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第263話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その51)

「……僕以外にも、この世界に軍艦擬人化少女を、召喚していたやつがいるだと?」




 今日この日まで、まさかキヨみたいに、旧大日本帝国海軍の軍艦そのものの攻防力を誇る、チート能力を有した少女が他にもいたなんて、考えもしなかった。




 ……しかし、よくよく思い直せば、僕ごときが召喚できたくらいなんだから、この世界に数多存在している凄腕の召喚術士たちが、これまで密かに軍艦擬人化少女を日本から召喚していたとしても、別におかしくは無かったんだ。


「しかも、同じ軍艦擬人化少女でも、キヨみたいな『駆逐艦娘』では無く、誰もが認める強力無比な『戦艦少女』を、一挙に何隻も異世界転生させるなんて、並みの召喚術士では絶対無理だぞ? 一体何者なんだ⁉」




「──それはもちろん、この世界において、異世界転生を専門に扱っております、私どもでございます」




 まさにその時、狙ったようなタイミングで響き渡る、清廉なる声音。


 思わず振り向けばそこには、一人の黒衣の聖職者がたたずんでいた。


 やけにガッチリとした長身を包み込む漆黒の詰め襟服に、短い金髪に縁取られた彫りの深い顔の中で穏やかな光をたたえている、青空のごとき碧眼。


 いかにも『神のしもべ』といった佇まいであったが、その人好きのする笑顔の裏に、ただならぬ老獪さが潜んでいるようにも感じられるのは、こちらの思い込みであろうか?


 ──そのように完全に気圧されながらも僕は、率直な気持ちを吐露した。




「……え、誰、あんた? 何でいきなり僕たちの会話に、口を挟んでくるの?」




「──ちょっ、誰って、最初からいたではないですか⁉」




 僕のいかにも不審者を見るような胡乱な視線に、慌ててまくし立てる聖職者。


「えー、そうだったっけ?」


「そもそも今ここにいる戦艦娘たちを連れてきたのは、この私ですよ⁉ しかもさっきこんごう嬢の(ブラフの)身の上話の中にも、しっかりと出て来ていたし!」


 ……何か可哀想になるくらい必死に訴えているけど、ますます胡散臭く感じられるのは、なぜなんだろうか?


 よく見れば、いわゆる『召喚獣』的立場にあるはずの、金剛さんその他の戦艦娘の皆様のほうも、別にフォローしようともせず、ただニヤニヤと見守っているだけだし、仲間内においても、『いじられキャラ』なのだろうか? ………お気の毒に。


 僕がのんきそのような失礼なことばかり考えていると、上着の右腕の袖口を、くいくいと引っ張られた。


 咄嗟に振り向くと、すぐ隣の低い位置から、やけに真摯な瞳が見上げていた。


「……どうしたキヨ、何だかおっかない顔をして?」


提督アドミラル、ふざけている場合ではありません。彼は金剛さんのお話の中で、自らを『聖レーン転生教団きっての召喚術士』と名乗っていました。教団において召喚術を専門に取り扱っていると言うことは、『召喚術に関わる異端者の取り締まり』にも、従事していると言うことでもあるのです」


 ──なっ⁉


「それって、まさか⁉」




「ええ、この御仁こそ、我々に対する、聖レーン転生教団からの『追っ手』の一人──いえ、下手すると、その『総責任者』かも知れませんよ?」




 ……何、だと。


 思わず当のご本人のほうをまじまじと見つめ直すと、縁なし眼鏡が真昼の陽光を反射して、ギラリと煌めいた。




「……ふふふ、改めてご挨拶させていただきます。私は聖レーン転生教団異端審問第二部所属の、『異端転生者』取り締まり専任司教にて、ルイス=ラトウィッジと申します。以降よしなに」




 ──‼


 何と、キヨの睨んだ通りじゃないか⁉


「……そうか、ついにそちらからお出ましになったってことは、いよいよこの聖都ユニセクスにおいて、最終決戦に突入するわけなんだな?」


「おや、最終決戦、とは?」


「とぼけるんじゃない! 軍艦擬人化少女を──しかも、最強の『戦艦タイプ』を、そんなに大勢引き連れてきたくせに。僕たちのことを、ここで力押しで仕留めるつもりだろうが?」


「まさか、そんな、仕留めるだなんて。──少なくとも『彼女』たちは、けしてそんなことをしようとは思わないでしょう」


「……『彼女』たちって、そっちの金剛とか言う戦艦娘たちのことか? そいつらの意志とかに関係無く、召喚術士であるあんたが命令で従わせればいいだろうが?」




「あらら、そこから誤解なされているのですか? いえね、私は確かに彼女たちをこの世界に召喚いたしましたが、別に従わせているわけではないのですよ。──つまり、彼女たちは現在、『召喚物』なぞでは無く、すべてにおいて、『自由意志』にて行動しております」




 は?


「──いやいやいや、ちょっと待って⁉ 『自由意志にて行動しております』って、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても、一隻いるだけで魔王すらも裸足で逃げ出す、『真のラスボス』クラスのチート能力を誇る、軍艦擬人化少女をそんなに大勢野放しにしていたんじゃ、駄目だろうが⁉」


 下手すると、今目の前にいる人数だけで、この世界そのものを、完膚なきまでに破壊し尽くせるぞ⁉


「ご心配には及びませんよ。何せ彼女たちにも『優先順序』というものがございまして、この世界のラスボスなんかになる前に、そちらのほうを先に成し遂げようとしており、私自身についても、そのお手伝いを行っているだけですので」


「……この魑魅魍魎跋扈するファンタジーワールドを、実力で制覇する前に、どうしてもやるべきことだと?」




「あら、言うまでもないことでしょうに」




 そのように涼やかな声で、言って寄越したのは、目の前の黒衣の青年では無かった。


 僕の右腕に絡みつく、ほっそりとした白磁の両腕。




 ──思いの外豊かな、胸元を押しつけるようにして。




「き、君⁉」




「私たち『人魚』である軍艦擬人化少女が、何よりも心から欲するもの──それは当然、自分を真の人間にしてくださる、『王子様』であられる提督アナタに、決まっているではないですか?」




 そのように宣うとともに、人形そのままの端整なる小顔の中で、サファイアのごとき瞳を妖しく煌めかせたのは、くだんの大日本帝国海軍が誇る高速戦艦『金剛』の擬人化少女、その人であったのだ。

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