第272話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その60)
「──そもそも、おかしいとは、思いませんか?」
「『駆逐艦型』の軍艦擬人化少女であるキヨさんですら、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、『最強』と言っても過言では無いと言うのに、原則的に魔法やモンスターなぞ存在し得ない『完全なる現実世界』である現代日本において、駆逐艦型なぞ足下にも及ばない攻撃力や防御力を有する、『戦艦型』や『重巡洋艦型』の軍艦擬人化少女が建造されていることを」
「もちろん、近代以降における海戦では、多種多様な軍艦が艦隊を組んで、それぞれがそれぞれの役割を果たすことによって、より効果的に作戦遂行能力を向上させることができることは、十分承知しておりますが、それを範として生み出されたはずの軍艦擬人化少女シリーズにおいて、『戦艦型』はあまりにも強過ぎるのです」
「先にも申しましたが、そもそも味方の戦艦や空母等の護衛役であり、敵の戦艦等と戦うことを使命にしている駆逐艦は、その小型軽量ゆえの敏捷性や、比較的小口径の兵装ゆえの速射性とがあいまって、ほとんど敵弾を食らうこと無く敵艦を屠っていくことができるという、艦隊戦においては最も有利な立場にあると申せましょう」
「よって、たとえ主砲の口径の巨大さからなる攻撃力や、装甲の厚さからなる防御力が、圧倒的に格上の戦艦との一対一での対戦においても、その機動力という最大のメリットを生かすことができれば、駆逐艦のほうにも勝機は十分に有るのです」
「それなのに、軍艦擬人化少女シリーズにおける、戦艦型の単体での攻防力の凄まじさときたら、どうでしょう?」
「確かに、人類の滅亡の危機に際して、考えられ得る限りの悪条件の中で、自律的に戦闘行動や各種災害対策等を、単独でもちゃんとこなせるように設計されている軍艦擬人化少女は、艦種にかかわらず全員に十分なる敏捷性や機動性が与えられていて、兵器の性能においても別にオリジナルに準拠する必要も無く、最新技術を惜しげも無く投入することにより、たとえ大口径の砲門であっても直進性と速射性を実現しているゆえに、もしも戦艦型と駆逐艦型の軍艦擬人化少女が一対一で相対せば、単純に戦艦型に軍配が上がることでしょう」
「──そのように十分心得ていながらも、こうして実際に戦艦型と駆逐艦型との軍艦擬人化少女同士による、マジの対戦を見せつけられると、その格の違いのほどは、異常と言えるでしょう」
「何せ、先ほど目の当たりにしたように、お互いにノーガードで攻撃し合った場合においては、戦艦型の攻撃ばかりが駆逐艦型にダメージを与えて、逆に駆逐艦型の攻撃のほうは、反則技である『海底の魔女』ヴァージョンにでもならない限りは、戦艦に少しもダメージを与えることができないのですからね」
「一見これは、彼女たちの『開発者』が、そもそも軍艦擬人化少女同士の対戦を考慮していなかったゆえの、イレギュラー的な結果とも思われますが、果たして本当にそうなのでしょうか?」
「──いえいえ、実は私は、むしろ『逆』だと思っているのですよ」
「そう、戦艦型と駆逐艦型との間に、これだけ大幅な実力差があるのは、最初から『軍艦擬人化少女同士の戦闘』を、考慮していたのだと」
「何ゆえに、『味方同士』での戦闘なぞを、最初から検討していたかと言うと、それだけ軍艦擬人化少女というものが、強大かつ特殊な存在であるからなのです」
「何度も何度も申し上げているように、軍艦擬人化少女においては最弱クラスである駆逐艦型ですら、剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、『最強』クラスと目されているのです」
「もしもそんな彼女たちが、何らかの不具合を起こして、『提督』等の人間のコントロールを離れて暴走を起こしてしまったら、それこそ天災級の脅威ともなりかねないでしょう」
「すると当然、何らかの『抑止力』が、必要となってきます」
「とはいえ、異世界で魔王やドラゴンを片手でひねり潰すことができる、軍艦擬人化少女に対して、果たして本当に抑止することなぞできるのでしょうか?」
「もう、おわかりですね? 文字通り『毒を以て毒を制す』ということで、『軍艦擬人化少女を抑止するための軍艦擬人化少女』として、他ならぬ戦艦型に、他の軍艦擬人化少女が足下にも及ばないほどの、ずば抜けた攻防性能が与えられているわけなのですよ」
「つまり戦艦型には、単に艦隊の『フラッグシップ』としてだけでは無く、『軍艦擬人化少女を狩る軍艦擬人化少女』たる、『懲罰艦』としての務めを課せられており、当然それに足り得る攻撃力と防御力とを、与えられているという次第なのです」
「何せ抑止力が、万が一にも懲罰対象に劣ることがあってはならないので、大幅な実力差を発揮できるように、軍艦擬人化少女としても文字通りに『オーバースペック』な、超高性能となるように設計されているのですよ」
「──さて、ここで質問です。軍艦擬人化少女にとっての『暴走』の最たるものと言えば、一体何でしょうか?」
「そうです、『海底の魔女』化ですよね」
「もちろん戦艦型は、他の軍艦擬人化少女のどのような暴走状態においても、適切に対処できなくてはなりません」
「つまり、軍艦型の軍艦擬人化少女は、己自身は暴走したりせずに──すなわち、『海底の魔女』なぞにはなること無く、デフォルトの状態のままで、この世の災厄そのものとも言える『海底の魔女』すらも、余裕で無力化することができるのですよ」




