第245話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その33)
『──提督』
『──提督』
『──提督』
『──提督』
『──提督』
『──提督』
「うわっ! な、何だ、おまえら⁉ よ、よせ、こっちに来るな! そんな大勢で一度に、まとわりついてくるんじゃない!」
先程までまさしく幽霊ならではに、存在感皆無でただ海面をただよっていた、『船幽霊』の少女たちであったが、彼女たちをこの世に召喚した自称『さまよえるオランダ人』の男性が、更に何らかの術を施すことによって、彼の言うところのオランダ王国海軍駆逐艦娘、『バンケルト』へと変身したかと思えば、なぜだか僕のことを軍艦擬人化少女にとっての主である『提督』などと呼ばわりながら、一斉にすがりついてきたのである。
──いやいやいや、ちょっと待って、これって一体、どういうこと?
あの『オランダ船長』の言い分だと、僕はオランダの仇敵である、日本人の異世界転生体みたいなものだから、オランダ海軍の駆逐艦娘である彼女たちはむしろ、僕に攻撃してこないとおかしんじゃないの?
それなのに、何この『提督LOVE勢』ぶりは? このような『濃厚接触』状態では、いろんなところが当たってしまっていて、もう辛抱たまらないんですけど?
「──ふはははは、やけに焦りまくっているようだな? 『提督』殿w」
その時突然かけられる、いかにも痛快そうな声音。
見上げれば『諸悪の根源』が、ボロボロの帆船の舳先にて、ニヤニヤとほくそ笑みながらたたずんでいた。
「ふざけるな、このオランダ野郎! 何で日本人の転生体的存在である僕に、かつての大日本帝国に恨みのある、オランダの軍艦の擬人化少女たちが、まとわりついてくるんだよ⁉」
そんな僕の至極当然の疑問の声に、少しも動ずることなく、
──驚愕の真相を明かす、『あちらの世界』から来た男。
「それは彼女たち、軍艦擬人化少女の、『生い立ち』に由来するのだよ」
「……軍艦擬人化少女の、生い立ちだと?」
「彼女たちは、私が『あちらの世界』にいた時分から、ほんの数年後に勃発した、『大陸風ウィルス』の世界的蔓延によって、全人類が滅亡しかけた時、もはや力尽きていた人間たちに代わって、ウィルス自体や、ウィルスによって肉体的に変異した化物ども──人呼んで『深海の魔女』たちを、殲滅するために生み出された、文字通りの『人型最終決戦兵器』だったのであり、当時生き残っていた人類……すなわち、ウィルスに対して免疫力が極めて高かった、強力なる『日本株のBCG抗体』を体内に有していた者のみを、己の主である『提督』として認識するようになったのだよ」
──‼
人類が、日本株のBCG抗体を有する者以外は、すべて滅んでしまっただと⁉
つまりキヨやこのオランダの駆逐艦娘たちが、僕を主と見なして、完全に服従するのは、日本人の転生体である僕の身には、日本株のBCG抗体が秘められているからなのか?
「……確かに、駆逐艦娘たちが、そもそもの所属国家を問わず、日本人やその転生者のみに従う理由としては、納得がいくが、それってこの御時世においては、いろいろとマズいんじゃないのか?」
『あちらの世界』の現時点においては、BCGワクチンの対新型ウィルスの有効性は、いまだ完全に検証されてはいないからな。
それなのに、『日本人だけが生き残る』なんてフレーズは、あまりにもセンセーショナル過ぎるだろうよ。
「だったら、これの元ネタとなった『艦隊萌え美少女コレクション』ゲームが、基本的に日本国内しかプレイ対象としておらず、自動的に『提督』を日本人と認識するといった、メタ的は理由でもいいけど?」
「それはそれで、まずいだろうが⁉ ──主に、『著作権』的に!」
「某大陸ゲームメーカーのパクリ版みたいに、全世界展開をしていれば、話は違ったかもな」
「やかましい、これ以上無駄に、波風を立てるな!」
実は本作の作者も個人的には、『大陸版』のほうもそれなりに気に入っていたんだけど、三ヶ月もの間放映を延期した挙げ句に、何の面白みも無い最終回を見せられて、完全に見捨ててしまったからな。
「まあ、その時点で生き残っているのが、日本人と、大切なワクチンを分けてもらえる関係の深い国の人間だけなら、軍艦擬人化少女のほうでは、従う主の国籍にこだわる必要も無いか……」
「実は『北の某国』も、日本株のBCGを接種しているそうだぞ? しかもガチの共産国家ゆえに、全人民に強制しているから、本家の日本よりも接種率が高いくらいだしな」
「それって、『あちらの世界』でも指折りの、ヤバい国のことじゃん⁉ かの国の独裁者が、軍艦擬人化少女を使って戦争を起こした日には、大惨事じゃないか!」
「とはいえ、軍艦擬人化少女の開発に成功したのは、あくまでも日本だけだし、そもそも北の王朝自体が、南北間の最終戦争の勃発や、それにかこつけての大陸某国の火事場泥棒的侵攻もあって、国家としては消滅してしまったがな」
「……まあ、おそらく第三次世界大戦レベルの、複数の国家間における複雑な抗争状態になったであろうから、それもあり得るか」
「それに元々、例の国家元首殿は、大陸製の『奇乳艦船ゲーム』のほうに、お熱だったそうだしな」
うわあ、嫌な『感染死』だなあ。どんなヤバいウィルスなんだろう? ……『入れ墨おっぱいウィルス』とか?」
「ただし、そこの娘たちは、あくまでも船幽霊に集合的無意識を介して、『バンケルト』のデータをインストールして変化させた、『紛い物』でしかないがな。──ともあれ、人間一人を拘束するには十分だから、貴殿ももう無駄な抵抗はせずに、素直に従ってもらおうか?」
「──くっ」
まあ、そりゃあそうだろうな。
『紛い物』と言っても、それぞれの周囲に展開している、大砲や機銃のほうは本物みたいだし、ただの人間が太刀打ちなんかできないであろう。
──それに、すでにキヨのほうも、いないんだしな。
この場を逃れたところで、もう僕一人では、教団や帝国に抗う術は無いのだ。
いくら召喚術士や錬金術師として、一流の腕を持っているからと言って、今更キヨの代わりを創ろうとは思えないしな。
そのように、僕がすっかりあきらめかけた、
──その刹那であった。
『ぎゃっ⁉』
『ひぎっ!』
『ぐげっ!』
短い断末魔とともに、突然切り飛ばされる、数名の『バンケルト』たちの生首。
「──な、何が、起こったのだ⁉」
慌てて身を乗り出す、自称『さまよえるオランダ人』。
次の瞬間、その舳先の部分が、丸ごと切断されてしまう。
「ひいっ⁉」
もはやこれまでの余裕の表情をすっかり消し去り、咄嗟に後ろへ飛び退くや、そのまま無様に尻餅をつく。
「……あ、あれは?」
気がつけば、海面から、異様なものが突き出ていた。
──全体的にほとんど色素の抜けきった、青白くぬめった肌に、まるで魚の尾びれのようなものをまとった、巨大な恐竜の尻尾のようなものであった。
『……ワタシノ、あどみなるニ、触レナイデ』
そして続いて浮き上がってくる、同じく死人のごとく青ざめた頭部。
『……海ノ底ハ、暗イノ、寒イノ、寂シイノ』
──その一糸まとわぬ上半身の下に見えるのは、あたかも軍艦と大蛸とを融合したかのような、巨大な異形の体躯。
「……お、おまえは、まさか、まさか」
──キヨ⁉
『……ダカラ、あどみなる。私ト一緒ニ、海ノ底デ眠リマショウ』




