第26話、『妖女ちゃん♡戦記』ショゴたん七変化⁉
「──謎はすべて解けました、犯人はあなたです!」
今回のこの剣と魔法のファンタジーワールドを舞台にした猟奇連続殺人事件、人呼んで『カク○ム編集O篇・魔法 × ミステリ』事件における、関係者が一堂に会してのいわゆる『謎解きシーン』にて響き渡る、鹿討帽にインバネスコートで決め込んだ、いかにもベーカー街なコスプレ青年の朗朗たる声音。
まさしく犯人として指さされた男性──被害者の妻の又従兄の幼なじみの竹馬の友の同じクラスの美化委員だった、現在不動産を営んでいる中年男が、全員の注目を一身に集めながら、その場に力なく膝をつき、歯ぎしりをしながらうめき声を上げた。
「……くっ、さすがは、異世界随一の名探偵、ショーゴッス=ホムンクルス、見事な名推理だ、これではさすがの編集O様も、ぐうの音も出ないだろう」
それは、紛う方なく、完全なる『敗北宣言』だった。
これでまた一つ、異世界におけるミステリィ的事件が解決した。
これが、『ファンタジー世界を舞台にしたミステリィ』であり、『魔法 × ミステリィ』というものを、真に理想的に体現していることは、言を待たないであろう。
──なぜなら、この事件における『名探偵』自身が、これまでの異世界系のWeb小説を、すべて一気に過去の遺物と化すほどに、『魔法』的かつ『ミステリィ』的存在そのものであったのだから。
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「──オッス、おら、孫悟好! 人心を惑わす、化物め、覚悟しろ!」
異世界においても指折りの繁華街のファストフード店の軒先で、大音声にて名乗りを上げる、小柄な体躯に珍妙な道着を着たボサボサ頭の少年に、困惑の表情を隠せない、牛角の兜を被ったチェーン店社長の中年男。
「……一体、何なんだモー、うちのチェーン店は、安くておいしい牛肉どんぶりを、お客様に真心を込めて提供している、良心的なお店だモー」
「──黙れ! 悪の総元締め、牛魔どんめが! あちらの世界の『アメリカ』では『産業廃棄物』でしかない内臓肉をただ同然で仕入れて、ブラック企業の下っ端サラリーマンやワナビの小説家志望者等の、『底辺』どもを騙して食わせて、そのリーズナブルさと中毒性のある味付けによって虜にして、暴利をむさぼっているくせに!」
「なっ、どうしてそれを⁉ くっ、こうなったら、実力行使で『口封じ』してやるモー! ──ド○ルド、サン○ース大佐! 『同じ穴の狢』である、貴様らも加勢するモー!」
「ハ〜イ、ウィンドウズバーガーには、ネズミもミミズも、入ってないYO♬」
「……くくく、中○人のガキ風情なぞ、ベト○ンの何の罪もない女子供同様、むごたらしく虐殺して、ケン○ッキー州でチ○ンに加工してやるぜ!」
──牛魔どんは、仲間を呼んだ! いかにもクレージーなピエロ風の長身の青年と、いかにも退役軍人風の全身真っ白な老人が現れた!
「……いや、『カーネル・サン○ース』の『大佐』は、本物の軍人というわけではなく、ケンタッ○ー州から与えられた名誉称号で、『名誉都民』みたいなものじゃ? ──まあいい、どれだけ悪のファストフードチェーン店の総帥が出てこようが、一気に殲滅して、この異世界を──ひいては現代日本を、悪辣なアメリカ縁の『残飯料理』から解放するだけだ!」
「「「──おまえ、いい加減にしないと、訴えるぞ⁉」」」
そして、いかにも頭の悪そうな、少年が跳躍するばかりの、安っぽい戦闘が始まった!
確かに、かつて釈迦牟尼尊師の直属の軍団を苦しめたという、牛魔どんの絶大なる戦闘能力は手強かったし、クレイジーピエロのトリッキーな殺人奇術の連続には肝を冷やされたし、『カーネル』を軍人だと勘違いしている耄碌じじいのマシンガン連射は純粋に物理的に脅威だった。
しかし、あわやの大ピンチに、別の異世界に転移した孫悟好は、現代日本における物理学の中核をなす量子論に基づけば、複数の世界の時間の流れはそれぞれ独立しているので、その異世界でたとえ100年修行をしようが、元の世界の元の時点に戻ることが可能ゆえに、本家の『精○と時の部屋』顔負けの御都合主義な修行を無限に繰り返し、ついに『スーパー(中略)孫悟好』となって、元の世界に帰ってきたのであった!
「食らえ、スーパー自前の如意棒!」
「「「まだ子供の××が、東京スカ○ツリー並みに、巨大化した、だと⁉」」」
さっきは量子論を利用したくせに、剣と魔法のファンタジーワールドに帰ってきた途端、物理法則ガン無視のお下劣攻撃を放つ、紛う方なき『少年漫画の主人公』。
※【ご注意】いかにも下品な描写をして申し訳ございませんが、実はこれは重大なる伏線となっておりますので、どうぞご寛恕のほど、よろしくお願いいたします。
スーパー(中略)孫悟好の自前の如意棒による特大ホームランによって、宇宙の彼方へと吹っ飛ばされる、悪のファストフードチェーンの三総帥。
確かに、悪は滅びた。
しかしまだまだ、孫悟好の闘いは続いていくのだ!
なぜならいまだ異世界には、現代日本からの転生者たちが持ち込んだ、劣悪なフード関連事業が存在しているのだから。
「……次は、大本命である、『レストラン』という概念そのものを地に堕とした、諸悪の根源、『貧乏家族向けの名ばかりレストラン』全グループが相手だ……ッ」
──頑張れ、孫悟好!
──負けるな、孫悟好!
異世界人及び現代日本人の、豊かな食生活の復権は、君の双肩にかかっているのだ!
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──私の名前は、サトリ。
『悟』──すなわち『小五ロリ』と書いて、『サトリ』と読むの。
──だから、お兄ちゃんたちが何を考えているのか、手に取るようにわかるのよ。
うふふ、いい歳して、こんな子供に対して、性的な興奮を覚えているなんて、ほんと、ド変態な、お兄ちゃんたちね♡
容姿も悪ければ、頭も悪くて、
そのくせ、自尊心だけは強くて、
自己チュウで、
協調性がなくて、
当然のごとく、学校や社会から弾き出されて、
ニートになって、
引きこもってしまって、
サブカルな創作物やネットに夢中になって、
現実から完全に逃避して、
二次元の女の子だけを受け容れて、
貴重なお金も時間もすべて、ネットという仮想世界だけに費やして、
本当は何も得ていないのに、すべてを知った気になって、
他人の知識や意見だけで理論武装して、
家族を含めて自分以外の者をすべて敵と見なして、
そのくせ自己顕示欲だけは強くて、同人漫画とかイラストとかを作成し始めて、
一念発起して何年かぶりに自分の部屋を出て、即売会に個人サークルとして参加してみたものの、作品は全然受け容れてもらえず、他のサークルや主催者からも疎外されて、
今度は外に出る必要がまったく無い、ネット小説作成にすがりついて、
読むに堪えない駄文を大量に垂れ流して、
自分を褒めてくれる、中身のない甘言だけを受け容れて、
貴重なアドバイスに対しては、『荒し』としてブロックして、
自分のことは認めてもらいたいくせに、他人のことは絶対に認めようとしないで、
どこまでも、独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで独りで
──こんなくだらない小説を書いたり読んだりしている暇があったら、いっそのこと死んだら?
「──やめろ、やめてくれ! 俺は違う! 俺の小説は、俺の小説だけは、本物なんだ! それなのに、本物を理解できず、あまつさえ垢バンしようとする、『あいつら』が間違っているんだ! あくまでも俺は被害者なんだ! 俺はちっとも悪くないんだ! だから、そんな蔑んだ目で見ないでくれ! 俺を受け容れてくれ! 小五たん! 小五たん! 小五たん! 小五たん! ──ショゴたーん!!!」
【お断り】調子に乗ってあることないこと書いていたら、むしろ作者自身にとっての『ブーメラン』となり、完全に心が折れかけてしまいましたので、再起動いたしますまで、しばしの間お待ちください。
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「……何なんだ、これって、ヤミ?」
「あら、お兄ちゃんが、『ショゴスをメイドにするのだけはやめてくれ』と言ったから、いろいろと試してみたわけなのよ?」
「──そうか! 元々異世界転生なんて、集合的無意識を介して、現代日本のある特定の人物の『記憶や知識』を、生粋の異世界人の脳みそにインストールするだけのことなのだから、元々肉体的にも精神的にも『不定形』で、自分というものを持たず、何者にもなれて、更には『原初の神』の手によって創られただけであって、現行の魔法的現象をすべて再現できるから、孫悟空のような時代を問わぬスーパーヒーローの『記憶や知識』をインストールするだけで、その肉体や精神はもとより、彼独特の超常の力すらも完璧に再現することができるのか! つまりショゴス一体あれば、文学史上空前絶後の名探偵にも、読心の能力を有する『サトリ』ロリ少女にも、あらゆるラノベのキャラにも、あらゆるSF小説のキャラにも、あらゆる異世界系Web小説のキャラにも、それこそ宇宙的恐怖そのもの自体にも、成り変われるということじゃないか! これってWeb史上、真に画期的かつ革命的なことじゃないのか⁉ やろうと思えば、人の住んでない惑星において、ショゴスを無限に分身させて、他の異世界からすべての住人の『記憶と知識』を、集合的無意識を介してインストールすることによって、どんな異世界系Web作品であろうと、同じ内容のドラマをライブで展開することすら可能じゃん! ──下手したら、ショゴスが一体いるだけで、もう他の異世界系Web小説の登場人物なんて、ただの一人も要らなくなったりしてね♡」
「……長文独白、お疲れ様でした。大興奮のところ悪いんだけど、もしそうなると当然、お兄ちゃんも私も、用無しということになるんだけど?」
「………………………………あ」




