第253話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その41)
「──ほら、クジラとかイルカの、黒と言うか濃紺と言うかの色合いって、スクール水着を彷彿とさせるではないですか? やはり『潜水艦娘』にスク水を採用した、例の萌え艦隊ゲームは、大したものですよねえ」
「……ねえ、この話、一体どこに行くの? 今度は、旧ソ連のパクリ伝統を引き継ぐ『パク連』国家製の、某パラサイト艦隊ゲームsageへと、行き着くわけ?」
自分の僕である駆逐艦型の軍艦擬人化少女のキヨによる、あまりと言えばあんまりな話題の展開に、つい堪りかねて突っ込む、彼女の主である僕こと、大陸きっての召喚術士兼錬金術師のアミール=アルハルであったが、
生憎と、現在絶好調の蘊蓄解説嬢のほうは、ますます(事実上のオタク談義に)ボルテージを上げるばかりであった。
「はあ? そんなわけ無いじゃないですか? 現在の状況下で、大陸製のゲームを話題に上げるなんて、もはやまともな神経をしているとは言えないでしょうよ」
あ、うん、そりゃそうだよな。
「大体、あのゲーム関連の掲示板でイキっているやつらって、下手したら帝国海軍どころか、日本そのものをsageようsageようとする、思想的に偏った輩の巣窟なので、下手に触れても馬鹿を見るだけだし、無視すればいいのですよ。あいつらがいくら歴史を改竄して、現在において風評被害をまき散らそうが、日本の過去の栄光も、現在の繁栄も、世界のどこよりも平和主義であることも、けして否定できないのですからね。──そんな暇があったら、自分たちの『バイト主』のこれから先の悲惨なる運命でも、心配していればいいんですよ」
──うおっ、何この、いくら毒舌キャラとはいえ、普段はあまり見られない、饒舌っぷりは⁉
……まあ、帝国海軍の擬人化キャラであるこいつが、あの艦隊パクゲーを、蛇蝎のごとく嫌悪するのは、無理からぬ話だよな。
あいつら、アニメ版の最終話において、視聴者を完全に『無の境地』に追いやるといった、大失態を演じたんだから、もう少し謙虚になればいいのに、いまだ性懲りもなく、方々にケンカを売っている有り様だしな。
「──ああっ、ごめんなさい! 確かに話が、少々逸れてしまいましたね!」
……いや、けして『少々』じゃ無いと、思うんですけど?
「つまりですね、潜水艦のメタファとして、クジラはもちろん、特にイルカをイメージするとして、そこから『色』というファクターを、一度除いてみてもらいたいのですよ」
「はあ? 何言っているの? むしろ『黒または濃紺』という色合いこそが、潜水艦とイルカやクジラとの、最大の共通点じゃないか?」
「だから、クジラはともかくイルカのほうは、『シルエット』という点においても、潜水艦を彷彿とさせるわけではないですか?」
「……ああ、まあ、『色』ほどでも無いけど、確かに『形』の上でも、イルカは潜水艦に似ているよな」
「──さて、ここで問題です、『イルカの擬人化』と言えば、どういったイメージが浮かびますか?」
「……イルカの擬人化って、そりゃあ普通は、上半身は美少女か美少年で、下半身は尾びれになっていて──って、ああ、そういうことか!」
「そうなのです、『潜水艦=イルカ=人魚』という、連想ゲーム的な方程式が成り立つのです」
ええー、ちょっと強引じゃないんですかあ?
「……何だか不服そうですが、これは先ほども申しましたように、方向性は違うものの、ちゃんとスク水並みの──場合によっては、それ以上の、『萌え効果』があるのですよ?」
どうしてそこまで、軍艦擬人化少女が、『萌え』にこだわるのだ?
「まだ何か、ご不審な点でもございますのでしょうか? これはむしろWeb小説にとっての、最大の利点とも申せるのに!」
「だからおまえは、『メタ』的な話はよせと、言っているだろうが⁉」
「──何をおっしゃっているのです! 今こそWeb小説を語らなくて、いつ語るのですか!」
「ひいっ⁉」
な、何だ、こいついきなり、こんなどうでもいいような場面で、急に目の色変えやがって⁉
「いいですか? 現在の日本においては、例の『新型ウィルス』の影響で、『人と人との接触』という、『社会システムの根幹』が抑制されているために、政治や経済や教育や娯楽はもちろん、ごく普通の日常生活に至るまで、『活動停止』状態にあるのですよ? そんな過酷な環境下において、大人数のスタッフを必要とするテレビドラマや実写映画やアニメーションは言うに及ばず、少人数あるいは(無理をすれば)個人でも作成可能なはずの漫画や小説すらも、商業用作品であれば編集や流通等の、大勢の人手が必要になってくるので、次々に『制作不能』を宣言し始めるといった状況なのですよ? そのような常に『自粛! 自粛! とにかく自粛!』と言われ続ける窮屈な生活を、長期にわたって強いられている皆様に対して、ほんのちょっぴりの息抜きとしての『娯楽』を提供できるのは、もはやWeb小説しかないのです! Web小説ならば、ネット環境さえ整っていて、各創作サイトの運営様の不断のご努力が続いている限りは、たった一人でも作品を作成すれば、世界中の人々に楽しんでいただけるのです! ──そう、今こそ『Web小説の真価』が問われているのであり、すべてのWeb作家様は、一つでも多くの作品を、ネット上に公開すべきなのです!」
──おお、そういうことか!
まあ、確かにな。
これまで散々各所で、『なろう系』だの『イキリ艦太郎』だのと、むちゃくちゃ言われてきたけど、こうして世の中のシステムがちょっと不具合を生じるだけで、アンチどもご推薦のアニメも商業漫画も、提供不可能になってしまうんだからな。
この、全国津々浦々まで自粛状態となっている苦難の時こそ、一作でも多くのWeb小説を読んでいただいて、Web小説ならではの魅力というものを、是非とも実際に感じ取っていただきたいところだよな!
「……ふふ、ようやく提督も、ご理解いただけたようですね」
「うん、こんな時こそ、Web小説の登場人物としては、精一杯頑張らなきゃな!」
もはや、『メタ』がどうしたとか、言ってられねえぜ!
どこもかしこも、巧妙に画策された『対立煽り』ばかりで、日本の国全体が、ギスギスしているからな。
こんな三流Web作品で恐縮だけど、少しでも皆様のご無聊をお慰めできたら、光栄でございます。
「──というわけで、本題に戻りたいと思いますが、つまりですね、Web小説ならではの『萌え効果』というものが、れっきとして存在しているわけなのですよ!」
「へ? Web小説ならではの、萌え効果って……」
萌えに、媒体の違いなんてあるのか? 例えばWeb小説とラノベなんかでは、ほとんど同じだと思うんだけど。
「ここは『百聞は一見に如かず』と言うことで、現在まさに話題の焦点になっている、人魚の皆様のほうを、もう一度ようくご覧になってください」
「……はあ」
言われるがままに、再び運河のほうへと、視線を向ける。
相変わらず、十三、四歳ほどの幼い少女たちが、いまだ性的に未分化なほっそりとした上半身を、一糸まとわず晒しながら泳いでいた。
「……なあ、これって、『萌え』とか言う以前に、ヤバいんじゃないのか?」
「ヤバいって、どうしてですか?」
「どうしてって、そりゃあ──」
……うん、そういえばこいつ、自分の主である僕が、人魚とはいえ、うら若き女の子たちのトップレス姿を凝視しても、何でいつものように、嫌みの一つも言わないのだろう?
そのように、今更ながらに根本的な疑問を抱いてしまった僕に対して、ついに決定的な『真理』をぶちかます、一応自分自身も十分に『萌えキャラ』と呼び得る少女。
「つまりですねえ、Web小説は文字通りに『文字媒体』なんだから、視覚的にアウトな描写であっても、問題なく公開できるのはもちろん、むしろ視覚情報が無いからこそ、読者様の無限の想像力を刺激して、存分に萌えていただくことさえもできるのですよ」
──‼




