第295話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その77)
『──二の塔、全砲座、沈黙!』
『──ワイバーン航空隊、全騎被撃墜!』
『──神聖騎士団及び魔導僧兵団、全隊無力化!』
『──魔法少女シスター隊、ソウ○ジェムの穢れが限界に達して、魔女化始まります!』
「──ええい、何をやっておる!」
「それでも、教皇庁直属の、精鋭部隊か⁉」
「敵はたかだか、小娘一人だろうが!」
「これ以上の侵攻は、何としても食い止めろ!」
「教皇聖下のご避難を、急がせるんだ!」
『そ、それが、いまだ現在の御居所を、把握できておりません!』
「「「な、何だと⁉」」」
『昼食を済まされた後に、いつものようにふらりと教皇庁をお出になってから、ご足跡を完全につかめないままとなっております!』
「……また聖下の、悪い癖がお出になったか⁉」
「何も、こんな火急の折に!」
「やむを得ん、侍従隊だけでは無く、諜報部門や教宣部門等の、人探しや情報収集に長けた者たちも総動員して、至急見つけ出すんだ!」
「いいか、我が聖レーン転生教団は、教皇聖下が──否、アグネス=チャネラー=サングリア様がおられなければ、存在意義が瓦解するのだぞ⁉」
「我々最高会議メンバーである、枢機卿全員の面目にかけて、何としても聖下だけは、無事に逃げ延びていただくのだ!」
「──それには、及びません」
文字通りに喧々囂々の怒鳴り合いの真っ最中だった、教皇庁最上階の大会議室に響き渡る、あまりに場違いな落ち着き払った声音。
「……ラトウィッジ、司教」
会議室の入り口へと一斉に振り向き、いつしかそこでたたずんでいた人影に向かって、ぽつりとその名前をつぶやく、最長老の枢機卿殿。
そう、私こと、聖レーン転生教団異端審問第二部特務司教、ルイス=ラトウィッジへと。
「一体いつから、そこにいた⁉」
「これは、枢機卿のみに許された、緊急首脳会議なんだぞ!」
「──いや、そんなことよりも、そもそもこの事態は、一体どういうことなんだ⁉」
「今回の、『軍艦擬人化少女』に関する『実験』については、君が責任者だろうが⁉」
「それなのに、どうして討伐したはずの、『駆逐艦型』が再稼働しているのだ⁉」
「……え? そりゃあ、教皇聖下御自らが、精神的にも肉体的にも『復活』するように、お導きになったからですが?」
「「「は?」」」
「だって、迷える『人魚姫』を適切にご指導なされるのは、『海底の魔女』にとっての、大事なお役目ではありませんか?」
「……ということは、つまり?」
「もちろん、これもすべて、『筋書き』のうちってことですよ」
「「「──な、何だとおおおおおおおおおおおおお⁉」」」
「これはあくまでも、駆逐艦型の軍艦擬人化少女と、それを召喚及び錬成した術士との、『コンビネーションの限界値』の検証実験では無かったのか?」
「貴様、我々最高首脳会議まで、謀っていたのか?」
「しかも、畏れ多くも教皇聖下ご自身にまで、お手を煩わせてしまうとは!」
「完全に司教の権限を、逸脱しているではないか⁉」
「そうは申されましても、今回の件に関しては、聖下御自らすべてにわたって、私に一任なされておりますので」
「「「──‼」」」
私があっさりと口にした『すべての種明かし』に、さすがに言葉を詰まらせるお歴々。
「……つまり、やはり今回の『実験』は、我が聖レーン転生教団にとっての最大の悲願である、『原初の海底の魔女』の復活を、最終目的としているわけか?」
「しかし、すでに一度『戦艦型』の金剛に、あれだけ一方的に叩き潰されていながら、『実験』を続行して、何の意味があるのだ?」
「確かに、再び襲撃してきたことには驚いたが、どうせ前回の二の舞を演ずるだけだろう」
「……しかし、聖下自ら、再起動に手をお貸しになったと言うことは、それだけの価値が、あの『駆逐艦型』にあるわけなのか?」
「──ッ、まさか⁉」
「筆頭枢機卿、どうかなされましたか?」
「まさか、あの駆逐艦娘を、『憑坐』に使うつもりなのか⁉」
「「「──なっ⁉」」」
「ほう、さすがは最高幹部会の議長殿、お目の付け所が、ひと味違いますな」
「……やはり、そうなのか?」
「さあ?」
「「「『さあ』って、君い⁉」」」
──おっと、これは少し、お偉方に対して、おふざけが過ぎましたね。
……ここは胸に手を当てて、最敬礼をして、一応形だけは整えておきますか。
「すべては教皇聖下の、御心のままに。──私のような一介の司教には、考えの及ぶところではございません」
「「「うぐっ⁉」」」
聖下を引き合いに出されては、口をつぐむしか無くなる、『アグネスたん♡ファンクラブ』のおっさんたち──もとい、大陸中の信徒の皆さんの信仰の象徴たる、教皇聖下の忠実なる僕たち。
「それに、ご安心を。すでに手は打っておりますので、この騒動もすぐにでも収まることでしょう」
「……ということは、また『戦艦型』を投入するつもりかね?」
「しかし、『筆頭懲罰艦』である金剛以外は、まったく歯が立たなかったではないか?」
「そもそも前回とは違って、完全に教皇庁の敷地内で、『戦艦型』を一挙に大量に投入しては、『目標』の鎮圧のいかんにかかわらず、こちらの被害も甚大なものになるだろうが?」
「そこは大丈夫です、今回は運河網を突破されてから後は、『少数精鋭』での対応で参りますから」
「つまり、敷地内においては、前回同様に、金剛だけに対処させるわけか?」
「前回は圧勝したとはいえ、『戦艦型』一体だけで大丈夫かね?」
「現場からの報告を聞く分では、『駆逐艦型』のほうは前回よりも、攻撃力と防御力との両方で、格段の進歩が見られるそうだぞ?」
「……おや、『金剛型』の戦艦擬人化少女が、金剛嬢お一人だけだと、いつ申しましたっけ?」
「「「な、何⁉」」」
「まあ、皆様はどうぞこの安全なる大会議場にて、事態の推移をゆっくりとご覧なさってくださいませ。──これよりすぐに、最高の『実験結果』を、ご覧に入れますので」




