第298話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その80)
……確かに、その時の私は、怒っていた。
何に? 誰に?
──もちろん、私の想いを裏切って、あっさりと捨てた、提督を始めとして、
──世界の、すべてに。
──そして何よりも、自分自身に。
──自分の弱さを、軍艦擬人化少女としての、『格の違い』のせいにして。
──提督に、己の本当の気持ちを伝えられないのを、外見年齢のせいにして。
──何としても戦いに勝つために、本来の自分の身体をあっさりと捨てて。
──ただ意固地になっているだけなのに、自分こそが正しいと思い上がって。
──そして何よりも、心から提督のことを信じているとか言いながら、彼からちょっと契約を破棄されたくらいで、あっさりと受け容れて、軍艦擬人化少女の仕様上、無様に初期化なんかをしてしまって!
「……許さない」
──私と提督との仲を裂こうとした、聖レーン転生教団も。
──仲間であるはずなのに、私を攻撃してきた、他の軍艦擬人化少女たちも。
──実力の差を見せつけるようにしてなぶり殺しにした挙げ句の果てに、実は私が『逃げ続けている事実』を無情にも突きつけてきた、『懲罰艦』の金剛嬢も。
──そんなこんなの中で、こっちが必死に闘っていたら、いかにも「……これはおまえを助けるための、断腸の思いの決断なんだ!」とか、こっちの気持ちをガン無視して、ただただ自分に酔って、主従契約をブッチして、あっさりと私を捨ててしまった提督も。
──そして何よりも、そんな『駄目男』とはつゆ知らず、心から慕って付き従い、何から何まで言われるがままになっていた、とことんまで『犬根性』の自分自身こそを!!!
「……そうだ、今こそ思い知らさなければならないのよ──一体どっちが、本当の『御主人様』であるかを!」
──すっかり、忘れていた。
──軍人にとっての軍艦とは、『いと尊きお方』から与えられた、大日本帝国の『守護神』であり『象徴』なのであって、けして単なる兵器などでは無く、自らの身命を賭しても守り抜くべき、御国の至宝なのだ。
──言うなれば、軍艦こそが『主』なのであり、提督や艦長を始めとする乗組員なぞ、その『忠実なる下僕』に過ぎないのだ。
──事実、下手を打って、『いと尊きお方』から下賜された軍艦を、轟沈の憂き目に遭わせてしまった艦長は、船と共に死ぬことを余儀なくされていた。
──確かに軍艦を始めとする船の類いは、古来より『女性』として暗喩されているし、当然のように己の乗組員たちを愛しているが、それはあくまでも、自分に対して滅私奉公をしてくれる、奴隷たちを愛玩しているだけの話なのだ。
──そしてこれは、私たちのような『軍艦擬人化少女』ともなれば、尚更であった。
──普通の軍艦であれば、艦長以下の乗組員がいなければ、ただの鉄の塊でしかなく、彼らの操船が絶対に必要となろう。
……実はこれこそが、たかが人間の乗組員どもに、自分たちが軍艦の主であるかのように思い上がらせてしまった、最大の原因なのであるが。
──しかし、軍艦であるだけでは無く、『少女』でもある私たちは、当然『自律行動』が可能であり、別に海上での集団戦だけでは無く、陸上での単独でのゲリラ戦ですら余裕でこなせるので、提督や艦長等の海軍軍人どころか、人間そのものを必要としなかった。
──とは言え、往年の軍艦以上にフレキシブルな運用が可能であるゆえに、兵器としては剣と魔法のファンタジー異世界においても『最強』の一角を占めかねない強大さを誇っているので、何らかの『ストッパー』が必要となり、あくまでも『制御装置』としての人間を、己の主である『提督』と見なしての、『主従契約』を結ぶことこそが、持ち得る全性能を発揮しての稼働を可能とする、絶対条件とされていたのだ。
──それは、本作におけるこれまでの私自身の活躍を振り返ってみれば明白で、軍艦擬人化少女としての絶対的な『暴力』の前では、大陸きっての召喚術士兼錬金術師である提督による、指示や作戦などと言った『小細工』などまったく必要とせず、己と同じ軍艦擬人化少女以外のあらゆる相手を、いとも容易く屠ってきたことこそが、如実に証明していた。
──そうなのである、本来なら提督なぞ不要なのであって、あくまでも運用上の決まりだから、不承不承『使われてやっている』だけなのだ。
「……それなのに、私のことを捨てるなんて、思い上がりも甚だしいというものです。どちらが真の『主』であるのか、これからきっちりと、思い知らせてやることにいたしましょう」
そのように私が決意を新たにして、この聖都の中心部であり象徴でもある、聖レーン転生教団の教皇庁『スノウホワイト』の高層部のバルコニーにて、こちらのほうを怖々とした表情で窺っている、情けなさ過ぎる己の『元主』のほうを睨みつけた、
まさに、その刹那であった。
「──ッ。集合的無意識と、緊急アクセス! 防御結界を展開!」
私が慌てて、周囲の大気を『即席バリア』へと変化させた、次の瞬間、
辺り一面が、盛大なる爆炎と爆風とに、包み込まれたのであった。
「……索敵反応が、真上? まさか、まさか、あれは──」
ずい、うん?
──そう、爆炎の切れ目から大空を見上げれば、地上およそ数百メートルの高度でゆっくりと旋回していた、十五、六機ほどの巨大な下駄付きの深緑色の機体は、紛う方なく、大日本帝国海軍が大戦末期に実用化した、航空母艦以外の戦艦や重巡洋艦での運用をも可能とする、水上偵察機兼急降下爆撃機であるところ、超傑作機『瑞雲』であったのだ。




