第248話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その36)
『……いいのです、こんな醜い有り様が、私の本性と知られたからには、私独りで海の底で生きていきますから。もうこれ以降は一切、提督の前には姿を現しませんから』
そのように哀しげにつぶやくや、彼女の言うようにグロテスク極まる、軍艦と蛸とが融合したかのような生白くぬめった巨体の上にちょこんと乗っている、一糸まとわぬ華奢な上半身ごと力無くうつむく、今や忌まわしき『海底の魔女』と張り果ててしまっている、召喚術士兼錬金術師である僕の僕の『キヨ』。
──この世のすべてに絶望しきったかのような、悲痛なる表情。
だから僕は、慰めの言葉なぞ、何一つ見つからず、その代わりに──
「『拘束』!」
『──ひぎいいいいいいいいいいいいいいいっ⁉ 痛い痛い痛い痛い! ちょっと提督、何ですかこれ⁉』
「……決まっているだろう? 躾のなっていない僕への『お仕置き』だ、十分に味わうがいい』
『うぎゃあああああああああああ⁉ やめてやめてやめてやめて! このままじゃ、身体がねじ切れてしまうううううううううううう!!!』
小山ほどもある異形の体躯をよじらせながら、絶叫を上げる、他称『海底の魔女』。
──それも、当然であろう。
今の彼女の身体は、自らの力で自らをねじ切ろうとしているかのような、不自然な物理力が施されているのだから。
もちろん、それを実際に手を触れること無く行っているのは、彼女の主である、この僕であった。
忘れてもらっては困るが、彼女の身体を構成している『素体としてのショゴス』は、元々僕が錬金術師としての力で錬成したのであり、ショゴスとしての変身能力を司る『集合的無意識へのアクセス権』は、本人であるキヨよりも更に上位のアクセス権を有しており、彼女自身の意思すらも無視して、その身体を自由にできるのである。
それは軍艦擬人化少女ならではの、周囲の物質の形態情報の改変能力による、超常的攻撃手段の実現等においても同様で、必要に応じてこちらの判断のみで、彼女の攻撃を無効化したり、あるいは逆に効果を増大させたりもできるのだ。
……もしかしたら僕のことを、実戦においては軍艦擬人化少女の後ろに隠れて、口先だけの指示を行っている、『イキリ艦太郎』の類いだと勘違いされていたかも知れないが、小さな少女の肉体に軍艦そのものの攻撃力と防御力を有しているといった『怪物』を、真の意味で御するためには当然のごとく、彼女の力そのものを制御する手段を有していないと、まったく話にならないであろう。
「……ふざけるんじゃないぞ? たかが僕の分際で、僕の前から姿を消すだと? それは僕とおまえとの『主従契約』の、一方的破棄の宣言以外の何物でも無いではないか? そんな権利は、おまえには無い!」
『い、いや、これはあくまでも、提督ご自身のためを思ってと言うか、私自身の複雑な乙女心の為せる業と言うか………いだいいだいいだいいだいいだいいだい! だから、本人の意思を無視して、肉体におかしな「圧」を加えないでくださいってば⁉』
「……てめえ、どこまで僕のことを舐めているんだ? 『提督のため』だと? しかも『乙女心』だあ? 笑わせるんじゃ無い! 何で僕の『美醜』ごときを、主である僕が気にかけなきゃならないんだよ? おまえはただ、僕のために役に立てば、それでいいんだよ!」
『──酷い! それはそれで、何か酷いと思います! それに、これはもう「美醜」なんかのレベルでは無く、自分で言うのも何ですが、完全に「異形の怪物」ではありませんか⁉ いくら普段は人間の女の子の姿をしているとはいえ、自分の側に常に侍っているのが、実はこんな化物であるという事実に、一応はただの人間に過ぎない提督が、本当に耐えきれるとおっしゃるのですか⁉』
「え、耐えきれるけど?」
『…………へ?』
「おまえ、僕のこと、何だと思っているの? まさか、美少女の姿をした軍艦をコレクションして、夜な夜なパソコンに向かってブヒブヒ言っている、『萌えゲーオタ』とでも、思っているんじゃないだろうな?」
『え、違うんですか⁉』
「──この魔導大陸きっての、召喚術士兼錬金術師だよ! だからおまえの『素体』を錬成できて、そこにおまえの『人格』を召喚できたんじゃないか⁉」
『……ああ、そういえば、そうでしたね。失礼いたしました』
「もしかして、わかっていて、言ったんじゃないだろうな⁉ おまえだんだんと、いつもの調子を取り戻しつつあるよな?」
『いえいえ、そんな、滅相も無い。──それで、提督が召喚術士兼錬金術師であられることが、どのように関係してくるわけですか?』
「つまりな、召喚術士や錬金術師なんかになろうとか志すやつは、最初から心が壊れているんだよ。人間すらも含めてこの世のすべてが、自分の研究のための『実験材料』としか見ることができない『外道』ばかりで、しかも自分の研究の成果として、世界を滅ぼしかねない魔法物質や大量破壊兵器や想像を絶する怪物の類いを、生み出したって構わないと思っている、百害あって一利なしの歪んだマッドサイエンティストでしかないんだよ。──よって、超常の力を秘めた『怪物』そのもののおまえは、僕みたいな人間の屑にとっては、最も理想的な僕にして研究対象に他ならないのさ」
『……なっ⁉ わ、私が、提督にとっての、最も理想的な、僕にして研究対象、ですって?』




