表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/352

第286話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その72)

「……これで、いいんだな?」




「はい、ありがとうございます。お約束通り、こんごう嬢のほうも、直ちに攻撃を取り止めたようです」


「本当に、キヨの身の安全は、保障してくれるんだろうな?」


「その点についても、ご心配なく。我々は別に、きよしも嬢を破壊するのが目的ではありませんので」


「……だったら構わない、僕のことは、好きなようにしてくれ」




 己自信の現代日本からの召喚物であり、最愛のしもべでもある、大日本帝国海軍所属、一等駆逐艦(ゆう)ぐも型19番艦『清霜』の、軍艦擬人化少女のキヨが、同じ戦艦型の軍艦擬人化少女の金剛嬢に、一方的に袋だたきにされているというのに、いくら相手が降伏を勧告しても応じようとはせず、挙げ句の果てにはあるじである僕の撤退命令にもまったく耳を貸さないので、最後の手段として、彼女との主従契約を解除したのだが、その途端キヨからすべての感情が抜け落ちて、まさに出会った当初の『機械の人形(ロボット)』そのものの、初期状態(モード)となってしまったのだ。




 ……これもすべては、召喚主にしてあるじである、僕が至らぬばっかりに。


 ──くっ、すまない、キヨ!




「……そんなに、気を落とさないでくださいよ。我々教団は、別にあなたに危害を加えるつもりは無いのですから」


 僕のあまりの落胆ぶりを見かねたのか、何とすべての黒幕であるはずの、聖レーン転生教団異端審問第二部の特務司教であるところの、ルイス=ラトウィッジ氏が、恐る恐る慰めてきた。


「は? キヨだけでは無く僕にも、教団お得意の『神罰の地上における代行』を及ぼすつもりは無いだと? だったらどうして、こんなところでいきなりちょっかいをかけてきたんだよ?」


「『神罰』などとは、とんでもない! むしろあなた方こそ、我々教団にとっての、『真の願いの代行者』であられるのですから!」


 ……何だと?


 教団にとっては『お尋ね者』であるはずの、違法召喚術士の僕と、その召喚物であるキヨとが、『真の願いの代行者』だって?


 一体何を、言い出すつもりなんだ?


「まさか、ここまで理想的な『実験データ』を、採取ゲットできるとは。いやあ、まさに期待以上ですよ。──ねえ、あなたもそう思われませんか、金剛嬢?」


 え。




「はあ〜い、提督さんはこちらの想像以上に、素晴らしいお方でしたわ。──是非とも、わたくしのためだけの、『提督ダーリン』になっていただきたいほどに♡」




 唐突に、すぐ耳元に吐息とともに吹きかけられる、涼やかな声音。


 思わず振り向けば、まるで真夏の大空のような青の瞳が、黄金きん色の長い髪の毛に縁取られた、彫りの深く端整なる小顔の中で、いかにもいたずらっぽく煌めいていた。


「……金剛、嬢」


「まあ、他人行儀な。これからはわたくしのことは、どうぞご遠慮なく、金剛『サマ』とお呼びくださいませ」


「他人行儀も何も、君とは今日会ったばかり…………って、どうしていきなり『サマ』呼びなの⁉ それにそもそも、一体いつの間にこんな近くまで、忍び寄っていたんだよ?」


「オホホホホ、何せわたくしこう見えても、帝国海軍きっての、()()戦艦ですからね」


 ……いや、戦艦がちょっとばかし高速だからって、音も無く接近することなんて、到底できないと思うんですけど。


「悪いけど、僕には君と、『永遠の(エターナル・)契り(エンゲージ)』とやらはおろか、普通に主従契約を結ぶつもりも無いからな?」


「あら、つれないお言葉ですこと。わたくしって、そんなに魅力がございませんか?」


「──ちょっと、君⁉」


 いかにもわざとらしく拗ねた表情をしながら、僕の右腕へと抱きついてくる、一応大日本帝国海軍の戦艦の擬人化少女。


 ──さすがは西欧生まれと頷かざるを得ない、発育のいい二つの柔らかな膨らみが、惜しげも無く押しつけられてくる。


「……何の真似だ?」


 たった今キヨとの契約を破棄したばかりの僕に対して、あまりにも不謹慎な行為に、つい怒気のこもった声を漏らしてしまう。


「うふふふふ、冗談ですわよ」


 それに対して、思いの外あっさりと身を離す、ミドルティーンの少女。




「提督さんには、これからじっくりとわたくしの魅力を知ってもらって、墜とそうかと思っておりますので、どうぞご覚悟のほどを♡」




 ──うっ。


「……どうして君たち軍艦擬人化少女は、どいつもこいつも僕みたいなやつを、自分の『提督』にしようとするんだ? どんなに控えめに言っても、カタギとは言えない、お尋ね者の違法魔導士なんだぞ?」


「むしろ、『そう言うところ』、ですわ」


「へ? そう言うところ、って……」




「仮にもわたくしは、あなたの愛するしもべであるキヨさんを、一方的にフルボッコにして、お二人の契約状態を力ずくで解除してしまったと言うのに、こうして図々しくまとわりついてきても、少しも非難なされないのですもの」




 ──っ。


「……それは、仕方ないじゃないか、何せ君には、非難するところが()()んだからな」


「ほう?」




「君の言う通りだよ。僕たち主従は、お互いに信頼しきっていると思い込んでいたけど、それは文字通りに『思い込み』に過ぎず、結局のところは、完全に心を開いて相手のことを受け容れてはいなかったんだ。召喚術士でありあるじでありながら、そんなことにも気づけなかった僕の未熟さこそが、キヨをあそこまで追いつめてしまったのさ」




「……まったくもう、ここで単に、しもべの未熟さを責めるのでは無く、あくまでもご自分の責任だとおっしゃるところこそが、あなた様の美点なのでしょうね」


「よしてくれ、未熟だったのは僕のほうだ。キヨに対してはただただ、申し訳ないことをしただけだ」


「なるほど、そこまで徹底して清霜さんのことを、お庇いになられるわけなのですね。──でも、一つだけ、ご忠告させていただきますわ」


「え、忠告って……」




 突然の思わせぶりな言葉に改めて見つめ直せば、その金髪碧眼の美少女は、これまでになく真摯な表情をして、厳かに言い放った。




「あなたは少し、わたくしたち軍艦擬人化少女というものを、甘く見過ぎておられるようですが、そんなことでは、後々手痛いしっぺ返しを食らってしまいますわよ? ──特に、あなたの愛する、しもべさんとかからね♡」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ