第258話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その46)
「──嘘だ、貴様ごときが金剛だと⁉ ふざけるなあああ!」
「ひっ! な、何ですの、いきなり⁉」
お尋ね者の召喚術士兼錬金術師である僕ことアミール=アルハルにとっては、敵の本拠地以外の何物でもない聖レーン転生教団聖都ユニセクスにおいて、『アグネス』と名乗る謎の美幼女と楽しくじゃれ合っていた最中に突然現れた、自分自身の召喚物にして僕でもある軍艦擬人化少女のキヨ同様に、『あちらの世界』の大日本帝国海軍所属の、かの高名なる高速戦艦『金剛』と自称した少女に対して、とても黙ってはおられずに、開口一番に盛大に突っ込んだのであった。
そんな僕の予想外の剣幕に、ここが見せ場とばかりにむちゃくちゃかっこよく名乗りを上げたばかりの、当の見かけ十代半ばの少女のほうは、完全に出ばなを挫かれて、しどろもどろな口調へとトーンダウンしてしまう。
「……あ、あの、提督さん?」
「僕は貴様のような、エセ高速戦艦の、提督なんかじゃ無い!」
「ひうっ⁉ あ、あの、それでは、『召喚術士兼錬金術師』さん、私が『金剛であるなんてふざけている』とか、『エセ高速戦艦』というのは、どういう意味なのでしょうか?」
「言葉通りだよ! 貴様は何から何まで全部、本物の金剛サマとは、まったく別物だ!」
「──なっ⁉ 私が偽物だとおっしゃるのですか⁉ 何で初対面のあなたから、そんなことを言われなければならないのです! ていうかそもそも、我々のような日本に属する存在にとっては、異世界人に当たるあなたが、本物の『金剛の軍艦擬人化少女』を、知っているはずが無いでしょうが⁉」
「やかましい! 貴様が本物だと言うのなら、『ルー語』はどうした? 『エセ英語』をしゃべらない、金剛サマがいるか! それに、そのまるで西欧貴族のような瀟洒なドレスは、何だ⁉ 金剛サマと言えば、巫女装束風のコスプレ的なアレじゃないとおかしいだろうが⁉ おまけに純和風な黒髪黒目であるものだから、雑に『英国製』であることをアピールするために、事あるごとに『紅茶好き』を押しつけるはずだよな⁉」
「──何ですのその、容姿及び性格共に、まったく統一性の無い、『金剛サマ』とやらは⁉」
「『エセ外国人』という、統一性があるじゃん」
「開き直りやがったよ、こいつ⁉ それは某ゲームの一キャラクターとしての、『金剛』でしょうが! そもそも私の基となった戦艦金剛が建造された当時においては、海外製の軍艦なんて、それほど珍しいものでは無かったのですよ? 私や『神威』のような欧米製の軍艦娘は、容姿だけを西洋風にしておけば十分だし、『変な性格付け』なんて、むしろ余計なことでは?」
「黙れ! その某コレクションゲームこそは、このたび七周年を迎えたばかりの、由緒正しき軍艦擬人化美少女ゲームの代表格であり、大正義なのだ! 当ゲームにおいて、『金剛サマはエセ外人』と設定されれば、すべての軍艦擬人化作品が、見習わねばならぬのである! それをこんな木っ端Web小説のポッと出のキャラが、物言いをつけるとは、百年早いわ!」
「──いやいやいや、『エセ外国人』とか、『ルー語』とか、『コスプレ』とか、『雑なアピール』とか、『紅茶好きの押しつけ』とかと、その『大正義ゲーム』とやらをディスっているのは、むしろあなたのほうではありませんの⁉」
「貴様は、あえて欧米製の軍艦娘を、黒髪黒目の純和風にするという、制作陣の『逆転の発想』的こだわりの演出がわからないのか? 欧米製だからって何のひねりも無く、日本の軍艦娘を金髪碧眼にするのは、人の模倣しかできない三流大陸ゲームだけさ!」
「その某大正義ゲームにおいても、『神威』さんは銀髪だし、重巡洋艦娘の『愛宕』さんに至っては、純和製なのに『金髪碧眼』ではないですか⁉ これって『こだわりの演出』とかでは無くって、もしかしたら各絵師さんに結構緩い自由裁量を与えているか、運営の統括責任者が各キャラの設定を、その場のノリで決定しているだけではないでしょうか?」
「……き、貴様、けして言ってはならぬことを、何ら躊躇も無く口にしおって⁉ うるさいうるさいうるさいうるさい! 某大正義ゲームは、ゲームの枠組みはもちろん、もはや国の内外すらも超えて、絶大なる支持を得ているのであり、おかしな言いがかりをつけるのはやめてもらおう! ──何せ、かの小惑星探査機『はや○さ2』で有名な宇宙航空研究開発○構の『JA○A』様が、公式ツイッターにおける巧妙な『縦書きメッセージ』によって、更には何と、某大陸ゲームの最大の人気キャラである『ベルファスト』の公式絵師さんの『K○』様が、『艦む○』の中でも絶大なる人気を誇る、『大和』と『矢矧』のラブラブな新作イラストを公開なされることによって、『艦○れ』の七周年を祝ってくだされたくらいなのだからな!」
「──何この異世界人⁉ 何で現代日本からの転生者でも無いくせに、これほど異常なまでに、『艦○れ』推しなのよ⁉」
もはや戦慄の表情すら浮かべながら、叫び声を上げる、自称『金剛』の軍艦擬人化少女。
それを見かねたのか、これまですっかり蚊帳の外に置かれっぱなしにされて、完全に沈黙を守っていた、本来は押しも押されぬメインヒロインであるはずのキヨが、取りなすように声をかけてきた。
「……このたびは、うちの提督が大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。しかしこれもひとえに、提督の身の内に秘められている、『大和魂』の為せる業ですので、どうぞご寛恕のほどを」
「え、やはりこのお方は、現代日本からの、転生者であられたの⁉」
「と言うよりも、御先祖様に日本縁の転生者がおられたそうで、例の『大陸風ウィルス』に対して抜群の免疫性を誇る、『BCG抗体』とともに、代々『日本人としてのソウル』を受け継がれているとのことです」
「……日本人特有のBCG因子が、『人類絶滅兵器』である、大陸風ウィルスに対して抗体を形成するのは、『あちらの世界』では21世紀後半のはずでは?」
「異世界転生に時系列なぞ関係無いのは、私たちがこうしてここにいることこそが、証明しているではないですか?」
「──ふふっ、そうよね、そうじゃないと、つじつまが合わないわよね」
「だからこそ提督は、どちらかと言うと某大陸ゲームの『金剛』寄りのあなたに、本能的忌避感を覚えられたのだと思いますよ?」
「ちょっ、あんなパチモンゲームと、一緒にしないで! 私にはあのような醜い角なんか、生えていないでしょうが⁉」
「……まったく、あの『日本艦』に対する『謎設定』は、何なのでしょうね? そもそも我々は『軍艦を擬人化したモノ』なのに、『鬼』とか『九尾の狐』とか『犬猫』とかのファクターを付け加えたりして、これじゃ『擬人化』の重ね掛けじゃないですか?」
「しかも『九尾の狐』なんて、大陸では神様扱いなんだから、軍艦としての力を出すまでもなく、その圧倒的な神通力で、敵陣営の同じ軍艦娘どころか、人類やセイ○ーンまでも根こそぎ打ち倒して、あっさりと世界を支配できると思うんだけど、その辺の整合性はどうなっているんでしょうね?」
「何か、アニメ版においては、ノーパンのメイドや単なるのっぺらぼうに、ビビっていたけど、おまえらは九尾の狐を、何だと思っているんだ? 古代中国王朝における『守り神』だったんだぞ? 大陸人自らお得意の、自称『五千年の伝統w』を否定するつもりかよ?」
「まあ、この御時世にあえて、大陸製のパクゲーをすること自体が、常識を疑われるところでしょうし、そんなゲームのキャラと一緒にされたら、私だって噴飯物ですわ! ……ああ、そうか、あなたの提督さんが私に対して、あれ程あからさまな拒絶反応を示されたのも、そのためですか」
「そうです、あくまでも『私の提督』ですので、残念でしたわね」
「──あら、それは困りましたね、あの方には是非とも、『私の提督』になっていただこうと、思っておりますのに」
へ?
何だ、この自称高速戦艦娘ったら、いきなり何を言い出すんだ?
そのように、あまりにも唐突なる予想外の台詞に、完全に言葉を失ってしまった僕に向かって、妖艶な笑みを柘榴のごとき深紅の唇に浮かべながら、そのいまだ幼い少女は、蠱惑の笑みとともに言い放った。
「何せ、我々軍艦擬人化少女は、BCG抗体を有するお方を、是が非でも求めざるを得ないように、つくられているのですから。──たとえ他の軍艦娘を排除してでも、手に入れようとするほどにね♡」




