第285話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その71)
「実は、あなた方駆逐艦型や海防艦型のような、下位の軍艦擬人化少女であっても、『最強』であることを運命付けられて生み出された、我々戦艦型に打ち勝つ方法が、一つだけあるのです」
『……何ですって?』
「──それこそがまさしく、提督との究極の信頼関係である、『永遠の契り』なのでございます!」
『……提督との、究極の信頼関係、永遠の、契り?』
え、そんなシステムがあったなんて、初耳なんですけど?
……しかも、『永遠の契り』とかって、『結婚』なんかを想像させるよね。
まさか、人間の提督と、単なる従者であり、基本的に兵器に過ぎない、軍艦擬人化少女が、結婚だなんて。
あはははは、そんな馬鹿げたシステムなんて、相当イカれたゲームくらいにしか、あり得っこないわよね☆
「そもそも我々軍艦擬人化少女は、提督に信頼されればされるほど、『力』を発揮できるようになっております。よって信頼度が頂点を極める『永遠の契り』を、提督との間に結んだ者は、戦艦型すら凌ぐ力を手に入れることができるのです」
『……いやでも、あなたたち戦艦型は「懲罰艦」でもあるのだから、あなたたちよりも強い力を、他の軍艦擬人化少女に与えるのは、まずいんじゃないの?』
「これは異なことを。私たち軍艦擬人化少女は、戦艦型とか駆逐艦型とかにかかわらず、提督にとっての『忠実なる僕』なのですよ? その提督の『永遠のパートナー』に選ばれた相手に攻撃を及ぼすなんて、むしろその戦艦型こそ『懲罰対象』となるべきでしょう」
あ、そうか。
「それ程、提督から信頼を得ることができるか否かは、我々にとっての最重要問題だと言うことなのです。──それなのに、どうしてあなたは、表面上はどうあれ、本音の本音では、ご自分の提督さんのことを信じずに、真に心を開くことができずにいるのですか?」
『……私が、提督のことを、本当のところは、信じ切っていないですって?』
「あなたが言うように、現在の『海底の魔女』という異形そのものの姿となっても、提督さんは少しも気にすることは無かった程なのだから、本来なら信頼関係は万全で、あなたも最大限の力を発揮できるはずなのに、実際にはそのような体たらくであるのは、あなたのほうに問題があるのではなくって? ──例えば、あなたのほうこそ提督さんのことを、信じ切れないでいて、うかつに踏み込みすぎて拒否されたら怖いから、『現状維持』に逃げているとかね」
──ッ。
私はその時我知らずに、辛うじて生き残っていた触手の先端部から突き出ている、127ミリ主砲をぶっ放していた。
「──おおっと、危ない危ない。もしかして、図星でしたか♫」
『だまれだまれだまれ黙れ──ッ! あなたに何がわかる!』
「わかりませんわよ、せっかく相手のほうが受け容れてくれているというのに、その胸の中に飛び込む勇気を持たない、チキンさんのことなんか」
『嘘を言うな! 提督は私のことなんか、相手にしてはいない!』
「……この期に及んで、そのような寝とぼけたことを口にするのは、提督さんのあなたへの信頼感に対する、侮辱なのでは?」
『──違う! 提督が受け容れておられているのは、軍艦擬人化少女としての「清霜」なんかじゃ無い! あくまでもご自身で現代日本から召喚した「僕」であり、「兵器」でしか無いのよ!』
「え?………………………あ、ああ〜、そういうことかあ」
『提督のほうがそんなご心境であられて、「永遠の契り」とやらをお願いしたところで、受け容れてくださるとでも、言うつもりなの⁉』
「……うう〜ん、それは自分のほうから積極的に、迫っていくべきじゃないの? 一応私たちは、女性の身体を与えられているのですし」
『そりゃあ、あなたのような十代半ばだったら、そのような「攻めの一手」も、ギリギリOKでしょうけど、私のような非常に微妙な年齢では、そういうわけには行かないでしょうが⁉』
「もしかしたら、提督さんのほうで、むしろ喜んで受け容れてくださるかも、知れませんよ?」
『──それはそれで、問題じゃないの⁉』
「……ふうん、やはりあなたは、『失格』のようですわね」
え。
いかにも冗談めかした会話の応酬を続けていた最中に、突然すべての表情を消し去った戦艦型の同胞の姿を見て、思わず言葉が詰まってしまった。
「これで心置きなく、全力で攻撃できますわ。──さあ、轟沈しなさい!」
『──あぐっ⁉』
ほんの至近距離にいる、金髪碧眼の15歳ほどの超絶美少女の周囲に展開されている、大日本帝国海軍所属高速戦艦『金剛』の、356ミリ45口径の主砲が一斉に火を噴き、私の残りわずかな触手をすべて吹き飛ばした。
「……召喚物や幼女だったら、何だと言うのです? 提督さんが『対等なパートナー』として受け容れてくれないと言うのなら、あなた自身が、提督さんが喉から手が出るほど欲しがるように、変わればいいのですよ!」
私のほうが、提督のために、変わるべき、ですって?
「そのように、自分はまったく努力をしないで、うじうじといじけてばかりでは、提督さんのパートナーにふさわしくありません! 何せ彼こそは、この世界における唯一の、『日本人としての因子の持ち主』であられるのですから、やる気の無いパートナーと契約なされていたんじゃ、せっかくの軍艦擬人化少女としての本来の力を発揮させることができませんからね。あなたを排除してでも契約を解除して、新たなパートナーと契約してもらったほうが、お互いに有意義でございましょう!」
そう言って、今度は私の本体へと、主砲を叩き込む、情け容赦なき『懲罰艦』の少女。
『──うぐっ⁉』
「さあ、役立たずは、とっとと轟沈なさい! 提督さんのことは、この私が責任持ってお世話いたしますので、後のことは、どうぞご心配無く!」
──私、
──私が、
──私が、消え去ってしまったほうが、
──提督にとって、幸せだとでも言うの⁉
嫌だ!
たとえ提督にとって、お荷物であろうと、
提督は、私を選んでくれたんだ!
その期待に応えられないまま、轟沈して堪るものですか!
『──うおわああああああああああああああああッ!!!』
もはや当たって砕けろと言わんばかりに、完全に無防備な状態で、金剛の擬人化少女のほうへと、突進していったところ、
「──やめろ、もうやめてくれ! わかった、言う通りにする! 清霜、おまえとの契約は、この瞬間に破棄する!」
なっ⁉
……あど、みらる?
突然、その場に鳴り響いた、己の主の大音声。
その瞬間。
私の身体から、力がすべて抜け去り、その場に静止するとともに、『海底の魔女』の姿から、デフォルトの『少女』ヴァージョンへと変化した。
『──大日本帝国海軍所属、一等駆逐艦夕雲型19番艦、「清霜」型軍艦擬人化少女。ただちに「提督」との契約関係を解除し、待機モードへと移行いたします』
自分の唇から自動的に発せられた、何の感情も含まれない、『機械音声』。
それとともに、すべての『記憶』が、消失し始めた。
──そう、何よりも大切な、これまでの提督との日々の、思い出が。




