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第291話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その73)

『ウフフフフフフフ』




『アハハハハハハハ』




『クスクスクスクス』




 ──再び意識を取り戻した時、


 ──そこは見慣れぬ、水の底で、




 聞こえるはずの無い、いかにも楽しそうな笑声が、頭の中で直接鳴り響いていた。




 ──人魚?


 閉じていた瞳をゆっくりとひらけば、自分が確かに水中にいるのを確認すると同時に視界に飛び込んできたのは、上下左右を問わずあたかもダンスを踊るように泳ぎ回っている、大きな魚みたいな尾びれと一糸まとわぬ幼い女の子の上半身とを有する、無数の人魚たちの姿であった。


 緩やかなウエーブを描いている長い銀白色の髪に縁取られた、端整なる小顔の中で天真爛漫に輝いている、鮮血のごとき深紅の瞳。




 ……ここは、一体?




 ……どうして、私は、こんな所にいるの?


 ……どうして、水の底にいるのに、平気なの?


 ……それにどうして、水の中だというのにさっきからずっと、人魚たちの笑い声が聞こえてくるの。




 ……そもそも何よりも、私は一体、何者なの⁉




『──何をおっしゃっているのです? もちろんあなたも人魚であるに決まっているではないですか?』




 ……は?


 私が、人魚、ですって?


 つい足元を見てみるが、そこには普通の人間の足があるだけであった。


『……おやおや、お忘れですか? あなたは()と取引をして、人間の身体を得たのではありませんか?』


 あなたと、取引を?


 ──というか、あなた、誰です?


 どうしてこのような、水の中に平気でいるのですか⁉


 ……そうなのである。


 気がつけば、私のすぐ目と鼻の先に、一人の少女が忽然と姿を現したのである。


 十歳ほどの幼く小柄な肢体を包み込む、瀟洒なワンピースドレスに始まって、その長い髪の毛も、透き通るようなすべらかな肌も、すべてが白一色という穢れ無き清廉さを体現し、あたかも天使や妖精さえも彷彿とさせる、絶世の美少女。


 ──ただし、その瞳だけが、周囲の人魚たち同様に、神秘的なまでに深紅に煌めいていた。




『私が水の中にいるのは、当然でしょう? 何せ私こそが、あなたに人間の身体を与えた、「海底の魔女」なのですからね」




 ………………………は?


 海底の魔女ですって? あなたのような、幼い女の子が?


『あら、「幼い女の子」であるのは、あなたも御同様でしょう?』


 え?


 言われてみれば、私の手足も、彼女同様に、小さく華奢なものであった。


 ……私があなたから、『人間の身体を与えられた人魚』だとすると、どうして今現在、水の中なんかにいるのよ?


 たとえ人間の身体になろうとも、元々が人魚であれば、このように水の中でも、平気でいられるのだろうか?


 ──などと、そのように安易に考えていれば、自称『海底の魔女』が、衝撃的な言葉で否定してくる。




『いいえ、あなたは自分の愛する王子様に裏切られて、「真実の愛」を手に入れることができなかったので、少女ニンゲンでいることができなくなり、再び水中に戻らざるを得なくなったのです』




 な、何ですって⁉


『王子様』とか『真実の愛』とか、一体どういうことなの⁉


 それに、『少女ニンゲン』でも無くて、外見上人魚でも無いとしたら、一体今の私は、何者だというの?




『そりゃあ、「軍艦擬人化()()」が少女では無くなったのだから、あなたは以前通り、かつて無念にも轟沈してしまった「軍艦」の怨念や憎悪等の、「残留思念」が具象化したようなものであるわけなのですよ』




 この私が、言うなれば軍艦の、『成れの果て』ってことなの⁉


『だからこそ、せっかく与えられた少女としての「人格」も、王子様の「真実の愛」を得ることができなかったために、それまでの彼との「記憶」もろとも、文字通りに「海の泡」と消え去ってしまい、現在のあなたはまさしく、「初期状態」となってしまっているのですよ』




 ……ああ、


 ……そう言うことか。




 道理で、気がついて以来ずっと、ただ単に記憶が無いだけでは無く、心の奥底までもが、『空っぽ』であったわけなんだ。




 ……でもそれにしても、まさにその『轟沈した軍艦』としての憎悪や怨念、その他の感情や記憶の類いまでもが、まったく無いのは、どうしてだろうか?


『それは、まさに軍艦の悔恨の念の具象化そのものとも言える「海底の魔女」から、「人間の身体を得た人魚姫」である軍艦擬人化少女となったことで、一度「負の感情」がリセットされたために、もはや「海底の魔女」に戻ること無く、いわゆる「人間としての魂の無い人魚姫」である、「普通の人魚」に立ち戻っているわけなのですよ』


 ──そうか、


『魂の無い、人魚姫』か。


 確かに今の私は、こんな水の底にいると言うのに、哀しくも惨めでもなかった。


 ここが私にとって、本来の住み処だと言われたところで、何の違和感も覚えないであろう。




『ウフフフフフフフ』




『アハハハハハハハ』




『クスクスクスクス』




 ──まさにその時、水の中だから本来なら聞こえないはずの、人魚たちの笑い声が、直接脳内に響き渡ってくる。




 そうだ。


 これでいいのだ。




 ──ここならもう、辛いことは無い。


 ──ここならもう、傷つくことは無い。


 ──ここならもう、裏切られることは無い。


 ──ここならもう、絶望することは無い。


 ──ここならもう、余計な期待を抱くことは無い。


 ──ここならもう、『王子様』と会うことは無い。


 ──ここならもう、誰かに思いを寄せることは無い。


 ──ここならもう、誰かを求めることは無い。




 ──ここならもう、誰かを愛する心も、人間の身体すらも、まったく必要無く、もう二度と『軍艦擬人化少女』なんかに、ならずに済むのだ。




 ……ああ、なんてすがすがしいんだろう。


 心を『無』にすることが、こんなに清々するなんて。


 これから私は、このままずっと、このみなそこで生きていこう。




 ──魂の無い、人魚として。




『本当に、いいのですか?』




 え?




『本当に、「あの方」のことを──あなたにとって最愛の『提督』さんのことを、お忘れになることが、できますの?」




 ──‼

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