第275話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その63)
「──そもそも、どうして軍艦の化身が、『少女』なのでしょうね?」
………………………は?
まさに今この時、広大なる運河網において激戦を繰り広げている、二人の軍艦擬人化少女をよそに、(こちらはこちらで)激論を繰り広げいたいた、駆逐艦型の軍艦擬人化少女のキヨの主である僕こと、異端の召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルと、戦艦型の軍艦擬人化少女の関係者である、聖レーン転生教団異端審問第二部所属の、ルイス=ラトウィッジ特務司教殿であったが、そんな彼の口から突然飛び出した、あまりに予想外な言葉は、僕を大いに面食らわせたのであった。
「……何ですか、いきなり『軍艦擬人化少女が、どうして少女なのか?』なんて、言い出したりして。それって、哲学ですか? それとも、禅問答ですか?」
「ちょっと! 『あちらの世界』では一応『キリスト教』系に分類されがちな、我が転生教団の現役司教に向かって、『哲学』や『禅』は無いでしょうが? ……まさかそんなに、『異端認定』されたいわけなのですか?」
「いや、どうせ僕はすでに、異端者に認定されているんだろうが⁉」
「あ、そういえば、そうでした」
──こ、こいつってば。
「それで、一体何なんだよ、『どうして軍艦の化身が、少女なのか』ってのは?」
「あなた実際にキヨさんを僕にしておいて、本当に一度も疑問に感じたことが無かったのですか?」
「……あのなあ、これは何度も何度も言っていることなんだけど、僕は何も『少女』や『軍艦』を召喚したわけでは無く、『自分の現在の召喚術のレベルにおいて召喚することのできる、最強の存在』だったのであり、それに該当したのが、たまたま軍艦擬人化少女のキヨだっただけの話なんだよ!」
「──え、本当に、それだけなんですか?」
「それだけって、他に何があるって言うんだよ?」
「あんな超絶美少女で、しかも本来なら『事案発生』待ったなしの年齢の子を、公然と連れ回せることになって、『俺ラッキー☆』とか、一度も思わなかったんですか?」
「何言っているんだ? 軍艦擬人化少女と言うものは、外見は女の子であるけれど、あくまでも兵器なのであって、それ以上でもそれ以下でも無いだろうが?」
「……こ、こいつ、『艦隊をコレクションする』という、概念自体を否定しやがった⁉ 何という恐れ知らずな!」
「? 駆逐艦型のキヨですら一人いるだけで、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても十分無双できるんだし、軍艦擬人化少女なんてものは、一人いれば十分じゃないか?」
「──黙れ! これ以上余計なこと言って、秒単位で万人規模の、敵を増やしていくんじゃない!」
……どうしたんだろ、この司教、こっちは極当たり前のことしか言っていないのに、おかしな奴。
まさかこいつも、軍艦をコレクションするゲームをやっていて、しかも本家では無く外国産のほうに手を出して、全艦をコンプリートしようとしたところ、同じ艦で『幼女ヴァージョン』として、可愛らしい妖精そのままな子までも登場して、その無邪気さにほっこりとしていたら、いきなり「……敵はすべて、フルボッコだぜェ、指揮官様よォ?」とか言われて、ビビったクチじゃあないだろうな?(実体験者多し)
「……あなたもすでにご存じのように、軍艦擬人化少女の『本性』は、『あちらの世界』のかつての世界大戦において、あえなく轟沈した軍艦の『怨念や憎悪』が具現化した、凄まじき攻撃力と防御力とを有した異形の存在たる、『海底の魔女』なのであって、本来なら人類にとっても『災厄』そのものでしかないのですが、日本国の防衛担当者や科学者たちが、その絶大なる性能に目を付けて、世界中が新型ウイルスに冒された絶望的な状況下において、人類の存亡を賭けた『兵器』として利用することを決定して、命令その他の双方向性の良好なるコミュニケーションを図るために、少女としての『人格プログラム』を、集合的無意識を介してインストールしたといった次第なのです」
「うん? 対人コミュニケーションのためのインターフェイス人格と言うのなら、別に『少女』で無くてもいいのでは?」
「……あのですねえ、このインターフェイス人格は、あくまでも『海底の魔女』の異形としての本性を抑制するためのものなのだから、『暴力』と言うものの対極的な存在であるべきで、『男性』全般が除外されるのは当然として、女性においても、本能に任せた行動を取りかねない赤ん坊や幼児はもちろん、怒らせると男より怖い成人女性も除かれて、消去法的に『少女』のみが残ってしまったわけなのですよ」
「──それってむしろ、『偏見』にまみれてね? どこかのうるさい団体から、抗議をされるんじゃね⁉」
「いえいえ、『あちらの世界』の日本では、実際に何件も『成功例』が出ておりますので。しかも軍艦だけでは無く、軍用機その他の兵器類を始めとして、一般的な『乗り物』類や、『城』や、『動物』や、果ては伝説の『魔物』から、何と『将棋の駒』等に至るまで、すべては年端もいかない女の子に限定した、擬人化が行われているのです!」
「ひょっとしなくてもそれはただ単に、日本人がおかしいだけじゃないのか⁉」
「──くっ、何と言うことを⁉ それだけは言っては、駄目だったのに……」
「……何でだよ? 単なる事実だろ?」
「事実であるからこそ、言ってはならぬこともあるのです!」
「あー、はいはい、僕が悪うございましたねえ。──それで、キヨや金剛嬢が少女の姿をしているのが、物言わぬはずの兵器と人間とのコミュニケーションを図るためのインターフェイスなのか、それとも実のところはただの『萌え文化の落とし子』に過ぎないのかどうかは知らないけど、それが『金剛嬢のほうが正しくて、キヨのほうが間違っている』という、あんたの不可解なるご見解と、どう結びつくわけなんだ?」
──などと、ようやく僕が、つい先ほど司教が口にした、いかにも意味深な台詞に対して、疑問を呈したところ、何と事もあろうにこれ見よがしに「やれやれ」と、大きくため息をついたのであった…………何て失礼な奴なんだ⁉
そのように、僕が彼の言葉の意味の重大さに気がつかず、すっかり油断していたまさにその時、
何のてらいも無くあっさりと突きつけられる、衝撃の一言。
「『見せかけの強さ』に憧れるあまり、『少女』であることをやめてしまったキヨさんは、もはや憧れの『戦艦』になれるどころか、軍艦擬人化少女としては失格級の、絶対にやってはならぬことを行い、まさしくおとぎ話の『自らの身体と声を売り渡した人魚姫』そのものに、なってしまったわけなのですよ」




