第299話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その81)
「……どうして、どうしてなの? どうして第二次世界大戦中の大日本帝国海軍が誇った、超傑作水上偵察機兼急降下爆撃機の『瑞雲』が、こんな剣と魔法の異世界に存在しているの⁉」
その時私こと、かつての大日本帝国海軍所属の一等駆逐艦夕雲型19番艦の、『清霜』の軍艦擬人化少女『キヨ』は、驚愕のあまり思わずつぶやかざるを得なかった。
──その途端、
「「「「集合的無意識とアクセス、海軍急降下爆撃機用250キログラム爆弾の、形態情報をダウンロード!」」」」
突然運河の周囲から鳴り響いてきた、数人分の艶麗なる声音。
それと同時に、瑞雲各機の胴体下面の爆弾架に、海の鬼火である『不知火』が灯ったかと思えば、見る見る間に小型の爆弾へと変化したのであった。
「──くっ、集合的無意識と、緊急アクセス! 防御結界を展開!」
文字通りの『頭上の敵機』が一斉に急降下体勢に入るとともに、こちらも大声で『呪文』を唱えるや、周囲の大気がすぐさま『不知火』へと変化した。
──次の瞬間、
耳をつんざく爆音が、至近距離で轟き渡り、
視界が閃光に覆われたかと思えば、
すでに周囲は、黒々とした爆煙に包み込まれていた。
そして、ようやく空爆が止んだ時、すでに私は四方を完全に取り囲まれていたのだ。
「……伊勢さんに、日向さんに、扶桑さんに、山城さん」
そうそれは、いわゆる『戦艦型』と呼ばれる、軍艦擬人化少女の方々のご登場であった。
「──ッ。そうか、皆さんは全員、『航空戦艦』への改装が可能でしたね」
「その通り!(伊勢)」
「それこそが、同じ『戦艦型』と言っても圧倒的に格上の、大和型や長門型に対する、我らの優位点よ!(日向)」
「前回は相手が駆逐艦と言うことで、すっかり油断して、使用せぬままに終わってしまったが、今回は最初から全力でいくぞ!(扶桑)」
「我々軍艦にとって、航空攻撃は最大の天敵! どこまで悪あがきができるか、見物だな!(山城)」
次々に勝ち誇るように声を上げる、四名の『戦艦型』たち。
まさに彼女たちこそは、実際にはほとんど海戦には参加しなかった『大和型』や『長門型』を除く、かつての大日本帝国海軍を代表する戦艦の、擬人化少女たちであったのだ。
──まずい。
自分よりも格上の『戦艦型』に、前後左右の四方をすべて囲まれて、完全に退路を断たれただけでも、文字通り『絶体絶命』なのに、まさかここで航空兵力まで投下してくるとは。
もちろん、私も駆逐艦の嗜みとして、対空兵装は備わっている。
だがしかし、先ほど山城さんが『天敵』と言っていたように、軍艦と航空機とでは、『食い合わせ』が悪過ぎるのだ。
かつての惨憺たる苦戦の記憶から、我々軍艦擬人化少女は、航空機に対して本能的に『苦手意識』を覚えざるを得ず、攻撃と防御の両方において、どうしても実力を十分に発揮することができず、非常に精彩を欠いたものとなりがちであった。
よって本来であれば、艦隊を組む時には航空母艦や対空専門艦を加えることによって、防空体制を万全にするのが定石なのだが、現在の私は原則的に単独行動をしており、航空兵力対してはあまりに心許ない状況にあったのだ。
……つまり、セオリー通りなら、現在の私は文字通りに『手も足も出ない』、絶体絶命の大ピンチであったのである。
──そう、あくまでも、『セオリー通り』なら。
「行け! そこだ、瑞雲!」
「ふはははは、水上機相手では、さしもの駆逐艦清霜も、形無しだな?」
「前回のように、『海底の魔女』に変化しても、構わないぞ?」
「愛する提督の前で、忌まわしき本性をさらけ出したかったらな!」
「「「「わはははははははははは!!!」」」」
もはや自分たちの絶対的優位を確信して、配下の瑞雲を私にけしかけながら、嘲笑を高らかと鳴り響かせる、『戦艦娘』たち。
……『海底の魔女』化ですって? 残念ながら、もはやその必要は無いの。
私はもう二度と、『自分が自分であること』を、捨てるつもりは無いのですからね。
それに生憎だけど、『海底の魔女』化するための力は、別のところで使うつもりだし。
──そして私は、この絶望的状況下にあって、少しも慌てふためくことなく、そっとつぶやいた。
「……集合的無意識とのアクセスを申請、大日本帝国海軍所属、水上特殊攻撃機『晴嵐』の、形態情報をダウンロード」
その刹那、
私の周囲の運河の水面に、十五、六ほどの不知火が灯ったかと思えば、あたかも炎の矢のようにして、上空の瑞雲を目掛けて駆け上っていった。
「「「「なっ⁉」」」」
一斉に、驚愕の声を上げる、戦艦娘たち。
それも、当然であろう。
数百メートルほどの高度に達した不知火の矢が、今度は十数機の水上戦闘機へと変化して、急降下爆撃機である瑞雲と『空中格闘戦』を開始したのだから。
旧帝国海軍が誇る傑作水上機といえど、所詮は爆撃機、身軽な特殊攻撃機には敵うはずも無く、次々と撃墜の憂き目に遭っていき、瞬く間に全滅してしまう瑞雲。
「……あ、あれはまさか、『晴嵐』?」
「どうして、小型の駆逐艦でしかないおまえが、水上特殊攻撃機である晴嵐を使役できるのだ⁉」
「たとえ、集合的無意識とのアクセス権が向上しようとも、駆逐艦が航空機を搭載することなぞ、原理的に不可能だろうが⁉」
「一体どういった、からくりなんだ⁉」
あまりにも予想外の有り様を見せつけられて、完全に我を忘れて、ただひたすらわめき立て始めるばかりの、『戦艦娘』たち。
「ええ、皆さんのおっしゃる通りです。あの晴嵐を使役しているのは、私では無く、『彼女たち』なのですよ」
「「「「へ? 彼女たち、って……」」」」
私の思わぬ言葉に、さも虚を突かれたかのようにして、目を丸くする少女たち。
──まさにその時、
『ウフフフフフフフ』
『アハハハハハハハ』
『クスクスクスクス』
いかにも楽しげな笑声とともに、運河の水面から顔を出す、十数名の乙女たち。
銀白色の長い髪の毛に縁取られた端整な小顔の中で、純真無垢に煌めいている、鮮血のごとき深紅の瞳。
そして、華奢なれど均整のとれた一糸まとわぬ上半身と、無数の鱗を生やした大きな尾びれ。
「……人魚、だと?」
「どうして、ファンタジー異世界の人魚が、大日本帝国の水上機を使役したりするんだ?」
「人魚型の軍艦擬人化少女が存在するのは、現代日本だけだろうが?」
「それにそもそも、どうして駆逐艦娘のおまえが、人魚なんかを率いているんだよ⁉」
口々に、至極もっともな疑問の言葉を呈してくる、戦艦娘たち。
──そこで私は、彼女たちが納得せざるを得ない、『理由』を述べたのだ。
「彼女たちは今や、ただの人魚ではありません、私たち同様に、かつての大日本帝国海軍に所属していた、いわゆる『潜水空母』であるところの、『伊号第四百潜水艦』の擬人化少女なのです!」
「「「「──‼」」」」




