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第242話、【四月バカ】大日本帝国海軍一等駆逐艦夕雲型11番艦、『藤波』、見参!

「──おう、皇子」




 いきなり耳元に熱い吐息まじりにささやきかけられて、深い眠りから一気に目覚めるとともに、反射的にベッドの上で飛び起きて身構えるや、目に飛び込んできたのは、幼い頃から見慣れたはずの自室の、




 紅蓮の炎に包み込まれた、あまりにも変わり果てた姿であった。




「……これは、一体?」


「──侵略軍です! あの蛮族の白オークどもが、帝城に火を放ったとのことです!」


 そのようにベッドの脇からこちらへと身を乗り出すようにして、耳たぶに唇が触れんばかりにまくし立てたのは、およそ十四、五歳ほどの年頃の少女であった。


 彼女こそは、この弓状列島国家神聖帝国『旭光ヒノモト』と、ジパング海を挟んだ位置にある、エイジア大陸西方の王族の出自の第二皇妃の一人息子である、僕ことアミール=アルハル=ジパング付きの侍女であり、その名を『フジ』と言った。


 その外見としては、母方の血を色濃く引き金髪碧眼の僕とは違って、いかにも旭光ヒノモト人らしいつやめく黒髪に黒目の、すこぶる付きの美少女であった。


「……はあ? 何でアメリゴ合衆国軍が、そんな暴挙を? すでに連合国側の『ポムポム王子プリンス宣言』に応じて、無条件降伏することが決まっていると言うのに、世界レベルで歴史的価値があり、歴代の帝族の金銀財宝もしこたま貯め込んでいる、この城が灰燼に帰してしまっちゃ、あいつらにとっても大損だろうが?」



大陸風タイリク・フーウィルスです! 昨日以来の春の嵐により黄砂に乗って、大陸風タイリク・フーウィルスがこの極東の島国にまで運ばれてきて、敵味方を問わず多くの者たちがすでに、病魔に冒されて倒れてしまったのです!」


「──ちょっ、まさか白オークどもは、ウィルスを熱死させるため、火を放ったと言うのか? どこまでむちゃくちゃなんだ、あいつら⁉ ………………って、待てよ? 大陸風タイリク・フーウィルスと言えば、いまだ治療法も確立されてない、超強力な病魔じゃなかったっけ? どうして僕やおまえはピンピンしているんだ?」


「お忘れですか? 私は大陸きっての召喚術士であられた、皇子の御母堂様が召喚なされた、異世界由来の存在。しかも『あちらの世界』の研究所にて、あらゆる環境下に耐え得ることを前提に『創られて』いますので、この世界のウィルスにも耐性があるのです」


「だったら、僕はどうして、平気なんだよ?」




「決まっております。何せこの神聖帝国旭光(ヒノモト)の帝族であられる皇子は、生まれつきあらゆる病魔を無効化する、『BCG抗体』を身の内に秘めておられる、『神に選ばれし存在』なのですから」




「あらゆる病魔を無効化する、だと?」


「ええ、それも最上級の『ニッポン株』であり、だからこそ現代日本から召喚された私は、御母堂様に勧められるままに、あなた様をあるじに選んだのです」


 矢継ぎ早に飛び出してくる、あまりにも驚愕極まるフレーズの連続に、思わず問い返そうとした刹那、荒々しい足音が近づいてくるのが耳に入った。


「──いたぞ!」


「帝族のガキだ!」


「もう一匹、いやがったのか!」


 シンプルだからこそ運動性の良さそうな、近代的な歩兵服に包み込まれた、筋骨隆々たる長身に、猪そのままの厳つい顔の中で爛々と輝く青の瞳に、耳まで裂けた口から除く鋭い牙。


「……白オーク兵」


 ──くっ、こんな帝族のプライベートエリアまで、すでに侵入していたのかよ?


「さすがにここまでは、ウィルスは蔓延していないようだな」


「ようし、とっとと、『処分』してしまおうぜ」


 そう言ってこちらへと、魔導自動小銃を向ける、オークたち。


「な、何をする気だ! こちらの降服の意思は、すでに伝えているはずだぞ⁉」




「ふん、確かにな。──帝族全員の命と引き換えに、帝国民には一切手を出さないという、条件でな」




 ──なっ⁉


「こ、皇帝陛下が、そんな約束をしたと言うのか⁉」


 そんな馬鹿な!


 確かに父上は、常に国民や国家全体のことを優先なされているが、その反面家族想いでもあり、混血児であるために兄弟から阻害されがちな僕のことも、ちゃんと目にかけておられると言うのに。


 そんな当惑しきりの僕のほうへと、哀れみの視線を向ける、隊長格のオーク兵。


「悪いな、身の内にBCG抗体を秘めている帝族は、生かしておくわけにはいかないのだ。おまえにはここで死んでもらおう」


 BCGって、何でそんなものを、すでに戦勝が決まった敵国の一兵卒が、今更重要視しているんだ?


 いくら帝族とはいえ、いまだ十歳とおにも満たない身には、あまりにも予想外の事態の連続に、もはや何が何だかわけがわからなくなり、完全に言葉を失っていると──




「お待ちなさい」




 いかにも自然な身のこなしで、僕とオーク兵との間にするりと割り込むや、両腕を広げて敵兵たちと対峙する、いまだ年端もいかない侍女の少女。


「ふ、フジ⁉」


「このような幼子相手に、大のオトコがよってたかって、恥ずかしくはないのですか、アメリゴの皆様?」


「……やけに威勢のいい、娘っ子だな」


「げひひ、おまえの相手は、その小僧を始末してから、じっくりとしてやるから、大人しくどいてな!」


 そのような下卑たことを言いながら、大きな手のひらを伸ばして、フジをはね除けようとした、先頭のオーク兵であったが、




「──穢らわしい獣人風情が、あるじ様の『所有物』たる、この身に触れるでない!」




 飛び散る、鮮血のしぶき。


 喉元に大きな裂傷を刻まれて、力無くその場に崩れ落ちる、オークの巨体。


 それを冷ややかに見下ろす、返り血で全身を深紅に染め上げた、小柄な少女。




 その両手の白魚のごときじっに、禍々しき漆黒の懐剣を握りしめながら。



「こ、このガキ──ぐぎゃあっ⁉」


「うげっ!」


「ひぎぃっ⁉」


 まるで猟犬のごとき身のこなしで、あっさりと隊長格以外のオーク兵を切り伏せてしまう、我が侍女(マイ・サーヴァント)


 た、確かに、彼女は第二皇子である僕の護衛を兼ねており、武芸を嗜んでいることは知っていたけど、まさかあの屈強なるオークの兵士まで、あっさりと無力化することができるなんて⁉


 たとえ異世界からの召喚物だからって、チート過ぎるだろうが!




 そのように、彼女にとっての『マスター』自身である僕が訝っていたら、それを代弁するかのようにして、隊長さんが感情を殺した低い声音で問いかけた。


「……てめえ、ただの侍女や護衛じゃないな? 一体何者だ!」




 種族は違えど、いい歳した成人男性が、自分のような幼い少女を、本心から警戒している無様な姿に、いかにも堪りかねたようにして、本日初めての笑みをたたえる、我がしもべ




 それは一見、純真無垢なる天使や妖精を彷彿とさせながらも、


 同時に、地獄の獄卒も裸足で逃げ出すほどの、凄みすらも感じさせたのである。




「問われたからには、名乗りましょう。──我こそは、大日本帝国海軍一等駆逐艦、ゆうぐも型11番艦、『ふじなみ』なり!」




 ──そして、次の瞬間。


 彼女の周囲の空間が、唐突に歪曲したかと思えば、




 巨大な砲門を始めとする、凶悪なる兵器の数々が、忽然と出現したのであった。

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