表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
288/352

第288話、ナデシコ転生!【沖縄戦終結75周年特別編】(中編)

 ──『豊葦原千五百秋瑞穂国』、またの名を、『ミッドガルド』。




 ヤマトの故郷である『あちらの世界』においては、代表的なファンタジー小説『指輪物語』における『中つ国』として知られており、洋の東西を問わず、神話時代における人類の生存圏そのもの──あるいは、その中心地を指すものと言われている。




 同様に剣と魔法のファンタジーワールドであるこの世界にも、まさしく『ミズガルズ連邦共和国』と呼ばれる国家が存在しており、いわゆるRPG的には名実共に、世界最強かつ最凶の『ラスボス』の国として見なされていた。


 ──とは言っても、当『ミズガルズ連邦共和国』──略して『ミッド国』は、『なろう系』でありがちなパターン的に、『暴力と恐怖』とで人々を支配するのでは無く、いわゆる『知謀』系というか『情報操作』系の、『世界の黒幕』的国家であったのだ。


 別に他の国攻め込んだり、自国の優位性を殊更喧伝して周囲を見下したり、あえて鎖国して交渉を絶ったり、しているわけでは無く、何と言っても人類にとっての中心国であるゆえに、文化レベルが高く、大国にふさわしい強大なる軍事力を持っていながらも、現在においては経済力の向上にこそ力を注いでいて、むしろ他国との交易を重んじ、それぞれの勢力の立場や政治理念にかかわらず、積極的に経済援助等を行っており、『表向き』には、それなりの信頼を得て、世界の指導的国家であることを認められていた。


 ……これでは『ラスボス』とか『悪の帝国』と言うよりも、『良識ある人道的国家』とでも、呼ぶべきかと思われた。




 ただし、これはあくまでも、『表面上の話』に過ぎなかったのだ。




 ほぼすべての国と商取引をしていると言うことは、当然のごとく、世界中の国々にミッド国人が進出しているわけで、古くから彼らは『ミッドきょう』と呼ばれており、各地にミッド人居留地である『ミッドタウン』を築き、その絶大なる経済力を背景にして、各国の政財界に多大なる影響を及ぼすとともに、大量の資金や産物や、そして何よりも()()を、本国へと送還していたのであった。


 ──そう、『情報』である。


 ミッド国独特の、『コミー思想』。


 これはこの世から、種族や宗派や貴賤や貧富における『差異』を、すべて根絶して、全世界の人民を皆平等な存在にしようと言う、『究極の平等思想』であった。


 ……こう言うと、一見手放しで褒め讃えるべきものであるかのように思われるが、実はこれこそは、『甘い言葉で人々を騙そう』とする、『狡猾なる罠』そのものであったのだ。


 例えば、『法律』と言うと、いかにも『力無き大多数の庶民を、凶悪なる犯罪者や横暴なる権力者等から、()()もの』とでも、思われがちだが、これは大きな間違いだ。


 法とはつまり、『争いごとを取り締まるもの』なのであるが、あくまでもそれは、『下々の者たちの争い』限定なのである。




 つまり、王様とか皇帝とか独裁者とか大金持ち等々にとっては、下々の者がいつまでも、()()()()()()()で争っていたら、自分たちの円滑なる政治や商売の邪魔になるので、法に基づいて即刻やめさせているだけの話なのだ。


『あちらの世界』の時代劇でよく見受けられる、『喧嘩両成敗』なんかが顕著なケースで、「下々の者の争いなんか、いちいち捜査とか裁判とかやっていられるか! どっちにも罰を与えておしまいだよ〜ん☆」などと言った、むちゃくちゃ極まるものでしかなかった。


 同じく『時効制度』についても、別に三流ミステリィ小説やテレビの刑事ドラマなんかに、ご親切に『題材』を与えてやっているわけでは無く、各種の犯罪において、下々の者たちがいつまでも『争い合っている状態』であるのは、いわゆる『上級国民』様にとっては非常に目障りなので、どんな重要な犯罪であろうが期限を切って、「それ以降は、みっともなく争ったりするなよ?」と、支配者側が強権を発動しているだけなのだ。




 そしてその究極系が、『全人民の完全なる平等』を標榜する、ミッド国ならではの『コミー思想』であった。




 つまり、ミッド国の人民代表議会──すなわち、支配組織である『コミー党』における、最高幹部以外の下々の人民を、皆等しく『国家奴隷人民』として扱うことによって、国営企業で『コミー労働者』として死ぬまで酷使したり、(あくまでも第一次段階である)『情報戦』が失敗に終わった際の、(最終手段たる)『実力行使』においては、『コミー人民兵』として使い捨てにするといった次第であった。




 もちろん、生まれると同時にコミー思想によって洗脳されている、コミー人民たちは、少しも疑問に思うこと無く、国家とコミー党から言われるがままに、労働者や兵士として国家に尽くしていくことこそを、最大の喜びとしていたのだ。




 ──そして、ミッド国の最終目標は、コミー思想による世界征服であり、すべての人々のコミー人民化による、『真に理想的なる平等世界の実現』なのであって、まさしく事実上の、ほんの一握りのコミー党幹部だけによる、独裁的世界支配体制の確立であった。




 ……あまりにも壮大極まる目標であるが、『勝算』は十分にあった。




 なぜなら、彼らの全世界の人々に対する、『コミー洗脳工作』のための手段は、何も『ミッドきょう』による、経済活動やロビー行為だけでは無かったのだ。




『集合的無意識との、上位アクセス権』。




 まさしくファンタジー世界における『インターネット』そのままに、ありとあらゆる世界から無数の情報が集積していると言われる、『集合的無意識』との、その身に秘めたる魔導力により差異の生じる、『アクセス権』の優劣によって、『知りたい特定の事柄の情報』に始まり、『全知そのものの、すべての情報のフリーアクセス』から、『他の世界の人物の記憶のダウンロードによる、事実上の異世界転生の実現』に、果ては、『他の世界の人物の記憶をダウンロードすると同時に、その人物の形態情報(データ)も一緒にダウンロードして、それを基に魔術を用いて受け手の人物の肉体を再構成メタモルフォーゼさせて、まるで他の世界の人物が肉体丸ごと移行してきたかのような、事実上の異世界転移の実現』すらも、為し得たのだ。




 例えば、当該『異世界転生のシステム』を応用すれば、この世界の人間に一挙に大量に、『コミー思想』を植え付けることだってできるだろうし、更には『異世界転移のシステム』を活用すれば、別の世界の、コミー類似の思想を有し、現代兵器で武装した兵士を、一気に大勢この世界に召喚して、『全世界人民解放戦線』を物理的におっ始めることすらも、十分に可能かと思われた。




 ──それと言うもの、まさしく現在僕の目の前で、『実演』されていたのだから。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……あ……あ……あ……あ……あああああああっ⁉」




「──提督⁉ しっかりなさってください!」




 ミズガルズ連邦共和国、首都(ほく)、『グレムリン宮殿』。


 この黄色オーク国家の最高権力者である、書記長『プーチャン』の許へと、やけにあっけなくもまったく何の障害も無く乗り込むことを果たした、勇者である僕を始めとするパーティ一行であったが、一応こちらの話は大人しく聞いてもらえたものの、自分たちの悪事を認めて即刻取り止めること自体は、文字通り『暖簾に腕押し』でのらりくらりとかわされて、まったく埒があかず、結局物別れに終わってしまい、いざ実力行使に移ろうとしたところ──


 書記長を護衛していた、二、三名ほどのオーク兵が、こうつぶやいたのである、




「「「──集合的無意識とアクセス、オキナワ駐留米軍兵の、形態情報(データ)をダウンロード!」」」




 すると、その途端。


「………………あ?」




 オークたちが皆、この装飾過多な衣裳がデフォルトのファンタジーワールドにおいては、妙にシンプルで機能的な軍服をまとった、全身漆黒の肌をした筋骨隆々たる巨体の、戦士体形の男たちへと変化メタモルフォーゼしたのであった。




 何だ、


 何だ、


 何だ、


 何だ、


 何だ、


 何だ、




 ──この、心臓をいきなり鷲掴みにされたかのような、息も詰まるような根源的恐怖感は⁉




 こんな、生まれて始めて目にした、あまりに珍妙な『黒い人間』が、一体何だと言うのだ?


 僕は、『勇者』、なんだぞ?


 これまでずっと、人間の敵兵どころか、凶悪なモンスターどもさえも、無数に屠ってきたのだ。


 今更、ちょっと外見が強面こわもての大男に出くわしたくらいで、怖じ気づくわけが──。




「ヘイ、ボーイ、『鬼ゴッコ』をしようぜ。──()()()のようにな♡」




「──うわあああああああああああああああああああああッ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ