第262話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その50)
「……危ねえ、もう少しで騙されるところだった! そうだよ、軍艦擬人化少女と召喚術士との主従による、異世界大冒険活劇って、すでに僕たち自身がやっていたんだっけ⁉」
かつての大日本帝国海軍所属の高速戦艦である、『金剛』の軍艦擬人化少女から、血湧き肉躍る異世界転生物語を聞かされて、すっかり大興奮状態になっていた、僕こと魔導大陸きっての召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルだが、自分の僕である、これまた軍艦擬人化少女のキヨから鋭い指摘を受けて、一気にトーンダウンしてしまったのだ。
それに対して、当の『戦艦娘』さんのほうは、いかにも思わせぶりな笑みを揺るがすことは、微塵も無かった。
「騙すなんて、とんでもない。もちろんそちら様も、清霜さんと共に、波瀾万丈の大冒険を演じられてきたかと存じますが、私のほうとは、根本的な違いがあるのでございます」
「……君と僕らとの、違い? つまりは、同じ軍艦擬人化少女でありながらも、君とキヨとには、何らかの違いがあるってことか?」
「まあ、そう言うことになりますわね」
……高速戦艦金剛と、駆逐艦清霜との、違いか。
まずは、目の前の十六歳ほどの金髪碧眼の、超絶美少女の全身を、舐め回すように見てみる。
一見華奢でほっそりとしているものの、さすがは欧州生まれ、出るところは出ていて、これから先の成長性の高さを感じさせた。
「……うむ」
「提督?」
今度はすぐ横にたたずんでいる、己の僕のほうへと視線を移す。
こちらはこちらで、生まれ故郷の『日本人形』そのままの、雅な可憐さを誇っているものの、そのように純和製だからなのか、それともいまだ齢十歳の限界なのか、洋楽でたとえると、『ビート○ズ』派と言うよりも、『ストーン○』派かと思われる、ある一定のマニア向きの体つきであった。
「……今すぐ、そのいかにも気の毒そうな顔をして、私の胸元を見つめるのをやめなければ、127ミリ連装砲が火を噴きますよ?」
「──す、すみません! 失礼いたしました!」
まさしく悪鬼羅刹すらも裸足で逃げ出しそうな、憤怒の表情となった僕から視線を逸らして、再び真正面へと向き直る。
そこには相も変わらず、天使か妖精そのままの、満面の笑顔が待ち構えていた。
「うふふ、相変わらず、仲がおよろしいようで。生憎と、私とキヨさんの違いと言っても、そのような外面的なことでは無く、もっと本質的なところなのです」
この子と、キヨとの、本質的な違いって?
……待てよ? 「相変わらず」ってのは、何だ?
僕たちは、今日が、初対面のはずだよな?
そのように、まったく要領を得ず、首をひねるばかりの僕に対し、その外見上は十代半ばの少女は、苦笑まじりに、
──決定的な言葉を、突きつけてきた。
「確かに私たちは、『軍艦擬人化少女による異世界転生』という大枠においては一致しておりますが、主観が軍艦擬人化少女が、あるいは他の方かで、決定的な違いがあるのですよ」
──なっ⁉
「それって、君自身も軍艦擬人化少女でありながら、自分が『物語の主観』を──すなわち、『異世界における大冒険の主人公』を、担っていると言うことか⁉」
「ええ、先ほどもお伝えした通り、『あちらの世界』において轟沈した軍艦として、深い海の底で眠り続けていた時分から、この世界に召喚されて女の子になって大冒険に乗り出した、今この時に至るまで、ずっと私自身がイニシアチブを握っております」
何てこったい。
つまりは、この世界には僕とキヨ以外にも軍艦擬人化少女がいることが判明したものの、同じような冒険を繰り広げていたわけではなく、むしろ『まったく別の物語』が、同時進行していたっていうことなのか?
「……しかし、本来無機物である軍艦を主観にするなんて、何とも画期的だよな」
「はい、お陰様で冒頭部だけとはいえ、人間以外の存在を主観とすることで、これまでとは一風変わった異世界転生物語となることができました」
「しかも、そんな無機質なヒロインが、だんだん外面同様に女の子っぽくなっていくのが、また堪らないんだよなあ〜」
「おお、さすがは提督さん、『通』ですわね♡」
「更には何と、そのようにしてキャラが固まって、軍艦ならではのチートスキルで無双し始めても、外面上女の子であることにより、読者様からのヘイトもある程度緩和できるしね♫」
「ええ、『なろう系』作品はアニメ化すると、とにかく『アンチ』の執着の凄まじさが大問題となりますが、最近の『防○り』といい『はめ○ら』といい、主人公が女性であれば、同じ転生者ならではのチートスキルによる『イキリ』具合でも、当たりが若干マイルドになるようで、男性が主人公の作品と比較して、あまり叩かれない傾向がございますわ」
しかも例に挙げた両作品のように、内容自体も面白くて男性でも十分楽しめるものであれば、純粋なる高評価も得られるからな。
「──むしろ無敵じゃん、『軍艦擬人化少女主観の異世界転生モノ』って! しまった、どうせならうちのほうも、キヨを主人公にしていれば良かったのに!」
今更言っても詮無きことだが、かなり悔やまれるところであった。
「ちょっと提督、最近主にネット上において、某『悪役令嬢作品』のアニメ版が受けているからって、何を血迷ったことをおっしゃっているのですか⁉」
謎の少女の口車にまんまと乗せられて、完全に悪ノリしてしまった己の主に対して、冷ややかな声音でツッコミを入れる僕の少女。
「……キヨ」
「金剛さんも、いい加減にしてください。あなたと私は、日本の『対ウィルス兵器研究所』にいた時分からの、お付き合いでしょうが⁉」
………………へ?
対ウィルス兵器研究所、って。
ということは、まさか。
「酷いですわ、清霜さんたら、もうバラしてしまうなんて」
「……うちの提督を不必要にからかわれるのは、ご遠慮いただきます。無類のお人好しであられるので、馬鹿みたいに騙されやすいのですから」
「そうよねえ、私たち軍艦擬人化少女の、『本当の正体』も知らずに、あなたを受け容れたくらいですものねえ」
「──ぐっ」
何だ?
軍艦擬人化少女の正体って、何のことだ?
まさかキヨのやつ、まだ他に、僕に隠していることが、あるとでも言うのか?
「──いや、そんなことよりも、今までの話が全部嘘だとしたら、どうして『あちらの世界』の存在である君が、今ここにいるんだよ⁉」
「あら、別にすべてが嘘だったわけではございませんわよ? 私がここにこうしている理由は、すでにお話しした通りでございますわ」
「え、すると、本当に君は、人為的に召喚されることによって、この世界に転生してきたわけなのか?」
「別に不思議がられる必要は無いのでは? それともまさか、ご自身では実際に軍艦擬人化少女を召喚できたというのに、ご自分以外には成功者がいないとでも、思われていたのですか?」
──‼




