第292話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その74)
……提督?
……私の最愛の、王子様?
何のことなの、一体。
忘れるどころか、そんなもの、全然記憶に無いんですけど?
──だけど、
さっきからじくじくと痛みを感じる、この胸のあたりにぽっかりと開いた穴は、一体何なのだろうか?
ほんの先程までは、ただ『空っぽ』であっただけなのに、
『王子様』とか『提督』とかと、聞いた途端、いきなり痛みを感じ始めて。
今の私には、痛覚どころか、何の感情も、無いはずなのに。
魂の無い、人魚であるはずなのに。
心の無い、轟沈した軍艦の、成れの果てのはずなのに。
──どうしていきなり、有りもしない『感情』と『痛み』とが、私を苛み始めるの?
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
──私には、無いはずの、心が、痛い。
お願い、誰か、助けて! この痛みを、今すぐ止めて!
『──その痛みは、あなたに対する、「罰」なのです』
その時突然発せられた、いかにも人の心に土足で踏み込むような不躾極まる台詞は、当然のごとく、すぐ目の前にたたずんでいる、自称『海底の魔女』の少女のものであった。
……『罰』って、一体何のことよ?
『あなたが、自分自身の「心」から逃げ出した、報いのことですよ』
私が、逃げた? それも、自分の心から?
『あなたは、自分の秘められた欲望をさらけ出して、力ずくにでも王子様である提督さんを、奪い取らなければならなかったと言うのに、自分の心に嘘をついて、逃げ出してしまったのです』
え。
『これは、王子様の「真実の愛」を手に入れることこそを、根本的な存在意義としている、人魚としては、許されざる大罪でしょう』
ちょ、ちょっと、待って!
『……何でしょうか?』
私って、『人魚姫』と『軍艦の化身』との、一体どっちなの?
『…………』
なぜそこで、黙り込む⁉
まさかあんた、適当ぶっこいていただけじゃないだろうな⁉
『あはははは、まさか、そんな。私は、人魚姫とも軍艦擬人化少女とも関わりの深い、「海底の魔女」なのですよ?』
……だったら、私は一体どっちなのよ?
『両方です』
へ?
……あの、私のおぼろげな日本の記憶では、人魚の姿をしている軍艦擬人化少女は、確か『潜水艦型』のみだったような気がするんですけど?
『それはあくまでも「人魚」で、あなたはいわゆる、「人魚姫」なのですよ』
どう違うのです?
『もちろん何よりも、人を愛する心が芽生えた人魚姫は、自分にとっての王子様から、「真実の愛」を得ようとすることこそが、最大の違いなのです。──これと同様に、少女の身体と心を得た軍艦擬人化少女も、彼女たちにとっての王子様に当たる提督さんから、「永遠の契り」を賜ることこそを、最大の存在意義としているのですよ』
え、『永遠の契り』って、軍艦擬人化少女にとって、そんなに重要なものだったの⁉ ちょっとばかし攻撃力とか防御力とか耐久性とかが、向上するくらいのものとばかり思っていたんだけど……。
『──どこかの艦隊ゲームの、「仮の結婚システム」かよ⁉ ……いえいえ、そういった文字通りの、ゲーム的なキャラクターにとってのステータスアップシステムなんかでは無く、あくまでも『女としての意地』の問題なのですよ!』
『女』って、あはははは。私は確かに外見上は『少女』だけど、その本質は、性別どころか魂すらも無い人魚であり、兵器に過ぎない軍艦なのよ?
『何を申されるのです、軍艦擬人化「少女」である限りは、あなただって「女」であることに、相違は無いではありませんか?』
──‼
『そうなのです、あなたは自分が「女」であることから逃げ続けたために、最愛の提督さんの「真実の愛」を得ることができず、すべてを失い、こうして魂の無い人魚へと落ちぶれてしまったのですよ』
私が、
自分が『女』であることから、
逃げ続けていた、ですって?
──黙れ!
そもそも私は、提督から『女』として見られたことなんか、一度も無いわ!
私は、あの人にとっては、単なる『召喚物』に過ぎなかった。
私は、あの人にとっては、単なる『錬成物』に過ぎなかった。
私は、あの人にとっては、単なる『僕』に過ぎなかった。
私は、あの人にとっては、単なる『兵器』に過ぎなかった。
私は、あの人にとっては、いいとこ『妹や娘のようなもの』に過ぎなかった。
それなのに、『女』として見てくれることなんか、あるはず無いでしょうが⁉
『──だからそれこそが、「自分が女であることから逃げている」、と言っているのですよ!』
なっ⁉
『僕や妹としか見られないから、何だと言うのですか⁉ それってむしろ、Web小説やラノベ的には、「勝利ヒロインフラグ」でしょうが⁉ つまり要は、あなた自身の努力次第なのです! あなたが自分の「女を武器にして」、全力で迫っていって、提督さんを堕としてしまえばいいのですよ!』
お、女を武器にしろって、私は外見上は、10歳ほどの幼い子供なのよ⁉
……そ、それに、提督はすでに、私を捨てて、戦艦型である、金剛さんを選んでしまったんだし。
『たとえ10歳だろうが何だろうが、女であることには間違い無いでしょうが⁉ あなたは提督さんに舐められているのですよ! 「僕や妹扱いされるばかりで、女として見られたことは無かった」ですって? あなたには、女としてのプライドは無いのですか⁉ もし少しでもあると言うのなら、提督さんに目に物を見せてやりなさい! それに、自分の最愛の王子様が、ちょっと別のお姫様に現を抜かしているからって、すごすごと引き下がるような、「人魚姫」なんかになっては駄目よ! 女の意地を見せて、奪い取ってみせなさい!』
う、奪い取れ、って……。
『そうよ、「真実の愛」とはつまり、「略奪愛」のことなのです!』
──はあああああああああああああああああああっ⁉




