第257話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その45)
「……アグネス、君は、一体?」
敵地である聖レーン転生教団の聖都ユニセクスに、お尋ね者のくせにのこのことやってきた、僕ことこの大陸きっての召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルと、その僕にして軍艦擬人化少女のキヨとの前に、突然現れた謎の十歳ほどの年頃の絶世の美幼女。
その髪の毛から、性的に未分化などこか艶めかしい素肌に、小柄で華奢な肢体にまとうシンプルなワンピースに至るまでの、すべてが、処女雪そのままに穢れ無き白一色に統一されていた。
天使や妖精を彷彿とさせる、端整な小顔の中で静謐な光を宿している、鮮血のごとき深紅の瞳。
──そう、あたかも、現代日本で開発された、軍艦擬人化少女の『素体』にして『本性』である、『海底の魔女』そのままに。
……しかもそんな彼女が、よりによって、「この剣と魔法のファンタジーワールドに普通に存在している人魚は、実は万物の祖である『ショゴス』とほとんど同じ性質を有しており、不老不死と変身能力という超チートスキルを備えた、『別の進化を果たした人類』なのだ」などと(今更時代遅れな『エヴ○厨』的なことを)、言い出したのだ。
しかも、ショゴスと言えば、軍艦擬人化少女の肉体を構成するベースともなっており、その万能な変身能力こそが、『何も無い虚空での兵器等の艤装の展開』を始めとする、軍艦擬人化少女ならではの、数々のチートスキルを実現しているのだ。
そのような、現代日本においても極秘中の極秘の情報を、この世界の幼い少女が知っているとは、とても思えないものの、初対面であるはずの当の軍艦擬人化少女であるキヨの前で、唐突に語り始めたのは、あまりにも不自然であった。
アグネス=チャネラー=サングリア、彼女は一体、何者なのか?
……果たして、敵か、味方か。
──と、そのように、僕が胸中で思考を錯綜させていた、まさにその時、
「聖下──‼」
突然大通りに響き渡る、男性のものと思われる大きな声音。
とっさに振り向けば、漆黒の聖衣にすらりとした長身を包み込んだ、縁なし眼鏡も知的な美青年が、白皙の顔を汗だくにしながら、ものすごい勢いで駆けつけてきた。
──な、何だ?
目を見張りながら、思わず彼らのほうを、二度見してしまった。
そう、『彼』では無く、『彼ら』だったのだ。
何とその聖職者の男性は、十数名ほどの十代半ばくらいの年頃の、それぞれに趣は異なるものの、それぞれに衆人の目を奪うほどに、見目麗しい少女たちを引き連れていたのである。
……えー、いかにもお堅そうな、聖職者って感じのお方なのに、何ソレ?
これじゃまるで、『ハーレム』そのものじゃん。
ひょっとしたら、キヨとは別口の、現代日本からの転生者で、その名も『イキリせいしょく(意味深)太郎』だったりするとか?
「なあ、キヨ、おまえ、この御仁に、見覚えは………………………って⁉」
いかにも馬鹿げたことを考えながら、軽い気持ちで己の僕のほうを振り返ってみたところ、
普段は冷静沈着そのものの少女が、あたかも『死者』にでも出くわしたかのような驚愕の目つきで、初対面であるはずの少女たちのほうを見つめていたのだ。
「──あら、ラトウィッジ司教、そのように慌てふためかれたりして、どうなされたのですか?」
「どうもこうもありませんよ! 護衛の神聖騎士もつけずに、勝手に市中にお出かけになられるなんて! しかも『検体』にいきなり接触なされるとは、言語道断です!」
「そうは申されても、信者の皆様の普段のお暮らしぶりを知っておくのも、私にとっては大切なお役目ではありませんの? それにある意味『同胞』とも呼び得る、貴重な『検体』と会いたいと思うのも、当然の理なのでは?」
「──聖下!」
「……いい加減、控えなさい、ルイス」
彼女は別に、声を荒げたわけでも、叱りつけたわけでも、無かった。
しかし、耳に入った瞬間、思わず跪きそうになるほどに、絶対的な威厳を感じさせられたのだ。
事実、『司教』と言う、宗教組織の中にあってもかなり上位の聖職者が、あたかも雷に打たれたかのようにして、たちまちその場に平伏してしまったのである。
「……まさか、真なる神であらせられる、『黄龍』のこの地上における代行者である、この私に害をなすことのできる存在が、いるとでも申すのか?」
「め、滅相もない! できすぎた真似をいたしまして、大変申し訳ございません!」
「もう、よい。興が冷めた。私はこの辺で、失礼することにいたしましょう」
「はっ! ──『チェシャ』に、『マッドハッター』! 聖下を教皇庁に、お送り申し上げなさい!」
「「──ははっ!」」
黒衣の聖職者の命令一下、一体どこに潜んでいたのか、これまでまったく気配を感じさせなかった、二人のシスター服の妙齢の美女が、謎の純白の幼女のすぐ側へと、音も無く走り寄った。
「──では、お二方とも、またご縁がありましたら、お会いいたしましょう♡」
そのように涼やかな声音で、僕らに向かって別れの挨拶を述べるや、二人のシスターを影のように引き連れて、この場を後にする他称『聖下』さん。
……いや、『聖下』って。しかも、『教皇庁』にお送りするって。
あの子って、まさかまさかまさかまさか──
「──久し振りですね、清霜さん?」
──っ。
すっかり幼女のほうに気を取られていたら、突然、新登場の少女たちの先頭に立っていた、可憐なる少女の艶めく唇から発せられる、衝撃的な一言。
なっ、何で、聖レーン転生教団の関係者と思われる女の子が、現代日本から転生してきた軍艦擬人化少女であるキヨの、正式な『艦名』を知っているんだ⁉
あまりに驚愕の事態の連続のために、もはや完全に言葉を失ってしまった僕のほうへと振り向いた、そのいかにもこの剣と魔法のファンタジーワールドにふさわしい、金髪碧眼の大人びた少女は、本日最大の爆弾発言をぶちかました。
「──そちらのお方には、お初にお目にかかります。私、大日本帝国海軍高速戦艦、金剛型一番艦の、『金剛』と申します。以降、お見知りおきを♡」




