第261話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その49)
「……軍艦が異世界に転生して、女の子になったって、それってもはやすっかりお馴染みの、『軍艦の擬人化』と、どう違うんだ?」
何か知らんけど、突然長々と身の上話を語り出した、自称大日本帝国海軍所属の、高速戦艦『金剛』の転生体の少女に対して抱いた、率直な疑問を問いかけてみたところ──
「まず何よりも、現代に復活すると言っても、日本では無く、こうして異世界に転生したことですわ」
「……ああ、うん、確かに『軍艦娘が異世界転生する』ってのは、『軍艦擬人化モノ』としても『なろう系』としても、革新的かとは思うけど、それはすでにうちのキヨがやっているから」
「全然違いますわ! そちらのキヨさんはあくまでも、『軍艦擬人化少女』が異世界転生をしたのであって、私のほうは、『軍艦がそのまま異世界転生して、それから改めて女の子に転生した』という、超画期的な『無機物によるTS転生』なのですわ!」
………………………は?
「軍艦がそのまま、異世界転生した、って……」
「キヨさんの場合は、『あちらの世界』そのものが、『大陸風ウィルス』の脅威により、絶滅の危機に瀕したために、ウィルスに耐性があり、まさにそのウィルス兵器をまき散らした侵略国家との戦闘にも耐え得る、軍艦の攻撃能力と耐久性とを兼ね備えた、少女型生体兵士として開発されたのであり、そのオペレーションシステムは『軍艦としても少女としても最適化』しているのであって、心身共に最初から『軍艦擬人化少女』と生み出されているのです。──それに対して私のほうは、第二次世界大戦において轟沈した軍艦が、あなたと御同業のこの世界の術士の方に召喚されて、人間の肉体を与えられて初めて、『自我』が芽生えたのであって、こうして『軍艦』の前世を持ちながらも、この世界においてはあくまでも『少女』なのであり、『軍艦擬人化少女』的な戦闘能力や防御能力は、先天(=前世)的なものでも、人の手によって造られたものでも無く、『なろう系』のお定まりパターン的に、『異世界転生のご褒美』としての、チートスキルのようなものに過ぎないのですよ」
──なっ⁉
「軍艦が異世界に召喚されて、女の子に転生しただと⁉ いやいやちょっと待って? 『異世界転生』とは論理的には、Web小説みたいに本当に『生まれ変わる』わけでは無くて、現代日本の存在の『精神』──具体的には『記憶や知識』を、集合的無意識を介して異世界──具体的にはこの世界の存在の脳みそに、インストールすることで実現しているんだぞ? そもそも軍艦には『精神』が無いんだから、異世界において軍艦擬人化少女を活躍させようと思うのなら、日本においても最初から軍艦擬人化少女である者の『記憶や知識』を、この世界の存在の肉体にインストールする以外には、やりようが無いだろうが⁉」
「あら、『なろう系』Web小説には、日本人が異世界の剣とか自動販売機とかいった、いわゆる『無機物』に転生する作品もあるのだから、日本の軍艦が異世界転生して、女の子になってしまうことだって、けして否定できないのでは?」
「だから、それが間違っていると言っているんだよ⁉ まあ、百歩譲って『魔法の剣』とか『魔法の自動販売機』だったらわからないでもないけど、何の変哲も無い普通の剣とか自動販売機に、ある日突然日本人の魂が宿るなんて、論理的にあり得ないだろうが⁉」
……ていうか、そもそも、『異世界に存在する魔法の自動販売機』って、一体何だ? 異世界に自動販売機が存在すること自体おかしいのに、その上最初から魔法的存在であるなんて、それは元々自動販売機なんかでは無い、『別のナニモノカ』だったのでは?
そのように、どうでもいいことに気をとられていると、これまでになく真摯な表情となった、自称『戦艦金剛の転生体』が、厳かに言い放った。
「だったらあなたは、自分自身も召喚術士のくせに、異世界転生そのものを、全否定なさるおつもりなのですか?」
──ッ。
「おい、どうして、『軍艦などといった無機物には、精神なんて存在し得ない』と言う、至極当然のことを言っているだけなのに、それが異世界転生の全否定に繋がるんだよ⁉」
「……あなたは一番大切な、『当事者の想いや渇望こそが、異世界転生を実現する』と言うことを、忘れて果ててしまっておられるのでは?」
「何だと?」
「例えば皆さんようくご存じの、いわゆる『本好きの女の子』が、現代日本の進んだ知識を得ることができたのは、なぜでしたっけ? 生粋の異世界人である彼女は、どうにかして自分の世界に読書の習慣を広めようとして、当然のごとく自分自身も精一杯努力しながら、どんな困難に直面しようと、己の夢と熱情と渇望とを、けして手放そうとはしませんでした。その『想い』こそが、『努力に努力を重ねた天才のみに許された閃き』という名の、集合的無意識との奇跡的なアクセスを実現して、現代日本の読書好きの女性司書が有する、最先端の印刷技術や流通経路の効率化等の知識を得ることができて、事実上の『本好きの日本人』から『本好きの女の子』への異世界転生のを成し遂げたのです。──それはまさしく、軍艦だって同じことなのですよ。あなたはなぜ、軍艦が無機物だからと言って、『想い』が芽生えないと断言できるのですか? 御国のために──ひいては、アジア人の地位の向上という高邁なる思想の下に建造されながら、志半ばで撃沈されて、自分を信じていろいろと尽くしてくれた乗組員たちと共に海底に沈んでしまった、無念さが、あなたにわかると言うのですか? そんな『私たち』帝国海軍艦艇が、もう一度生まれ変わって、今度こそ、自分を必要として信じてくれた人々の役に立ちたいと、世界そのもののために貢献したいと、願わないなんて、どうして言い切れるのですか? ──そうなのです、私たちはそれそれは心から熱く切実に『願った』からこそ、こうしてこの剣と魔法の異世界において、女の子として生まれ変わったのです!」
……何……だっ……てえ……。
軍艦のような無機物でも、『心』は宿り得るのであり、しかもそれが切実に望めば、異世界転生すらも実現できるだと?
「そんな、馬鹿な⁉」
──と、思いながらも、心のどこかで、納得している自分もいた。
なぜなら、キヨの身の上話を聞くことによって、軍艦にも『心』が宿ることを、すでに知っていたのだから。
そもそも、少女に擬人化するかしないか以前に、非業の最期を遂げた軍艦は、その『怨念』が具象化することで、異形の存在である『海底の魔女』に成り果ててしまうのだから。
中にはそうならずに、同じ程度に奇跡的なイベントである異世界転生を成し遂げて、人間の身体を手に入れたりする軍艦が存在していても、おかしくはないであろう。
「……くっ、確かに、僕は召喚術士でありながら、少々考えが足りなかったようだな」
「──あ、提督⁉」
「うふふ、ようやくおわかりになったようですわね」
こちらの態度が軟化したのを見て取るや、大輪の花が咲き誇るかのような満面の笑みをたたえる、瀟洒なドレス姿の絶世の美少女。
……いかにも『してやったり』といった感じの彼女に対して、うちの僕の軍艦擬人化少女のほうが、何だか焦りながら非難の声を上げたようだが、気のせいであろうか?
しかし今の僕は、目の前の金髪碧眼の少女に夢中だったので、そんなささいなことなど、どうでもよかったのだ!
「──すごい、すごいぜ! 前世は軍艦だったのに、異世界転生して女の子になるなんて! さぞやこれまで、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、様々な冒険活劇を繰り広げてきたことだろうよ!」
「もちろんですわ! 私を召喚してくださった、聖レーン転生教団の司教様と主従契約を結んで、教団やこの世界そのものに仇なす、モンスターや魔王や邪教集団と、血湧き肉躍る大バトルを演じてきましたのよ!」
「その際には当然、軍艦擬人化少女としての、物理的かつ魔法的なチートスキルを、フル活用したんだろう⁉」
「ご想像通りですわ! 軍艦としての物理的攻撃力と、少女としての小回りの良さとを兼ね備えている、この私を前にしては、どんな相手も、敵ではありませんでしたわ!」
「おお、これって『なろう系』としても、これまでにない斬新なパターンじゃないのか? 軍艦のような無機物が、異世界転生して女の子になる時点で、十分ぶっ飛んでいるのに、何かとイキリがちな男性キャラではなく、少女主人公が無双していくなんて。しかも本人は、軍艦として当たり前のことをしているだけであり、別に異世界に来たとたんイキリ始めたわけでは無いし。更には、最初のうちは文字通りに『無機物』そのままに、人間としての感情が乏しかったものの、主の召喚術士と触れ合っているうちに、徐々に普通の女の子になっていくという、黄金の『萌えパターン』! いやあ、最高じゃないっすかあ♡」
そのように、完全に我を忘れて盛り上がっていた、召喚術士兼錬金術であったが、
そこに当然のように突っ込んでくる、僕の少女の的確なるご指摘。
「……いやそれって、これまで散々、提督と私とで、やってきたことではないですか?」
そういえば、そうでした。




