第249話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その37)
『……わ、私が、最も理想的な、僕にして研究対象、ですって?』
主である僕の本心からの言葉に、なぜかさも意外そうな顔となる僕の少女。
──むっ、せっかくこちらが、文字通り偽らざる本音で語ったというのに、まさかそんな反応が返ってくるとは、心外極まりないな。
「何だ、不服か?」
『い、いえ、そんな! ……でも、本当にいいのですか? もちろん普段は今まで通り、普通の少女の姿になることができるのですが、「真の姿」が、こんなに醜くて』
「は? どこが醜いと言うんだ、結構可愛いじゃないか?」
『──ッ』
「おまえ、僕がこれまでどんなに多くの研究対象を、錬金術で錬成したり、別の世界から召喚したと思っているんだ? おまえみたいに一応は人間の形をしているのなんて、ほとんどいなくて、むしろ『宇宙的恐怖』の博覧会状態で、こっちの『SAN値』はとっくに限界を超えているよ。──それよりも、おまえのほうは平気なのか?」
『え? 私のほうって……』
「僕はおまえのことを、研究対象としか見ていないし、学術の探究のためには、平気で実験材料にすることも厭わないんだぞ? ──事実これまでも、人間じゃないとはいえ、幼い女の子の形をしていたものを、生きたままバラバラにしたことなんて、一度や二度じゃないからな」
「──ひいっ⁉」
僕の極一般的な『(マッドな)科学者としての在り方』を聞いて、なぜだか短い悲鳴を上げたのは、当の研究対象のキヨではなく、ずっと側で手持ち無沙汰に突っ立っていた、自称『さまよえるオランダ人』その人であった。
……え、こいつ、まだいたの?
ひょっとして、あのボロボロの帆船こそが、次元を移動するための装置だったりして、それをキヨに壊されたものだから、立ち往生しているとか?
まあ、これ以上何かしでかす様子も無いから、今のところは無視しておくか。
「……とにかくさあ、おまえこそ、僕と一緒にいると言うことは、いつ何時実験材料として、バラバラにされてしまうかも知れないってことを、肝に銘じておくんだな? 何せ、おまえみたいな格好な研究対象を、僕のほうから手放すつもりは無いからな!」
『──‼』
……あ、あれ? キヨのやつ、今まで全身白一色だったのに、急に頬のあたりだけ血色が良くなったぞ?
しかも、何だかもじもじしながら、うつむいたりして。
『わ、私のことを、手放すつもりは無いって……』
それによく聞こえないけど、何かブツブツつぶやきだしているし。
「おい、本当にいいんだな? ちゃんと返事をしろよ」
『──はい! 提督になら、全身をバラバラにされようが、どこをいじくられようが、全然構いません!』
「よし! ………………………って、急に元気になりやがったな?」
それに、妙に嬉しそうなのは、なぜなんだ?
そのように、妙に小っ恥ずかしくなりながらも、僕たち主従が見つめ合っていたら、
「──ケッ! 結局は今回も、『ヤスい口説き文句』で、うやむやにしたじゃないか、この自称『研究の徒』のジゴロ野郎が!」
いきなりさも憎々しげに怒声をあげたのは、すっかり傍観者と成り果てていた、『さまよえるオランダ人』殿であった。
……何だよ、こいつまた人のことを、どこかのホストみたいに言って?
『あなた、まだいたのですか? もはや御用はありませんので、とっとと消えてください』
「──うわあああああああああ⁉」
キヨがあたかもドラゴンの尻尾のような巨大な触手を叩きつけるや、帆船ごと不知火となって、消え失せる船長殿。
それと呼応するようにして、目の前の大海原が、元の大草原へと立ち戻ったのであった。
そして海底の魔女自身の巨体も不知火に包み込まれるや、次の瞬間には、見慣れた小柄で華奢な少女が現れた。
「……キヨ」
そうそれは、僕の最も理想的な、『僕兼研究対象』であった。
「おまえまさか、かの高名な『さまよえるオランダ人』を、勝手に消滅させたりしたんじゃないだろうな?」
一応『あちらの世界』では、全世界共通の『都市伝説』のようなものだから、こんな異世界で勝手に消し去ったりすると、いろいろとクレームを受けかねないぞ?
「安心してください、あの者も軍艦擬人化少女である私同様に、『あちらの世界』においては、『概念として確立している』ので、少々のことでは消滅したりはいたしません。──ただし、集合的無意識へのアクセス権に関しては、私のほうが上位に位置しておりますので、この世界から再転送しただけですよ」
「大丈夫か? あのおっさん、『世界線上の迷子』になったりしないよな?」
「別に構わないではありませんか、何せ元々『さまよえる』オランダ人なのだから。どこの世界に飛ばされようが、その世界の『バタヴィア』を目指して、航海を続けるんじゃないですか?」
──うわあ、もはや完全に他人事として、すっげえいい加減な対応になってやがる。
「……そんなどうでもいい方のことよりも、提督には、ちゃんと約束を守ってもらいますからね?」
そのように、これまでになくマジな目つきとなって、『確認をとる』と言うよりもむしろ、恫喝をするかのように、ドスのきいた声で確認してくる、我が僕。
「ああ、僕がおまえのことを、けして手放すつもりが無いってやつか? もちろんだよ。いくらおまえが音を上げて逃げようとしたって、けして放しはしないからな?」
「──! はい、この清霜、断じて提督のお側を離れはしません!」
そのように、お互いに意思の確認をし合うや、僕らはあたかも何事も無かったようにして、いつものように歩き出した。
──どちらからともなく、手を繋いで。
……まさか、この後すぐ、自らの誓いの言葉を、裏切ることになるとも知らずに。




