第238話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その27)
……『あちらの世界』の第二次世界大戦の際に、植民地である東インドを奪われた腹いせとして、かつての大日本帝国海軍の駆逐艦清霜の軍艦擬人化少女にして、この剣と魔法のファンタジーワールドきっての召喚術士兼錬金術師である、僕ことアミール=アルハルの僕でもある、見かけ十歳ほどの幼い少女のキヨに、復讐しに現れただと?
「──いやいやいや、そもそも『あちらの世界』で神様の怒りを買って、七年に一度しか陸に上がれなくなり、永遠に大海原をただよい続けなければならないはずの、文字通りの『さまよえるオランダ人』が、どうしてこの世界に異世界転生だか転移だかをしてきて、草原を海面に変貌させるなぞといった、大マジックを披露しているんだよ⁉」
すぐ目の前のボロボロの帆船の舳先にたたずんでいる、海軍調制服をガッチリとした長身にまとっている男を見上げながら、僕は堪らずまくし立てた。
それに対して少しも動じること無く、相変わらず芝居じみた口調の声音が返ってくる。
「おやおや、『永遠に』大海原をさまよい続ける運命──すなわち、神によって事実上の『不老不死』の身にされている我々が、次元の壁を越えて『世界間転移』を実現することが、それほど不思議なのかね?」
「──ぐっ」
た、確かに。
異世界転生だか転移を、『できる勢』と『できない勢』との、大まかに二つに分けるとすると、当然『できる勢』に含まれても、おかしくは無いか……。
「──待て待て待て! 一瞬納得しそうになったけど、あんたらって、いわゆる『幽霊船とその乗組員』のようなものだろうが? そんなあんたたちが異世界転生を行うなんて、筋違いと言うか、ジャンル自体が違うんじゃないのか?」
「ははは、まあ、そうだな。そもそも我々としても、『バタヴィア』にたどり着くことができるのならば、少々の『誤差』くらい許容してもいいが、それでも一応『過去や未来やパラレルワールドのバタヴィア』と言った風に、『バタヴィアであること』自体までは否定するつもりは無かったものの、そういった『最低条件』さえ、ある程度譲歩するならば、バタヴィアそのものと言ってもいい、『新天地』をもたらしてくれることを申し出てくれた、奇特な御仁が現れたのだよ」
「異世界でありながら、バタヴィアそのものだと? それに、そんなことを実現してくれる、御仁て……」
「君もよく知っているだろう? すべての次元において、異世界転生を管理している、唯一無二の宗教組織だよ」
「──っ。そ、それって⁉」
「そう、あらゆる異世界転生系Web小説における、『女神様』という概念の集合体である、『なろうの女神』を御本尊とする、聖レーン転生教団の異端審問第二部の特務司教であられる、ルイス=ラトウィッジ卿だよ」
……やはり、そうか。
──結局、すべての裏には、教団や帝国の影が、つきまとっているわけか。
「もちろん、最初はそんな御都合主義的な存在なんて、無条件に信じるつもりは無かったけれど、何とこの世界は地理的には私が元いた世界とかなり似通っており、アジアそっくりの『エイジア』地域というのが存在していて、その東南方面には東インドそのままの『イーストターバン諸島連合』という国があり、更にはまさにその首都こそが、我が永遠の理想郷バタヴィアを想起させる『ヴァカミタ』であると言うではないか! しかも、こちらの世界で普通に人間として暮らしていくための『肉体』すらも、用意してくれるという、至れり尽くせりぶり。こうなるともはや、承諾しないほうがおかしいではないか?」
「……肉体、だと?」
「先ほど貴殿も言ったように、我々はほとんど幽霊みたいなものだからね。バタヴィア──もとい、ヴァカミタに上陸した後に、人間らしい暮らしを始めるためにも、当然の如く『人間らしい肉体』は、必要かと思うけど?」
「そんなことを聞いているんでは無くて、何だよ、肉体を『用意する』って? そんなことが可能なのかよ⁉」
「ははは、この世界きっての錬金術師兼召喚術士である貴殿が、何を言っているのだ? もちろん、貴殿と『同じこと』をしたなのだけだよ。──まさしく、そっちの憎たらしい軍艦擬人化少女を、この世界に召喚した時のようにね」
「なっ⁉」
思わず傍らにたたずんでいる少女のほうへと振り向けば、相変わらず不機嫌そうな表情を隠すこと無く、『オランダ船長さん』のほうを睨みつけていながらも、唇を開くことは無かった。
「……つまり、あんたらの身体も、『ショゴス』によって、創られているわけか?」
「その通り! いやあ、『あちらの世界』においても、クトゥルフ神話として高名な、不定形暗黒生物ショゴスを、異世界転生の『受け皿』として活用するなぞ、すべてのWeb小説においても、革新的なアイディアと言えるだろう! 何せこのように、『あちらの世界』での私自身と、寸分違わぬ外見や年格好を再現すれば、実のところは『集合的無意識』を介しての『記憶と知識』のインストールでしかない、『異世界転生』方式でありながら、事実上『異世界転移』そのものとも言えるのだからな!」
ううっ、た、確かに!
ショゴスを使って『精神的な』異世界転生させることで、結果的に『物理的な』異世界転移すらも実現させてしまうとは、この作品の作者って、天才かよ⁉
「──てっ、おいっ! 何をいきなり、メタそのもののことを言い出しているんだ⁉ しかも完全に、臭い『自画自賛』だし!」
恥ずかしくは無いのかよ? 完全に『創作者失格』じゃん!
「別に構わないではないか? たとえメタであろうとも、むしろ貴殿こそが、誇るべきなのだぞ?」
「え、ぼ、僕が?」
「左様、文字通り変幻自在なショゴスを『受け皿』にしたからこそ、このファンタジーワールドにおいても、『最強の存在』とも言い得る軍艦擬人化少女を、そのチート的攻撃力及び防御力をそっくりそのまま伴って、転生させることができたのではないか? ──そしてまさしくそれゆえに、我々『さまよえるオランダ人』が、この世界のバタヴィアで再び栄光を取り戻すためには、その小娘を葬り去らなくてはならないのだよ」




