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第297話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その79)

「……何だ、こりゃ」




 その時僕こと、魔導大陸きっての違法召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルは、眼前に広がる、世界宗教聖レーン転生教団の総本山である、教皇庁『スノウホワイト』の()()()()()()()に、思わず目を見張りうめき声を上げた。




 信徒が数多く暮らしている広大なる聖都の市街地と、その中心にして象徴である巨大なる教皇庁とを隔てている、運河網を始めとして、その堤防の壁面も、運河沿いの建物も、堅固な防御兵力に守られていた、教皇庁の外周を取り巻く『七支塔セブンリトルズ』ですらも、今や無残な瓦礫の山と化しており、文字通りの本丸である主塔『スノウホワイト』は、すでに丸裸同然となっていた。


 ──そして、そのような地獄絵図そのままの運河の中を、ただひたすら悠然と歩み寄ってくる、一つの小さな人影。


 それは、年の頃十歳ほどの、幼い少女であった。


 その姿が、もうもうと立ちこめて辺り一面の視界を遮っていた、爆炎の中から現れた途端、四方八方から響き渡る、恐怖に駆られた怒号。




「──う、撃て! これ以上、教皇聖下の御座所に、近寄らせるな!」


「恐れるな! 一度は撃退した相手だ!」


「何も不死身の化物なんかじゃない、攻撃は通るはずだ!」


「撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃てえええええ!!!」




 そのような、無慈悲極まる言葉とともに、一斉に放たれる無数の砲弾。


 ──しかし、




「「「なっ⁉」」」




 間一髪、少女──大日本帝国海軍所属の一等駆逐艦、ゆうぐも型19番艦『きよしも』の擬人化少女である、キヨの小柄な肢体の周囲に、海の鬼火である『不知火』が灯ったかと思えば、迫り来る砲弾をあたかも吸収するするかのように消し去ったのだ。


 ──そして、




「……集合的無意識とアクセス、駆逐艦清霜の兵装情報(データ)をダウンロード」




 少女の真珠のごときつやめく小ぶりの唇が、何やら呪文じみたことをつぶやくや否や、不知火がやにわにその形態を変化メタモルフォーゼさせていき、


 忽然と現れたのは、武骨で禍々しき、巨大な砲門と機銃の数々であった。




「主砲、50口径127ミリ連装砲 3基6門、斉射!」




 キヨの号令一下、各支塔の壁面にて辛うじて稼働していた砲座へと発射される、多数の砲弾と銃弾。


 一瞬にして、沈黙してしまう、守備隊の最後の生き残りたち。


 もはや文字通りに『向かうところ敵無し』状態となり、悠々と我々のいる、主塔『スノウホワイト』のほうへと向かってくる、『駆逐艦デストロイヤー・ガール』キヨ。




「……えっ? えっ? 何でうちのしもべってば、『エヴ○』の旧劇場版の『弐○機』みたいになっているの? 非常に怖いんですけど⁉」




 それに対して己の口からふと漏れいでたのは、現在の心境のあまりにも素直な表明であった。


 だってキヨさんたら、『敵の本拠地』においてこれほどまでに圧倒的に不利な状況にありながら、先ほどとは完全に様変わりして、まさしく『なろう系』Web小説の主人公ばりに、一方的に無双しているというのに、息一つ乱しておらず、完全に能面みたいな無表情を維持しているんだもの。


「……もしかしてあいつ、再起動したのはいいけど、『アンドロイド作品モノ』とかに良くあるように、『感情を無くした戦闘マシン』として、生まれ変わったりしたんじゃないだろうな?」


 そのように僕が、目の前の己の身内のあまりに異様なる有り様に、つい現実逃避そのままなメタ的思想に陥っていれば、すぐさま鋭く突っ込んでくる、溜息交じりの声音。




「……何をおっしゃっているのですか? 『感情を無くした』? むしろ、『情念』バリバリではありませんか? ──それも、他ならぬ彼女の『あるじ』であられる、あなたに対して」




 ………………………は?




 思わず振り向けば、そこでいかにもあきれ果てたかのような表情で見つめていたのは、本来なら『虜囚』であるはずの僕を、なぜだかこの騒動の真っ最中に、激戦が繰り広げられている運河網が見渡せる主塔スノウホワイトのベランダへと連れ出してくれた、教団異端審問第二部所属の、ルイス=ラトウィッジ司教殿であった。


「な、何だよ? キヨが僕に対して、『情念バリバリ』って」


「……まったく、これまで何度も申し上げたではないですか? 軍艦擬人化少女というものは、その情念の深さに比例して、集合的無意識とのアクセス権が向上して、自他の変化メタモルフォーゼ能力をより強化できると。よって現在の彼女が、いかにも以前とはまったく様変わりしたかのように、『無双状態』にあるのは、それだけ強い情念を抱いている証拠なのですよ」


「え、でも、あいつはあの時、僕から契約を解消されて、『初期状態』に戻ってしまったんじゃなかったのか?」


 ……確かにあの時のキヨは、あたかもすべての感情を失ったかのような、『つくりもの(ロボット)』そのものの有り様となっていたはずだ。




「──またまた、おとぼけになるのも大概になさってください、提督さん。あなたのその『つれない仕打ち』こそが、すべての元凶ではないですか?」




 え?


 な、何だよその、『つれない仕打ち』って?


 あまりに聞き捨てならない台詞に憤然となり、()()()()『声の主』のほうへと視線を向ければ、そこには相も変わらず艶然とした笑みをたたえた青の瞳が、こちらを見つめていた。


 ──キヨと同じく『ゲンダイニッポン』という異世界から転生してきた、『戦艦型』の軍艦擬人化少女の、こんごう嬢。


「おや、何を意外そうなお顔をなされているのですか? まさしく今のキヨさんは、あなたへの『怒り』を原動力にして、闘われておられるのですよ?」


「へ? 怒りって……」




「本来なら、わたくしたち軍艦擬人化少女の原動力となる情念は、あなたのような提督さんへの『恋慕の情』であるのが基本なのですが、まさにそれをあのように無情にも拒まれたあなたに対しては、文字通りに『可愛さ余って憎さ百倍』となるのは、至極当然のことかと思いますけど?」




 は?


「い、いや、あれはあくまでも、キヨのことを思って、断腸の思いで行った決断なのであって、あの場合、他に方法は無かったじゃないか⁉」


「そんな言い訳をしたところで、何の意味もありませんよ? 何せ何度も言うように、わたくしたち軍艦擬人化少女──すなわち『オンナ』というものは、あくまでも『情念』こそを行動原理としているのですからね。いくら屁理屈を弄したところで、通用するものですか」


「お、オンナって、キヨはあくまでも僕にとっては『しもべ』であり、それに何よりも、いまだ幼い『子供』じゃないか⁉」


 ──その時僕は、極当たり前のことを言ったつもりであった。




 しかしまさにその刹那、目の前の『少女』の可憐なるかんばせから、一切の感情が抜け落ちたのである。




「……あなた本気で、そんなことをおっしゃっているのですか? そんなんだから、キヨさんも激怒されたのですよ。──いいでしょう、あなたにはこれより、年齢とか種族とか立場とかを一切度外視した、『女の恐ろしさ』というものを、徹底的に思い知らせて差し上げますわ♡」

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