第265話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その53)
「──さあ、踊りなさい、かつて帝国海軍きっての高速戦艦であった我が主砲の、45口径356ミリ砲の弾幕の中で!」
「くっ」
いかにも最強の軍艦ならではの、禍々しく黒光りをするぶっとい一物(?)を突きつけられた、我が僕にして、同じく旧帝国海軍所属の一等駆逐艦『清霜』の、軍艦擬人化少女のキヨ。
しかし、むしろ先手必勝とばかりに、駆逐艦ならではの小回りのきく自らの主砲を、すかさずぶっ放す。
……ただし、自分のすぐ足下に向けて。
へ? 何で?
当然のようにして、轟音とともに盛大に湧き上がる、水しぶき。
「──ちっ、そうきたか!」
そのように吐き捨てるや、なぜだか慌てて身を潜める、攻撃側であったはずの、自称高速戦艦の『金剛』の擬人化少女。
次の瞬間、
「ぎゃっ⁉」
「うぐっ!」
「おわっ⁉」
例のごとく、水煙と爆炎の向こうからお見舞いされた砲撃の連射に、為す術も無く吹っ飛ばされる、金剛以外の戦艦娘たち。
──そして当然、流れ弾を浴びて瓦礫の山と化す、聖都ユニセクスの街並み。
「いやいやいやいや、駄目じゃん⁉」
「ど、どうしたのですか、いきなり『ダメ出し』なぞなされて?」
僕こと違法召喚術士アミール=アルハルの渾身の叫び声に、さっきからずっと背後から羽交い締めをし続けていた、聖レーン転生教団所属の異端審問官ルイス=ラトウィッジ司教が、驚きの声を上げた。
「──ダメ出しをしなければならないのは、むしろあんた自身だろうが⁉ どうして自分が召喚した軍艦擬人化少女たちが、全力で聖都の破壊活動をし始めたのに、止め立てしようとしないんだよ⁉」
今更突っ込むのもどうかと思うが、やはり突っ込まずをおられなかった。
確かに今のは、キヨの砲撃による被害だけど、先程からバカスカ攻撃していたのは、金剛たち戦艦娘のほうだし、そもそも彼女たちを率いて現れたのは、聖レーン転生教団関係者である、この御仁なのだ。
「ああ、その点ならご心配なく、どうぞようく周りを、ご覧になってください」
「……何だと?」
現在すぐ至近距離にて、異能バトル絶賛開催中だというのに、つい言われるままに、周囲に目を走らせると、
「──なっ⁉」
何と、至る所に山と積み上げられていた、大小様々の瓦礫が、突然青白く燃え上がったかと思ったら、周辺の崩れかけた建物を覆い尽くし、気がつけば傷一つ残すことなく、元通りの有り様へと修復したのだ。
「……これは、一体」
「別に驚くこともないでしょう? 特に、他ならぬあなたが」
「へ?」
呆然と我を忘れていた僕に対して、意味深なことを言い出す、聖職者にして腕利きの召喚術士兼錬金術師。
「いっそのこと、この聖都自体が、彼女たち『軍艦擬人化少女』で出来ていると申せば、ご理解いただけるでしょうか?」
「──ッ。そ、それって⁉」
「ええ、あなたもようくご存じの、アクティブ状態の不定形暗黒生物『ショゴス』によって、構成されているわけなのですよ」
「はあ? 都市そのものが、不定形暗黒生物でできているだと?」
何ソレ、諸星大○郎か、宮○駿かよ⁉
──何せ、諸星先生にはズバリ『生○都市』という御作があるし、宮○監督には言わずと知れた『風の谷のナウ○カ』の漫画版において、聖都シ○ワの墓所が実は、『○蟲』と同じ物質で構成されていることが明らかになるしな。
「……え、まさかここに来て、あからさまなパクリ路線とか?」
「いえいえ、まさにこれぞ、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいては、基本中の基本の『設定』なのであって、むしろ両先生の御作に対して僭越ながら、『論理的根拠』を明らかにさせていただいたようなものなのですよ」
……まあね。
ショゴスとは、万物の物理量の最小単位である量子を、己の肉体に関してのみ『重ね合わせ』状態にすることによって、いかなるものにも変化することを可能としている存在なのであって、これを(都市そのものすらも含む)建造物の材料として使用すれば、常態的に変幻自在の『量子のアクティブ状態』にすることができて、そこに集合的無意識を介して別の物質の形態情報をインストールすれば、どんなものにも変化させることが可能になるといった寸法なのだ。
更には何とこれと同様の方法で、周囲の大気を炎や氷雪等に変化させるといった、ファンタジーワールドならではの『魔法』の類いでさえも、おおよそすべて実現できるようになるし、特に大砲や機関砲等の軍艦の艤装に変化させて、年端もいかない女の子の周囲に現出させれば、『軍艦擬人化少女の一丁上がり』というわけである。
……しかし、まさかそれを都市レベルで実現しているなんて、思いも寄らなかったのだが。
ひょっとしてこの聖都では、軍艦擬人化少女同士のガチのバトルなんかが、日常的に行われていたりするのであろうか?




