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第237話、デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉(その26)

「……何だと、その地に住む者たちの人権や利益よりも、『世界の安定』のほうこそが優先される、だってえ?」




「だってそうでしょう? いくら『民族自決』を尊んだところで、当のその国家や民族自体が、国外に対しては戦争や難民流出等を、国内においては貧困や病苦や内戦等を、無責任にやりたい放題で野放しにしていたとしたら、周辺諸国としては黙って見ているわけにはいかず、実力行使すら辞さずにその国や民族と事を構えて、健全なる政権に交替させるか、事によっては自分たちで支配するか──等に及んでも、十分妥当な行為かと思いますけど?」


「……なるほど、例えば同じく『あちらの世界』の第二次世界大戦時における、ドイツ第三帝国のように、国内においては特定の民族に対するホロコーストを行ったり、周辺諸国に対しては武力侵略を行ったりし始めたとしたら、世界中の国々で力を合わせて抑えつけるべきだよな」




「もちろんこれは『植民地問題』についても同様で、東南アジアのほぼ全域が欧州列国により植民地化されたと言うことは、武力の差なんかの以前に、『文化として負けた』のであって、本来の劣悪な衛生状況や脆弱な経済基盤のままで放置していたら、ちょっとした天災の到来によって大打撃を受けて、下手したら民族や国そのものが滅びかねないのであり、先進国の支配のもとで文化的進歩を遂げるのは、別にデメリットばかりでは無いのです」




「……う〜ん、それってあまりにも、支配側に寄りすぎた『詭弁』じゃないかなあ? いかにも『植民地支配』や『侵略戦争』を美化して、その正当性をごり押ししているようにしか、聞こえないんだけど? それこそ史実上においては確かに、列強による植民地支配なんてものは、文字通りの『奴隷的労働力による大規模農園経営』以外の何物でも無くて、原住民の人たちにとっては苦役と屈辱の歴史でしか無く、誰もが不当な支配構造を打破して、いつの日か『独立すること』を希っていたはずだろうが?」


「はい、おっしゃる通りそれもまた、『正しい歴史認識』なのであり、現に『あちらの世界』における東南アジアの国々においても、ほとんどすべての国々がすでに独立を果たしております」


「あ、そうだったの?」




「実はこれについても、『歴史の要請』からなるものなのですよ。それぞれの国において独立の気運が高まり、その時点の『世界の実情』と合致すれば、それまで絶対に不可能かと思われた列強諸国との独立戦争も、勝利に導かれることになるのです。──そして世界は、歴史の要求通りに、()()『あるべき姿』となるというわけなのですよ」




 ──っ。


「……つまり、世界と言うものは、常に現時点において最も理想的であり、平和的かつ平穏に『安定』しているが、それに『疑問を呈する』こと自体は自由で、武力等に訴えて『安定』を崩して『変化』を起こした場合においても、それが歴史的に正しく他の国々からも必要性を認められれば、それこそが新たなる『事実』となり、世界は再び『安定』すると言うことか?」


「その通りでござます。『安定』を尊ぶと申しましても、絶対的『不変』に拘泥すれば、結局それは停滞や退廃を生じるだけであり、その『変化』が適切なものであれば、世界はちゃんと受け容れてくれるのです」


「東南アジアの国々が、欧州列強から植民地にされたのも、必然なら、第二次世界大戦を契機に、ほとんどの国が独立を果たしたのも、必然と言うわけか」


「大日本帝国も、当時の『歴史の要請』に従っただけで、戦争自体には敗北したものの、結果的には東南アジアの独立に大いに寄与することになり、けして自国の利益ばかりを追求した『侵略戦争』だったとは、一様に言えないのです」


「……うん? だったらオランダが東南アジアの植民地を失ったもの、『歴史的必然』だったわけで、大日本帝国を恨むのは、筋違いというものだろう? 何せそれまでは散々、現地の人から『搾取』していたわけだしな」




「──そんなに易々と納得できるか! オランダが大国だったのも、大戦当時においてもすでに昔話となっており、東南アジアの植民地こそが文字通りの『生命線』だったと言うのに、下等な黄色人種の日本人ごときが武力侵攻してきたせいで、すべてを失ってしまったんだぞ⁉」




 僕の至極当然な客観的意見に、顔を紅潮させて猛反駁する、先ほど『さまよえる()()()()人』と名乗ったばかりの壮年男性。


 ……いやその、白色人種ならではの差別意識こそが、諸悪の根源なんでしょうが?


「ていうか、貴様、そもそもこの草原が、突然大海原に変わってしまったことに、何も疑問を感じないのか?」


「──あっ、そういえば、そうだった! どうしてこんな重要なことを、忘れていたんだろう⁉」


「……まあ確かに、この世界は何が起こってもおかしくはない、剣と魔法のファンタジーワールドであるが、もうちょっと驚いてもらわないと、いかにも意味深に登場した、こっちの立場が無いんだが?」


「す、すみません、何かいきなり、日本とオランダとの昔の因縁話なんぞが始まったせいで、つい熱中して聞き入ってしまったものだから………それで、どうしてそんなボロボロの船なんかに乗っているのです? いい加減降りればいいのに」


 こっちとしても、あんたが突っ立っている舳先のほうを見上げ続けているもんで、そろそろ首が痛くなってきたんですけど?


「それが残念ながら、降りられないのだよ」


「降りられない、って?」




「──そう、何せ我々こそは、当時オランダの植民地であった、東インドのバタヴィアを目指して船出しながらも、南アフリカのぼうきょうにて、ふとしたことから神の怒りを買ってしまい、永遠に海上をさまようことを運命づけられた、哀れなる船乗りたちなのだからな!」




 え、永遠に、この大海原の上を、さまよい続けているだと⁉


「あっ、だから、『()()()()()オランダ人』なのか?」


「左様、よって我々は、七年に一度の神に許された日にしか、船から降りて大地を踏むことができないのだよ」


 だからといって、大草原を、海面に変えたりするかあ?


 つまりこいつって、こんな大規模な魔術を意のままに行使することのできる、相当な『術者』というわけなのか?


 こりゃあ、慎重に対応したほうが、良さそうだな。


「……それで、どうしてその、『神の怒りを買った船乗り』が、わざわざ異世界転生をしてまで、かつての大日本帝国海軍の軍艦擬人化少女である、キヨの前に現れたんだ?」


「もちろん、その『裏切り者』に、復讐をするためさ」


「何?」




「実は80年ほど前の第二次世界大戦中に一度だけ、バタヴィアに上陸するチャンスが巡ってきたのだが、当時東インドを占領していた大日本帝国海軍と激しく争うことになり、『神の軍隊』であるきゃつらには、呪われた身では勝つことはできず、たった一度の大願成就の大チャンスを、無念にも逃してしまったというわけなのだよ」

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