第279話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その65)
──どうして、どうしてなの?
どうして、同じ軍艦擬人化少女だというのに、まったく歯が立たないの?
……本当は嫌だったのに、
提督の前で、こんな醜い姿を、晒したくは無かったのに、
それでも最後の手段として、『海底の魔女』にまでなったというのに、
どうして、デフォルトの少女形態のままである彼女──かつての大日本帝国海軍所属の高速戦艦、『金剛』の擬人化少女に、まったく太刀打ちできないの⁉
──それ程、同じ軍艦擬人化少女と言っても、戦艦型と駆逐艦型の間には、圧倒的な性能差があるとでも言うの⁉
「……どうやら、まだ全然、わかっていないようですわね?」
『──ひぐぅっ⁉』
あれこれと余計な雑念に囚われていた最中に、ほとほとあきれ果てた感のある少女の声音とともに、もはや完全に無防備となっている我が巨体へと撃ち込まれる、戦艦金剛の45口径356ミリ4連装の主砲。
ちぎれ飛ぶ、駆逐艦清霜の砲門や機関砲と一体化した、多数の触手。
もはや『万物変化』のスキルでは再生が追いつかず、残る攻撃可能な触手は、五、六本にまで減らされていた。
──ッ。このままではすぐに、活動限界を迎えてしまう!
どうすれば、
一体、どうすれば、いいの⁉
「だから、最初にあなたの提督さんがおっしゃっていたことに、素直に従っていれば良かったのですよ」
え。
提督が、最初に言ったこと、って……。
「おやおや、もうお忘れになったの? 彼ったら、自分の身の危険も構わずに、あんなに必死に訴えておられたのに」
──ま、まさか⁉
「『僕には構わず、おまえだけは逃げてくれ!』…………まったく、この場面では唯一の『正解』だったと言うのに、どうして自称『忠実なる僕』のあなたご自身が、ぶち壊しにしてしまうんだか」
あ、あれが、
私が、提督を見捨てて逃げることこそが、唯一の正解だった、ですって⁉
──そんな、馬鹿な⁉
「……何をそんなに、意外そうな顔をしておられるのです? 提督さんご自身もおっしゃっていたではございませんか? まず大前提として提督さんご自身には、それ程身の危険が無いのだと。これに関しては、我々自身が保障いたします。何せ彼には、『私たちの提督』になっていただこうと思っているのですから、危害を加える理由なぞありませんしね。──そういう意味からも、あなたご自身は、この場の『一時離脱』のみを、考えられれば良かったのです。たとえ旧帝国海軍においては最弱クラスの駆逐艦型であろうとも、攻撃力と防御力との両方を『逃げの一手』に全振りすれば、基本性能はおろか数の上でも圧倒的に負けている我々戦艦型を相手にしても、どうにか振り切ることは可能でしたでしょう」
──うぐっ⁉
「どう考えても、これが『次善の策』としては、理想的でしたでしょうに。何せ勝負と言うものは、機先を制したほうに分がありますので、今回のように奇襲を受けながら無理に応戦するよりも、いったん難を逃れてから、改めて己のほうから奇襲を仕掛けたほうが、よほど勝機がありますしね。そういう意味からも、提督さんのご指示は、大変理に適ったものでした。──しかし、あなたはあえてそれに逆らってしまった。どうしてでしょうね?」
そ、それは、提督を残して自分だけ逃げるなんて、どうしてもできなかったからッ!
「嘘おっしゃい」
──なっ⁉
「先ほども申したように、提督さんの安全が保障されていたことは、彼ご自身がちゃんと認識しておられたではありませんか?」
──うっ。
「あなたは結局、提督さんのことが、信じられなかったのです。だからむざむざ自分から、現在の窮地を招くことになったのですよ」
──‼
『わ、私が、提督のことを信じられなかったって、どういう意味です⁉』
「だってあなたは、提督さんを私たちのもとに置き去りにすると、彼が自分のことを捨てて、他の軍艦擬人化少女に鞍替えするんじゃないかと思って、この場を離れることができなかったんでしょう?」
え?
「そりゃそうでしょうねえ、ここは現代日本とは違って、提督の素質を有しているのは、文字通り『提督さん』──アミール=アルハル氏だけですので、たとえ一時的にも、失うわけにはいきませんものね」
『……ち、違っ』
「何が違うものですか? あなたはご自分の提督さんのことを信じることができず、しかも『海底の魔女』に変化さえすれば、私たち戦艦型にも勝てると慢心してしまったからこそ、唯一の正解である『逃走』ではなく、最大の悪手である『闘争』を選んでしまった──それこそが、もはや戦う前から、己の敗北を決定づけていたとも知らずに」
……何……です……って……。
『ど、どうして、勝負から逃げずに、あなたたちとの戦闘を選んだことが、敗北に繋がると言うのよ⁉』
「……やれやれ、あなたは私たち軍艦擬人化少女と、提督さんとの、『絆』というものを、何もわかってはおられなかったのですね?」
『私たちと、提督との、絆ですって?』
「──ええ、実は私たち軍艦擬人化少女は、自分が提督と定めたお方との間に、表面的な『主従契約』にとどまらず、真に『魂同士の契り』を結べてこそ、軍艦擬人化少女としての『真の力』を発揮することができるようになるのです。──しかし、あなたのように、提督さんのことを本当に信頼することができず、『海底の魔女』などという偽りの力に逃げていたのでは、軍艦擬人化少女としては、『失格』としか言いようが無いのですよ」




