって実行されているのは、当然ご承知ですよね?」
「そりゃあ、もちろん」
「つまり、より高レベルの攻撃力や防御力を獲得するには、より上位の集合的無意識とのアクセス権が必要となるのですが、『駆逐艦型』や『戦艦型』と言った、それぞれのタイプごとに自ずと限界があって、『駆逐艦型』のアクセス権をいくら向上させても、自分自身のみでは『戦艦型』を超える性能を手に入れることは、原理的に不可能なのです」
「で、でも、事実キヨは、『戦艦型』の擬人化少女たちに、勝っているわけだし……」
「だから申したでしょう、『自分自身のみでは不可能』だと。仮に集合的無意識へのアクセス権を、『戦艦型』並みに向上できたとしても、自分自身の性能アップばかりに使用するのでは無く、自分以外の者にも割り振ればいいんですよ。──例えば、ショゴス同等に変幻自在でありながら、固有の魂を持たないので、集合的無意識から適当な『人格』を与えることによって好きなように操ることができる、このファンタジー世界特有の『人魚』たちなんかにね」
「──‼」
……何……だっ……てえ……。
「そうなのですよ、『集合的無意識へのアクセス権の向上』とは、自分自身にだけでは無く、他者に対しても適用できるようになることも、含まれているのですよ。それならば、能力向上に限界のある『駆逐艦型』であっても、周囲の適当な他者に集合的無意識を介して、適当な情報をインストールすることによって、強化したり変化させたりした上で、自由自在に使役することすらできるんですからね」
「自分だけで無く、他者をも強化できるんだったら、いくらでも強大な力を有する『味方』を増やすことができるから、事実上『無敵』になれるようなものじゃないか⁉」
「そうは申しましても、新たに設定された集合的無意識とのアクセス権のレベルによって、適用できる他者の人数や、その性能向上の限度が、自ずと決まってきますので、無限に戦力を増やせるわけではありませんけどね」
「でも、実際に、キヨが勝てたと言うことは……」
「はい、少なくとも、『戦艦型』四体を相手にしても圧勝できるだけの、アクセス権の向上がはかられているのでしょう。──もちろん、元々『潜水艦』と親和性の高い人魚たちを、『伊四百型』や『そうりゅう型』に変化させた、キヨさんご自身の戦略眼も、見事と言うしか無いのですけどね」
「……だったら、同じ『戦艦型』であるあんたも、厳しい状況にあるんじゃないのか?」
「ふふっ、確かに私一人では、危ないでしょうね」
「それにしては、相変わらず余裕綽々のその表情は、何なんだ?」
「──あら? 『金剛型』の軍艦擬人化少女が、私一人しかいないと、いつから錯覚なされていました?」
「なっ⁉」
「それでは、ご覧に入れましょう。──私たち『金剛四姉妹』による、『軍艦擬人化少女狩り』と言うものをね!」




