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第29話、『妖女ちゃん♡戦記』ショゴたんVSショゴたん、関ヶ原の大決戦⁉

 ──大陸北部、魔族国家『デモニウム』、古戦場『セキ=ガーラ』。




 現在ここでは、もはや一切の秩序が保たれておらず、無数の兵士がただ闇雲に、周囲の()()()()()()()者たちと、ガチの殺し合いをし続けていた。




 剣や槍のような原初的な武器による肉弾戦に始まり、弓矢や銃火器による遠距離戦、果ては何と大砲や戦車による、一方的な大量虐殺すら行われていた。


 使っている武器の差異が大きすぎて、剣と戦車なんて下手すると、「時代が違うんじゃないの?」と言いたくなるが、なぜか当の本人たちは気にするそぶりすら見せず、戦車が接近してきても、剣による斬り合いをし続けて──そしてそのまま敵味方共、戦車のキャタピラに踏み潰されてしまう──といったことも散見された。




 ──しかし何と、この異様なる戦場においては、死亡する者はおろか、大けがを負い身体の部位が欠損したりする者なぞ、ただの一人たりとていなかったのである。




 ……いや、ちゃんと、正直かつ正確に、言い直そう。


 実際には、もっとおぞましき、文字通りの『地獄絵図』が展開していたのだ。




 一応私も聖職者の端くれゆえに、詳細な描写は省くが、確かに大砲や戦車の砲弾によって、人体なぞ容易く細切れ吹き飛ばされるし、剣による白兵戦においても、手足が切断されることがままあった。


 だが何と、バラバラになった肉片は、まるでそれぞれが生きているかのように寄り集まってきて、元通りの一体の人間の形を取り、再び戦い始めるし、手足を失った者も、あたかも痛みなど無いようにそのまま戦い続けて、こちらもそのうちに欠損した部分が元通りになってしまったのだ。




 無限に殺し合い、無限にバラバラになり、無限に死に、無限に生き返り、更に無限に殺し合う──これを地獄と言わずして、何を地獄と言うべきであろうか?




「……ええと、魔王様といたしましては、これは実験的に、『失敗』なんですか? それとも『成功』なんですか?」


 私がいかにも恐る恐るといった感じで、相手を怒らせないように声をかければ、そのいかにも現代日本の大学生か下手したら予備校生にしか見えない地味な青年は、不満そうな表情を隠そうとはせずに口を開いた。


「……あなた、僕のことを、一体何だと思っているんです? いくら魔王とはいえ、この異常なる光景を見て、『ぐわっはっはっはっ、これぞ人間どもの、本性というものだ! いいぞいいぞ、このまま永遠に殺し合うがいい!』とでも、言うと思っているのですか? もちろんこれは、実験的にも、倫理的にも、大失敗ですよ。──ということで、ヤミ、やってくれ」


「──らじゃあー、お兄ちゃん♡」


 そう言って、彼の傍らの四、五歳ほどの、全身黒一色に飾り立てられた愛らしい幼女が、右手を軽く振ったところ──




 激しい戦闘を繰り広げていた無数の兵士たちが、剣や銃器や戦車等の武器も含めて一切合切、一瞬にして消滅してしまったのである。




 ──倫理とか口にするんだったら、幼い妹さんに数万の兵士を、虫けらのごとく抹消させるのも、どうかおやめくださイイイイイ!!!




 ……あえて口にはせずに、心の中に留め置きましたが、まさにこれぞ現在の私にとっての、嘘偽りのない本心でした。


 とはいえ、我が聖レーン転生教団自体も、今回の『実験』に全面的に協力してきたのも事実であり、まるっきり『他人事』であるかのように、コメントし続けるのにも無理があった。


「……やはり、人間の魂を『ショゴス』のような、不定形な生物に転生させるのは、失敗だったようですね」

「う〜ん、もちろんその一言に尽きるでしょうが、そもそもそれを前提にしての実験なのですから、もうちょっと細かい点を具体的に洗い出していただきたいんですがねえ……」

「あっ、こ、これは、失礼いたしました!」

 さすがは、『知謀系』の魔王様、御指摘の細かいこと。

 ──しかし、聖レーン転生教団においても極秘の存在である、『(アハト)(アハト)()()()()最終計画研究所』所属の分析官としては、真摯に反省し、大いに見習うべき、お言葉でもあった。


「例えばですねえ、異世界転生のシステムを利用して、現代日本の方をある特定の異世界人に憑依させて、あくまでもゲームとしての『カミカゼアタック』等の自爆ごっこを体験してもらう場合には、死亡と同時に再転生シークエンスに入って、また別の異世界人に転生して、自爆特攻を繰り返すことになりますので、具体的な『死』の痛みや恐怖を体験しているわけ()()()()のですが、今回のようにショゴスに転生した場合には、いくら手足を切断されようが砲弾で吹き飛ばされようが、痛みを感じるどころか死ぬこともなく、そのうち傷が癒えて四肢も復元するという、()()()()()()()()()()()()()()()異常な状況を、無理やり何度も体験させられることにより、とても正気を保つことができず発狂してしまい、その後には現代日本人としての『戦闘や戦争に関する記憶や知恵』を得たショゴスだけが残り、もはや敵味方関係なく、永遠に闘い続けるといった次第なのでしょう」




「……うん、一言で言うと、『それじゃとても、使い物にならない』ね?」




 ──このガキャあ、人に苦労して説明させておきながら、本当に一言で済ませるんじゃねえよ⁉




「まあ、これでは、我が魔族軍においては、『兵器』として活用しようが無いですねえ。教団さんのほうは、どうです?」

「……まあ、教団うちとしては、新たなる神にも等しき人間、『シン・ジンルイ』の実現こそが最大の悲願ですので、今回の『ショゴスを受け皿にした転生』実験は、あくまでも『参考までに見せていただいた』だけの話ゆえに、このように『失敗』の結果となったことについては、何ら意見や感想は無いのですけど……」

「ああ、そうだったね。だったら『異端者への神罰』として、転生ショゴスの一部隊を、人口密集地に投入することによって、無差別テロを行うってのはどうでしょう?」

「──あなたこそ、我々教団を何だと思っているのですか⁉ 別に宗教団体の皮を被った、国際テロ組織ではないんですよ!」

「あ、ごめんなさい。こういった話は、『異端審問第二部』さんに、持ち込むべきでしたね」

「──うっ」

 た、確かに『あそこ』なら、喜び勇んで受け容れそうですね……。

 このクソ魔王、わかっていて、私のことをおちょくっていますね⁉

「……しかし、意外でしたね、当代の魔王陛下はてっきり穏健派であられて、人間国との外交も『協調路線』を堅持されているとばかり、思っておりましたが?」

 すると目の前の、いかにもうだつが上がらない青年が、こちらのことを鼻で笑った。


 ──とても怒ったり、クレームをつけたりは、できなかった。




 なぜなら、目と鼻の先にある漆黒の瞳は、紛う方なく、魔王としての『絶対者』の威厳に満ちていたのだから。




「……周囲に対して何の備えもなく、『平和主義』だの『協調路線』だのと、お題目だけ唱え続けるなんて、馬鹿のやることですよ。『現代日本は専守防衛が建前だから、爆撃機を保有してはならない』ですって? 無能どもめが。先の大戦のヨーロッパ戦線開始当時において、弱小国のフィンランドが、超大国のソビエト軍の侵攻に対して、飽くなき『阻止爆撃』を繰り返すことによって、自国内にソ連軍の橋頭堡を築くことを阻んで、祖国が完全に占領されることを免れて、事実上の勝利を得たように、いついかなる時に人間国が徒党を組んで我が魔族国に攻め寄せてきてもいいように、こういった戦略的『殲滅兵器』を保有していることも、指導者の義務の一つなんですよ」

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