第268話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その56)
「──キヨおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「あ、提督…………くっ⁉」
あたかも僕の絶叫に呼応するかのようにして、四方八方から放たれる、運河の側溝や周囲の建物の壁面から生え出している、無数の金剛型戦艦の主砲が、まさしく怒濤のようにして火を噴いた。
もちろんその砲弾のすべては、もはや逃げ隠れる場所も無く、運河のど真ん中で棒立ちとなっている、僕の僕の駆逐艦娘キヨへと殺到していった。
「──集合的無意識との、緊急アクセス! 周辺物質の硬度を最高値に変更!」
間一髪のところで、キヨが『万物変化の呪文』を唱えることによって、周囲の大気が防御障壁へと一変して、すべての砲弾を弾き返した。
「おっ、さすがは帝国海軍一等駆逐艦の擬人化娘、やりますわね。──しかし、いつまで保つことやら?」
本来ならとても信じられない光景を見せつけられながらも、そこは同じ軍艦擬人化少女、こちらも更に『万物変化』スキルを行使して、砲門の数を増やしつつ攻撃を続ける、高速戦艦娘の金剛さん。
「──ッ。ぐうっ!」
それに対して、過大なる能力を急激に使い過ぎたためか、苦悶の表情を浮かべて脂汗を流しながらも、どうにか耐え抜いている我が僕の少女。
お、おい、本当に大丈夫なのか⁉
「……おやおや、これは予想外に、粘られること。──でしたら、こういうのはどうでしょうか?」
そのようないかにも思わせぶりな戦艦娘さんの言葉と同時に、キヨのすぐ右側の水面から、十数本ほどの大砲が突き出てきて、避ける暇も与えずに砲弾をぶっ放した。
「──きゃああああああああああああっ⁉」
「き、キヨ⁉」
一応はすでに展開中だった防御障壁によって、直撃だけは免れたものの、これまでとは違ってぶち当てられたのが一方向のみだったので、当然その勢いまでも殺すことはできず、防御障壁をまとったまま盛大に吹っ飛ばされてしまう。
「うぐっ!」
「ひぎっ!」
「あうっ!」
しかも、次々に新たなる砲門が、水面を始め、運河の壁面等からも現れて、砲撃を続けるものだから、抗う術も無くどんどんと弾き飛ばされて、長大な運河の水面上を小石のごとくバウンドし続けるばかりであった。
「くそっ、何で、何でなんだよ! どうして同じ軍艦擬人化少女だというのに、キヨのほうが一方的にやられるんだ⁉」
多勢に無勢なのは先刻承知だが、それについては駆逐艦ならではの身軽さで、十分補っていたはずだ。
確かにああやって、戦艦娘たちの周囲の艤装以外にも、無数の砲門を生み出されては堪らないが、『万物変化』スキルならキヨも使えるはずだから、あいつもそこら中に砲門を生み出して、反撃すればいいじゃないか⁉
自分の可愛い僕の危機に、無力な人間の主が、内心ハラハラしながらも手をこまねいて見ていると、すぐ側にいた戦艦娘たちの召喚主である聖職者が、いつものごとく馴れ馴れしく声をかけてきた。
「今更何をおっしゃっているのです? さっきの私の(独演会による)、『コンバットボックス』の話を聞いていなかったのですか? あんな状態になっては、駆逐艦が戦艦に敵うわけがないでしょうが」
……え。
「で、でも、さっきまでキヨも、いい勝負をしていたじゃないか?」
「そりゃあ何と言っても、駆逐艦の機動性は抜群ですからね。──まさしく、『あちらの世界』の第二次世界大戦中の、戦闘機そのままにね」
──っ。
「そ、それって⁉」
「そうです、いかな駆逐艦でも、このように『飽和攻撃』状に取り囲まれてしまっては、もはや最大の長所である機動性を生かすことができず、強力な戦艦の主砲になぶり殺しの目に遭うのみとなるのです」
ええーっ⁉
「し、信じられない! 機動性を塞がれただけで、敵戦艦や空母に対して数々の『ジャイアントキリング』を成し遂げてきた、文字通りの『駆逐艦』が、手も足も出なくなってしまうわけなのかよ⁉」
「それと言うのも、実は機動性の重要性は、空戦よりも、海戦のほうが、より絶大なのですよ」
「え? 機動性が重要視されるのは、海戦よりも空戦じゃないの? 何と言っても飛行機のほうが軍艦なんかよりも、すばしっこいんだし」
「いえいえ、大型爆撃機や戦艦のような鈍重なる敵に対してより有利なのは、戦闘機よりも駆逐艦のほうなのです。──なぜなら、空戦よりも海戦のほうが、自らの攻撃を相手に命中させるのが、非常に困難なのですから」
「へ? 海戦のほうが、攻撃が困難って……」
「軍用機用の機銃は命中率が高く、機動性の低い爆撃機側であっても、『コンバットボックス』等で敵戦闘機の機動性を抑制できれば、撃墜することはそれほど難しくないのですが、海戦における砲撃は、個々の砲弾の大きさや重量の関係上、軍用機用機銃のような直線性や高速性は望めず、山なりに低速で飛んでいくことになるので、標的である敵軍艦に命中させるのが非常に困難で、必ず何度か『試し撃ち』を行い、軌道修正を施す必要があるほどなのですよ。よって小型軽量なので高速性と機動性を誇る駆逐艦は、自分のほうは被弾の怖れが極めて少ない状態で、敵艦に対しては攻撃し放題という、基本的には大変有利な立場にあるわけなのです」
──あ。
「……つまり、そんな駆逐艦を、確実に仕留めるためには、当然のごとく──」
「そうです、現在の状況そのままに、『飽和攻撃』状態にして、逃げ場を奪ってしまえばいいのですよ」
なっ⁉
「つまりそのために、キヨの周囲の物質を、『万物変化』スキルを使ってことごとく、砲門に変えて攻撃させているってことか⁉ ──なぜだ、なぜなんだ! なぜキヨは、やられっぱなしになっているんだ? 自分のほうも軍艦擬人化少女ならではの『万物変化』スキルを実行して、周囲の砲門化を止めたり、逆に砲門を生み出したりして、相手を攻撃すればいいじゃないか⁉」
「ああ、それは無理ですよ。確かにこれまでは、それができたでしょうけど、生憎今回の相手は、同じ軍艦擬人化少女で、しかも戦艦ですものね」
「……どういう意味だ、それって?」
「結局軍艦擬人化少女って、その成り立ちも、チートスキルの発動も、すべて『万物変化』能力頼りではないですか? だったら当然、軍艦としてのクラスごとに、明確な『差異』というものも存在しているのですよ。──例えば、戦艦のほうが駆逐艦よりも、より上位の集合的無意識とのアクセス権を許可されていて、戦艦が変化させているものに対しては、駆逐艦側では変化させることができない──とかね」
「ちょっと待て、それってまさに、軍艦擬人化少女にとっては、致命的な性能差じゃないか⁉」
「ええ、その通りです。言わば現在のキヨさんは、文字通りに『八方塞がり』の状況にあられるのですよ」
──‼




